5 / 48
前編 猫馬鹿狛犬編
5話 お土産と、灯る街の光
しおりを挟む
夕暮れの柔らかな光が、神社の石段を包み込んでいた。蝉の声が耳に届く中で、狛犬はご機嫌に石段を上る。
その両手には、三毛猫ミーへのおやつが入ったレジ袋が下げられていた。
「ふぅ、土産ってもんはいいもんだねぇ。
いつもは、もらう側だが。
あげる側はもっといい」
渡す相手のことを思い浮かべていられるし。
なんてったって、その間ずっとワクワクできる。
誰かに何かを贈る喜びで、狛犬の心がじんわりと温まった。
石の姿で神社を守っていただけのころには、味わえなかった気持ち。
狛犬は浮かれた、酒に酔っているわけでもないのに千鳥足で石段をふらふらとのぼる。
狛犬はミーに金銀、真珠にサンゴの詰まった宝箱でも贈ってやりたい気持ちでいっぱいだ。
いやいや、それは猫に小判だなと思い直し、赤い首輪とよく鳴る鈴はどうだろうか?とつぶやいた。もちろん真剣な顔だ。
しかし、あの子は気まぐれな猫。
しょせん、自分は人の身を得て間もない身ゆえ、ついてきてはくれまい。
そんな気にもなっていた。
なかなか、複雑な男心である。
神社山頂に戻るとちょうど日が暮れた。
蝉のなき声はまだうるさいが、きのうよりも空の色がうつくしいと彼は思う。
そして明日はもっときれいな空が見られるはずだ。
そして、いつものように、でもいつもより遅い時間に、待ち焦がれた猫のミーが、ひょっこり姿を現した。
ミーはカリカリ(ドライフード)の袋を見ただけでそれがなんなのか、そして自分のためのものだということが分かったようだった。
準備しておいた欠けた皿にカリカリを入れて差し出した。
「さぁ、おたべ」
カリカリカリ……。
ミーは勢いよく音をたて食べた。
ミーは狛犬に喜びを伝えた。
ミ~、ニャー、ミー!(やった!嬉しい!猫おばさんの家の晩ごはん、今日は大きい猫たちがいて食べられなかった、お腹ペコペコだったの!)
それは人間の言葉にはならなかったが、ミーの喜びは伝わったようだ。
「これも、おたべ」
狛犬はちゅるちゅるの細長いパウチの封を切った。
ちゅるちゅるは、猫に大人気のペースト状のおやつだ。
パッケージには、毛足の長い白猫が優雅にほほ笑んでいる。
これはなぁに?とでも言いたげに、ミーがかわいらしく小首をかしげ狛犬を見上げた。
おそらく、ちゅるちゅるは、誰からももらったことがないのだろう。
袋を鼻先寸前に近づけると勢いよくなめ始めた。
それまでとは目の輝きが違う。
「そんなに好きか。さすがキツネママおすすめだ」
ミーは夢中で味わった。
(こんなにも美味しいものがあったなんて。
それに、独り占めして食べられるなんてステキ!)
仲間の先輩猫達には笑われるかもしれないがミーは、はじめての夏にただただ驚いていた。
「はは、ミーちゃん、すごい食べっぷりだな。」
狛犬は無邪気に喜んだ。
***
狛犬とミーはその日遅くまで過ごした。
日が落ちてもなんとなく離れがたかったのだ。
1人と1匹は、高台の神社から、街に明かりがともるのをながめた。
光をみているとなんだかじんわりとしてくるのはなぜだろう?
狛犬の視界がかすかににじむ。
夜風が二人の頬を撫でていく。
風に乗って、ほのかな夏草の香りがここまで届く。
家々の灯りを見て感じた不思議な気持ち。その謎が解けた。
そうだ、隣にこのミーちゃんがいるからだ。
至極簡単に疑問がとけて狛犬はご機嫌だ。
ミーもきっと同じ気分だろう。
一人で食べるごはんは、なんとなく味気ない。
そして、あやかしも人の訪れも少なくなった神社。
なぜ?人やあやかしは減った?
