あやかし喫茶店エコー:時巡る風流一座と街の秘密

チャイ

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前編 猫馬鹿狛犬編

8話 100年に一度の伝説と新しい出会い

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いよいよ夏まつりの準備だ。
「おまえらー終わったら、焼肉だから頑張れよー」
年季の入った麦わら帽子と首にタオルを巻いた親父さんに声をかけられたのは近所の中学生たちで、へーいと声を返した。

「焼肉目指して、がんばんべー」

大方作業を終えた中学生たちが、日陰で冷たいジュースを飲んでいる。

「なぁ、みんな知ってる?」
マー君と呼ばれた彼が、無意識にワントーン落とした声で話し始めた。
「姉ちゃんから聞いたんだけど、この神社の狛犬、100年に一度、化けるんだってさ。人間に」

狛犬は耳を澄ませた。

「はぁ?」
とみなは一瞬あっけにとられたがすぐに、けたけたと笑いだした。
中には腹を抱えるものまでいる。

「ありえねー、子供だましすぎ。
マー君やばいってそれ。
あの姉さんに、また騙されてるんじゃない?
お前の姉さん、たしかに顔は広いけどさ」

マー君は頬を膨らませて反論する。

「そういうなよ、ボクの姉さん、この前、猫のことなら何でも知ってる、近所のすげぇおばさんと知り合ってさ。
通称猫おばさん。
ここにもかわいい子がいるって言ってたよ」

彼は動物好きなのだ、そして続ける。
「あとさぁ、ボクもさ、聞いたことあるんだよ。
100年に一度とは知らなかったけど。
ボク、小、中で「郷土クラブ」だろ?
あれって、ここらの寺やら古墳、神社に実際にいったりするんだぜ」
マー君はキョロキョロと周囲を見回した、何かを警戒するように。

「で、聞いちゃったんだよ、ここの先代の神主さんに。変身伝説の古文書が残ってるって。その時さ、いつもは優しそうな神主さんが、なぜかすごく怖い顔をしてたんだ」

「ふーん、でもやっぱなぁ」
他の子たちは納得できないという表情だ。

「へ、変身伝説???
あはは、マー君、イマドキ子供のアニメでもないってば。
宇宙の平和を守るため、変身戦隊、狛犬マンってか?」
一番のお調子者がおどけて変身ポーズをとった。

「でもさ、うちらの風流市って……。
怖い話多くない?」
それには一同が深くうなづいた。

「そうそう、妖怪に都市伝説。七不思議どころじゃないよな」
「だべ、この間も有名な心霊ユーチューバーがさ」
ある者はスマホを取り出し、検索し始めた。

「魔魔町2丁目の古い団地の話。知ってるか?誰もいないはずの部屋から、夜中にピアノの音が聞こえるってやつ。」

おーいと、タオル親父が呼んだ。
怪談会はお開きとなり、彼らは夏祭り準備へ足早に戻っていった。

物陰にいた狛犬は興奮し、小刻みに震えていた。
それは喜びの震えだった。

「100年に一度の何て大幸運!やっぱり、あっしの神様はすごい神様ですね」
狛犬は信じられないと言った表情で振り返り古ぼけた社殿を見つめた。
なんだか、厳かに光り輝いて見えるではないか。
狛犬の瞳は希望にうるんでいる。

その輝きの中に、狛犬は、遠い昔から脈々と受け継がれてきた、神獣としての微かな使命のようなものを感じ取った。それが何なのか、まだ具体的な形にはならないが、彼を人間へと変えた力が、単なる偶然ではないことを示唆しているようだった。

「犬じゃなくて、ああ本当によかった。
なんせあっしは狛犬だ。犬じゃあない。そこが肝心要のところよ!」
己に言い聞かせるように、ドンっと力強く胸を叩いた。

しかも!こうして走れる手足もできたことだ。
これはきっと、愛しのかわいこちゃんに告白をして、共に暮らすよう誘えという、神のお導きに他ならないってことでやんすね!
狛犬は目を閉じて胸に手をやった。高鳴る胸の動悸が、うるさいほどだ。
深く深く息を吐いた。

さぁ、もう一度ミーちゃんをかわいがろう。
狛犬は、ミーを探した、すぐ近くにいるはずだ。

「どうしたの?」
その声は、猫の耳に心地よく響いた。
人間は怖い、と先輩猫は言っていたが、この声は、そうではなかった。

そう思った瞬間、ミーはふわりと宙に浮いた。
怖いとは思わなかった。

彼は、さきほどのマー君だった。ミーを抱き上げていた。
「ん?三毛ちゃんだね。ミーちゃん?」

話してはいけない、近づいてはいけないのは人間の大人だと先輩猫は言っていた。
ミーは名前を呼ばれうれしくなり、思わずミヤーンと鳴いた。

しっぽも揺れている。

マー君も、にこにことと猫に話しかけている。
「かわいいなー、三毛だからメスだね。
このこかな、そのかわいい猫って。
子猫じゃないけど大人じゃないっていってたし。
野良なんかな、やっぱり」
頭をそっと撫で成功すると今度はあごの方に手を伸ばした。

それを見ていた友人は
「へー、マー君、猫飼ったことないのに、上手だね」
と感心した。
ミーも満足そうにゴロゴロのどを鳴らす。

「そうでやんすか、ミーちゃんはやっぱり誰の目から見ても
かわいこちゃん・・・」
うれしいような、さみしいような
相反する、あるいは裏と表のような感情が狛犬にわきあがった。
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