あやかし喫茶店エコー:時巡る風流一座と街の秘密

チャイ

文字の大きさ
32 / 48
後編 影追い、戦う者たち編

31話 異変覚醒と戦いの鐘

しおりを挟む
喫茶店エコーのドアに貼られた「しばらく休業します」の張り紙が、商店街の住人たちにちょっとしたパニックを引き起こしていた。

「え!マスター休むって本当? 夫婦喧嘩の避難所が閉鎖されたら、うち崩壊しちゃうよ!」 パン屋の主人・井上が、信じられないという顔で張り紙を指さしている。

「休業なんて滅多にしないからねぇ。何?宝くじでも当たった?」 今度は元金髪ヤンキー姉御肌の八百屋のおかみが腕を組んで現れた。
普段は気さくだが、今日に限ってその視線が妙に鋭い。

ノリさんがちょっと苦笑いしながら答えた。「いやいや、宝くじはハズレっぱなしですよ。なんて言うかねぇ、ちょっと特別な状況でして……」
「特別な状況ぉ?」おかみは更に詰め寄るが、マスターが背後からフォローしてドアを閉めた。

二人はため息をつきつつ顔を見合せた。
「この商店街まで、どうなってんの?」
「これも鳴動器の不協和音の影響ですよ」

エコー店内では、月彦が気だるげに長い足を組み、考え込んでいた。かたわらに虎二。
端正な顔立ちだが男らしい虎二とジェンダーレスな月彦。
二人がただ座っている、それだけで、その場にはモードな空気感が漂い、さながらMV(ミュージックビデオ)の一場面と化していた。

時計が朝の10時をさした。
「さぁ、会議を始めましょう」
月彦の声は、その場の空気を一瞬で引き締めた。

「あの装置は、あやかしの根源たる妖力を奪い、人間社会に不和をもたらす『不協和音』を流し続けています。この機械、名付けて――」
月彦は、間を取った。
「『禍音(まがね)の鳴動器』です」

「さすが坊ちゃま、よき命名です!!」
虎二が、待ってましたとばかりに、パチパチと盛大な拍手で場を盛り上げる。
他の面々は、その名前に中二病っぽい響きを感じたが、口にはできない。
ノリさんも下を向き、苦笑いをこぼすだけだ。

月彦は、虎二の盛り上げなど気にも留めず、淡々と話を続けた。
「禍音(まがね)の鳴動器の音波は特定の周波数であやかしに作用し、人間社会に不和をもたらしている。この装置を止めるには、破壊するか、製作者の思惑を断つ必要がある。」

誰もが固唾を飲んで見守る中、月彦は核心に触れた。

「そして、この装置の出所は、高名な妖匠が関わっているようです。
かつて、あの第一映画館の回転木馬のからくり時計を作り上げた妖匠です」
第一映画館は、映画が街の華だった時代に建てられた、町でも屈指の洋風建築の劇場だ。
正面にある回転木馬のからくり時計は、今もなお時を刻み続け、かつては待ち合わせの名所として親しまれていた。


「その話もっと詳しく調べたいな、コアの部品はもしかしたら建て替え前とおなじかもしれないし」
マスターがふむふむとメモを取る。

「そして、中心部分は付け替え可能。持ち運びできるポータブルサイズにもなり、大型の箱に埋め込めば巨大な据え置き型にもなる」
「へ~便利だねぇ、家電みたいだなぁ」
ノリさんが真顔で感心し、皆ににらまれた。

「でもって、妖匠とはねぇ?これまた昔の漫画的っぽいよな、ネーミングセンスが」
ノリさんは心の中でツッコミを入れた。

月彦は、テーブルに広げられた地図の特定の一点を指した。
「破壊のためには、その場所へ侵入し、その周波数をどうにかすることだ。そして…………音吉君の楽器の音色が、その鍵を握る可能性が高い。」

彼の言葉に、狸青年は息をのんだ。

「とりあえず、狸君はあなたのクラリネットの練習を続けてください。その音が、この街を救う糸口になるかもしれない。」

「は、はい!」
狸青年は反射的に答えた。もちろん、月彦に言われずとも彼は練習するだろう。

懐かしい故郷の思い出。
村の友人たちから夢を笑われたこと。
お客さんから、がんばれと、はげまされたこと。
人間もあやかしも、いいも悪いもいろいろだ。

「さて、どこで練習しようかな?」

「それなら、児珠神社でやんすね。」
狛犬が、当然のように言った。

「ノリさん!また出番だ」
「あいよ、車出すよ!」
マスターの呼びかけにノリさんは快く応じ、鍵を手に立ち上がった。

「あ、待って待って、みなさん!」
猫社長が焦ったように時計を見ながら言った。
「実はね、フードデリバリー頼んであるんだけど、もう2時間も遅れてて…………。
ピザとか唐揚げとか、さっきからアプリの配達員が同じ場所をぐるぐる回ってるみたいなんだ」

その時、喫茶店のドアが勢いよく開き、息を切らした配達員が飛び込んできた。
「なにかあったんですか、こんなに遅れて?」マスターが尋ねる。
配達員は疲れた顔で額の汗をぬぐった。

「いやー、大変なんですよ今日! 道が妙に混んでるわ、みんなピリピリしてて、小競り合いばかりで……おまけに鳥が電線の上でギャアギャア鳴いて、野次馬までやってきて!」
彼はぼやきながら、冷めかけたピザの箱と唐揚げのパックを置いた。

これらは偶然か?

猫社長差し入れのピザに唐揚げ、サンドイッチをマスターは盛りつけながらカットフルーツがそえた。彩りがよくなり食欲がそそられる。
「さぁ、温かいスープもどうぞ」
「冷凍をチンだけど、このメーカーおすすめ!」
湯気がたつスープをノリさんが配る。

緊迫した会議の空気が、少しずつ和らいでいく。
「このサンドイッチ、猫の形でやんす!」
狛犬が、目を輝かせて言った。

「このから揚げの下味は塩こうじ。なるほど唐揚げ大賞ダイヤモンド賞をとっただけありますね、月彦様!」
「ふん、ボクは普通のから揚げでかまわない」
皿の上のごちそうが、みるみる空っぽになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...