それはきっと自分などの考えがおよばぬような複雑で、難しい問題なのだろう。
けれど、それは神社を守るものとしてしっかりと向き合わなければならぬことだと狛犬は肝に銘じた。
彼は改めて、自分が守る町の光一つ一つを愛おしく思う。
ミーが教えてくれたそれは、夏の魔術のようだ。
人間としての孤独が広がる夜空と町の灯りに溶けていく。
その両手には、三毛猫ミーへのおやつが入ったレジ袋が下げられていた。
「ふぅ、土産ってもんはいいもんだねぇ。
いつもは、もらう側だが。
あげる側はもっといい」
渡す相手のことを思い浮かべていられるし。
なんてったって、その間ずっとワクワクできる。
誰かに何かを贈る喜びで、狛犬の心がじんわりと温まった。
石の姿で神社を守っていただけのころには、味わえなかった気持ち。
狛犬は浮かれた、酒に酔っているわけでもないのに千鳥足で石段をふらふらとのぼる。
狛犬はミーに金銀、真珠にサンゴの詰まった宝箱でも贈ってやりたい気持ちでいっぱいだ。
いやいや、それは猫に小判だなと思い直し、赤い首輪とよく鳴る鈴はどうだろうか?とつぶやいた。もちろん真剣な顔だ。
しかし、あの子は気まぐれな猫。
しょせん、自分は人の身を得て間もない身ゆえ、ついてきてはくれまい。
そんな気にもなっていた。
なかなか、複雑な男心である。
神社山頂に戻るとちょうど日が暮れた。
蝉のなき声はまだうるさいが、きのうよりも空の色がうつくしいと彼は思う。
そして明日はもっときれいな空が見られるはずだ。
そして、いつものように、でもいつもより遅い時間に、待ち焦がれた猫のミーが、ひょっこり姿を現した。
ミーはカリカリ(ドライフード)の袋を見ただけでそれがなんなのか、そして自分のためのものだということが分かったようだった。
準備しておいた欠けた皿にカリカリを入れて差し出した。
「さぁ、おたべ」
カリカリカリ……。
ミーは勢いよく音をたて食べた。
ミーは狛犬に喜びを伝えた。
ミ~、ニャー、ミー!(やった!嬉しい!猫おばさんの家の晩ごはん、今日は大きい猫たちがいて食べられなかった、お腹ペコペコだったの!)
それは人間の言葉にはならなかったが、ミーの喜びは伝わったようだ。
「これも、おたべ」
狛犬はちゅるちゅるの細長いパウチの封を切った。
ちゅるちゅるは、猫に大人気のペースト状のおやつだ。
パッケージには、毛足の長い白猫が優雅にほほ笑んでいる。
これはなぁに?とでも言いたげに、ミーがかわいらしく小首をかしげ狛犬を見上げた。
おそらく、ちゅるちゅるは、誰からももらったことがないのだろう。
袋を鼻先寸前に近づけると勢いよくなめ始めた。
それまでとは目の輝きが違う。
「そんなに好きか。さすがキツネママおすすめだ」
ミーは夢中で味わった。
(こんなにも美味しいものがあったなんて。
それに、独り占めして食べられるなんてステキ!)
仲間の先輩猫達には笑われるかもしれないがミーは、はじめての夏にただただ驚いていた。
「はは、ミーちゃん、すごい食べっぷりだな。」
狛犬は無邪気に喜んだ。
***
狛犬とミーはその日遅くまで過ごした。
日が落ちてもなんとなく離れがたかったのだ。
1人と1匹は、高台の神社から、街に明かりがともるのをながめた。
光をみているとなんだかじんわりとしてくるのはなぜだろう?
狛犬の視界がかすかににじむ。
夜風が二人の頬を撫でていく。
風に乗って、ほのかな夏草の香りがここまで届く。
家々の灯りを見て感じた不思議な気持ち。その謎が解けた。
そうだ、隣にこのミーちゃんがいるからだ。
至極簡単に疑問がとけて狛犬はご機嫌だ。
ミーもきっと同じ気分だろう。
一人で食べるごはんは、なんとなく味気ない。
そして、あやかしも人の訪れも少なくなった神社。
なぜ?人やあやかしは減った?
それはきっと自分などの考えがおよばぬような複雑で、難しい問題なのだろう。
けれど、それは神社を守るものとしてしっかりと向き合わなければならぬことだと狛犬は肝に銘じた。
彼は改めて、自分が守る町の光一つ一つを愛おしく思う。
ミーが教えてくれたそれは、夏の魔術のようだ。
人間としての孤独が広がる夜空と町の灯りに溶けていく。
0
あなたにおすすめの小説
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる