あやかし喫茶店エコー:時巡る風流一座と街の秘密

チャイ

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前編 猫馬鹿狛犬編

5話 お土産と、灯る街の光

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夕暮れの柔らかな光が、神社の石段を包み込んでいた。蝉の声が耳に届く中で、狛犬はご機嫌に石段を上る。
その両手には、三毛猫ミーへのおやつが入ったレジ袋が下げられていた。

「ふぅ、土産ってもんはいいもんだねぇ。
いつもは、もらう側だが。
あげる側はもっといい」

渡す相手のことを思い浮かべていられるし。
なんてったって、その間ずっとワクワクできる。

誰かに何かを贈る喜びで、狛犬の心がじんわりと温まった。

石の姿で神社を守っていただけのころには、味わえなかった気持ち。

狛犬は浮かれた、酒に酔っているわけでもないのに千鳥足で石段をふらふらとのぼる。

狛犬はミーに金銀、真珠にサンゴの詰まった宝箱でも贈ってやりたい気持ちでいっぱいだ。

いやいや、それは猫に小判だなと思い直し、赤い首輪とよく鳴る鈴はどうだろうか?とつぶやいた。もちろん真剣な顔だ。


しかし、あの子は気まぐれな猫。
しょせん、自分は人の身を得て間もない身ゆえ、ついてきてはくれまい。
そんな気にもなっていた。

なかなか、複雑な男心である。

神社山頂に戻るとちょうど日が暮れた。
蝉のなき声はまだうるさいが、きのうよりも空の色がうつくしいと彼は思う。
そして明日はもっときれいな空が見られるはずだ。

そして、いつものように、でもいつもより遅い時間に、待ち焦がれた猫のミーが、ひょっこり姿を現した。

ミーはカリカリ(ドライフード)の袋を見ただけでそれがなんなのか、そして自分のためのものだということが分かったようだった。

準備しておいた欠けた皿にカリカリを入れて差し出した。
「さぁ、おたべ」
カリカリカリ……。
ミーは勢いよく音をたて食べた。

ミーは狛犬に喜びを伝えた。
ミ~、ニャー、ミー!(やった!嬉しい!猫おばさんの家の晩ごはん、今日は大きい猫たちがいて食べられなかった、お腹ペコペコだったの!)
それは人間の言葉にはならなかったが、ミーの喜びは伝わったようだ。

「これも、おたべ」
狛犬はちゅるちゅるの細長いパウチの封を切った。
ちゅるちゅるは、猫に大人気のペースト状のおやつだ。
 
パッケージには、毛足の長い白猫が優雅にほほ笑んでいる。
 
これはなぁに?とでも言いたげに、ミーがかわいらしく小首をかしげ狛犬を見上げた。 
おそらく、ちゅるちゅるは、誰からももらったことがないのだろう。
 
袋を鼻先寸前に近づけると勢いよくなめ始めた。
それまでとは目の輝きが違う。

 
「そんなに好きか。さすがキツネママおすすめだ」

ミーは夢中で味わった。
(こんなにも美味しいものがあったなんて。
それに、独り占めして食べられるなんてステキ!)

仲間の先輩猫達には笑われるかもしれないがミーは、はじめての夏にただただ驚いていた。

「はは、ミーちゃん、すごい食べっぷりだな。」
狛犬は無邪気に喜んだ。
 
***
 
狛犬とミーはその日遅くまで過ごした。
日が落ちてもなんとなく離れがたかったのだ。
 
1人と1匹は、高台の神社から、街に明かりがともるのをながめた。
 
光をみているとなんだかじんわりとしてくるのはなぜだろう?
狛犬の視界がかすかににじむ。
 
夜風が二人の頬を撫でていく。
風に乗って、ほのかな夏草の香りがここまで届く。
 
家々の灯りを見て感じた不思議な気持ち。その謎が解けた。
  
そうだ、隣にこのミーちゃんがいるからだ。
至極簡単に疑問がとけて狛犬はご機嫌だ。
ミーもきっと同じ気分だろう。


一人で食べるごはんは、なんとなく味気ない。
そして、あやかしも人の訪れも少なくなった神社。

なぜ?人やあやかしは減った?
それはきっと自分などの考えがおよばぬような複雑で、難しい問題なのだろう。

けれど、それは神社を守るものとしてしっかりと向き合わなければならぬことだと狛犬は肝に銘じた。

彼は改めて、自分が守る町の光一つ一つを愛おしく思う。

ミーが教えてくれたそれは、夏の魔術のようだ。
人間としての孤独が広がる夜空と町の灯りに溶けていく。
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