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後編 影追い、戦う者たち編
31話 異変覚醒と戦いの鐘
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喫茶店エコーのドアに貼られた「しばらく休業します」の張り紙が、商店街の住人たちにちょっとしたパニックを引き起こしていた。
「え!マスター休むって本当? 夫婦喧嘩の避難所が閉鎖されたら、うち崩壊しちゃうよ!」 パン屋の主人・井上が、信じられないという顔で張り紙を指さしている。
「休業なんて滅多にしないからねぇ。何?宝くじでも当たった?」 今度は元金髪ヤンキー姉御肌の八百屋のおかみが腕を組んで現れた。
普段は気さくだが、今日に限ってその視線が妙に鋭い。
ノリさんがちょっと苦笑いしながら答えた。「いやいや、宝くじはハズレっぱなしですよ。なんて言うかねぇ、ちょっと特別な状況でして……」
「特別な状況ぉ?」おかみは更に詰め寄るが、マスターが背後からフォローしてドアを閉めた。
二人はため息をつきつつ顔を見合せた。
「この商店街まで、どうなってんの?」
「これも鳴動器の不協和音の影響ですよ」
エコー店内では、月彦が気だるげに長い足を組み、考え込んでいた。かたわらに虎二。
端正な顔立ちだが男らしい虎二とジェンダーレスな月彦。
二人がただ座っている、それだけで、その場にはモードな空気感が漂い、さながらMV(ミュージックビデオ)の一場面と化していた。
時計が朝の10時をさした。
「さぁ、会議を始めましょう」
月彦の声は、その場の空気を一瞬で引き締めた。
「あの装置は、あやかしの根源たる妖力を奪い、人間社会に不和をもたらす『不協和音』を流し続けています。この機械、名付けて――」
月彦は、間を取った。
「『禍音(まがね)の鳴動器』です」
「さすが坊ちゃま、よき命名です!!」
虎二が、待ってましたとばかりに、パチパチと盛大な拍手で場を盛り上げる。
他の面々は、その名前に中二病っぽい響きを感じたが、口にはできない。
ノリさんも下を向き、苦笑いをこぼすだけだ。
月彦は、虎二の盛り上げなど気にも留めず、淡々と話を続けた。
「禍音(まがね)の鳴動器の音波は特定の周波数であやかしに作用し、人間社会に不和をもたらしている。この装置を止めるには、破壊するか、製作者の思惑を断つ必要がある。」
誰もが固唾を飲んで見守る中、月彦は核心に触れた。
「そして、この装置の出所は、高名な妖匠が関わっているようです。
かつて、あの第一映画館の回転木馬のからくり時計を作り上げた妖匠です」
第一映画館は、映画が街の華だった時代に建てられた、町でも屈指の洋風建築の劇場だ。
正面にある回転木馬のからくり時計は、今もなお時を刻み続け、かつては待ち合わせの名所として親しまれていた。
「その話もっと詳しく調べたいな、コアの部品はもしかしたら建て替え前とおなじかもしれないし」
マスターがふむふむとメモを取る。
「そして、中心部分は付け替え可能。持ち運びできるポータブルサイズにもなり、大型の箱に埋め込めば巨大な据え置き型にもなる」
「へ~便利だねぇ、家電みたいだなぁ」
ノリさんが真顔で感心し、皆ににらまれた。
「でもって、妖匠とはねぇ?これまた昔の漫画的っぽいよな、ネーミングセンスが」
ノリさんは心の中でツッコミを入れた。
月彦は、テーブルに広げられた地図の特定の一点を指した。
「破壊のためには、その場所へ侵入し、その周波数をどうにかすることだ。そして…………音吉君の楽器の音色が、その鍵を握る可能性が高い。」
彼の言葉に、狸青年は息をのんだ。
「とりあえず、狸君はあなたのクラリネットの練習を続けてください。その音が、この街を救う糸口になるかもしれない。」
「は、はい!」
狸青年は反射的に答えた。もちろん、月彦に言われずとも彼は練習するだろう。
懐かしい故郷の思い出。
村の友人たちから夢を笑われたこと。
お客さんから、がんばれと、はげまされたこと。
人間もあやかしも、いいも悪いもいろいろだ。
「さて、どこで練習しようかな?」
「それなら、児珠神社でやんすね。」
狛犬が、当然のように言った。
「ノリさん!また出番だ」
「あいよ、車出すよ!」
マスターの呼びかけにノリさんは快く応じ、鍵を手に立ち上がった。
「あ、待って待って、みなさん!」
猫社長が焦ったように時計を見ながら言った。
「実はね、フードデリバリー頼んであるんだけど、もう2時間も遅れてて…………。
ピザとか唐揚げとか、さっきからアプリの配達員が同じ場所をぐるぐる回ってるみたいなんだ」
その時、喫茶店のドアが勢いよく開き、息を切らした配達員が飛び込んできた。
「なにかあったんですか、こんなに遅れて?」マスターが尋ねる。
配達員は疲れた顔で額の汗をぬぐった。
「いやー、大変なんですよ今日! 道が妙に混んでるわ、みんなピリピリしてて、小競り合いばかりで……おまけに鳥が電線の上でギャアギャア鳴いて、野次馬までやってきて!」
彼はぼやきながら、冷めかけたピザの箱と唐揚げのパックを置いた。
これらは偶然か?
猫社長差し入れのピザに唐揚げ、サンドイッチをマスターは盛りつけながらカットフルーツがそえた。彩りがよくなり食欲がそそられる。
「さぁ、温かいスープもどうぞ」
「冷凍をチンだけど、このメーカーおすすめ!」
湯気がたつスープをノリさんが配る。
緊迫した会議の空気が、少しずつ和らいでいく。
「このサンドイッチ、猫の形でやんす!」
狛犬が、目を輝かせて言った。
「このから揚げの下味は塩こうじ。なるほど唐揚げ大賞ダイヤモンド賞をとっただけありますね、月彦様!」
「ふん、ボクは普通のから揚げでかまわない」
皿の上のごちそうが、みるみる空っぽになった。
「え!マスター休むって本当? 夫婦喧嘩の避難所が閉鎖されたら、うち崩壊しちゃうよ!」 パン屋の主人・井上が、信じられないという顔で張り紙を指さしている。
「休業なんて滅多にしないからねぇ。何?宝くじでも当たった?」 今度は元金髪ヤンキー姉御肌の八百屋のおかみが腕を組んで現れた。
普段は気さくだが、今日に限ってその視線が妙に鋭い。
ノリさんがちょっと苦笑いしながら答えた。「いやいや、宝くじはハズレっぱなしですよ。なんて言うかねぇ、ちょっと特別な状況でして……」
「特別な状況ぉ?」おかみは更に詰め寄るが、マスターが背後からフォローしてドアを閉めた。
二人はため息をつきつつ顔を見合せた。
「この商店街まで、どうなってんの?」
「これも鳴動器の不協和音の影響ですよ」
エコー店内では、月彦が気だるげに長い足を組み、考え込んでいた。かたわらに虎二。
端正な顔立ちだが男らしい虎二とジェンダーレスな月彦。
二人がただ座っている、それだけで、その場にはモードな空気感が漂い、さながらMV(ミュージックビデオ)の一場面と化していた。
時計が朝の10時をさした。
「さぁ、会議を始めましょう」
月彦の声は、その場の空気を一瞬で引き締めた。
「あの装置は、あやかしの根源たる妖力を奪い、人間社会に不和をもたらす『不協和音』を流し続けています。この機械、名付けて――」
月彦は、間を取った。
「『禍音(まがね)の鳴動器』です」
「さすが坊ちゃま、よき命名です!!」
虎二が、待ってましたとばかりに、パチパチと盛大な拍手で場を盛り上げる。
他の面々は、その名前に中二病っぽい響きを感じたが、口にはできない。
ノリさんも下を向き、苦笑いをこぼすだけだ。
月彦は、虎二の盛り上げなど気にも留めず、淡々と話を続けた。
「禍音(まがね)の鳴動器の音波は特定の周波数であやかしに作用し、人間社会に不和をもたらしている。この装置を止めるには、破壊するか、製作者の思惑を断つ必要がある。」
誰もが固唾を飲んで見守る中、月彦は核心に触れた。
「そして、この装置の出所は、高名な妖匠が関わっているようです。
かつて、あの第一映画館の回転木馬のからくり時計を作り上げた妖匠です」
第一映画館は、映画が街の華だった時代に建てられた、町でも屈指の洋風建築の劇場だ。
正面にある回転木馬のからくり時計は、今もなお時を刻み続け、かつては待ち合わせの名所として親しまれていた。
「その話もっと詳しく調べたいな、コアの部品はもしかしたら建て替え前とおなじかもしれないし」
マスターがふむふむとメモを取る。
「そして、中心部分は付け替え可能。持ち運びできるポータブルサイズにもなり、大型の箱に埋め込めば巨大な据え置き型にもなる」
「へ~便利だねぇ、家電みたいだなぁ」
ノリさんが真顔で感心し、皆ににらまれた。
「でもって、妖匠とはねぇ?これまた昔の漫画的っぽいよな、ネーミングセンスが」
ノリさんは心の中でツッコミを入れた。
月彦は、テーブルに広げられた地図の特定の一点を指した。
「破壊のためには、その場所へ侵入し、その周波数をどうにかすることだ。そして…………音吉君の楽器の音色が、その鍵を握る可能性が高い。」
彼の言葉に、狸青年は息をのんだ。
「とりあえず、狸君はあなたのクラリネットの練習を続けてください。その音が、この街を救う糸口になるかもしれない。」
「は、はい!」
狸青年は反射的に答えた。もちろん、月彦に言われずとも彼は練習するだろう。
懐かしい故郷の思い出。
村の友人たちから夢を笑われたこと。
お客さんから、がんばれと、はげまされたこと。
人間もあやかしも、いいも悪いもいろいろだ。
「さて、どこで練習しようかな?」
「それなら、児珠神社でやんすね。」
狛犬が、当然のように言った。
「ノリさん!また出番だ」
「あいよ、車出すよ!」
マスターの呼びかけにノリさんは快く応じ、鍵を手に立ち上がった。
「あ、待って待って、みなさん!」
猫社長が焦ったように時計を見ながら言った。
「実はね、フードデリバリー頼んであるんだけど、もう2時間も遅れてて…………。
ピザとか唐揚げとか、さっきからアプリの配達員が同じ場所をぐるぐる回ってるみたいなんだ」
その時、喫茶店のドアが勢いよく開き、息を切らした配達員が飛び込んできた。
「なにかあったんですか、こんなに遅れて?」マスターが尋ねる。
配達員は疲れた顔で額の汗をぬぐった。
「いやー、大変なんですよ今日! 道が妙に混んでるわ、みんなピリピリしてて、小競り合いばかりで……おまけに鳥が電線の上でギャアギャア鳴いて、野次馬までやってきて!」
彼はぼやきながら、冷めかけたピザの箱と唐揚げのパックを置いた。
これらは偶然か?
猫社長差し入れのピザに唐揚げ、サンドイッチをマスターは盛りつけながらカットフルーツがそえた。彩りがよくなり食欲がそそられる。
「さぁ、温かいスープもどうぞ」
「冷凍をチンだけど、このメーカーおすすめ!」
湯気がたつスープをノリさんが配る。
緊迫した会議の空気が、少しずつ和らいでいく。
「このサンドイッチ、猫の形でやんす!」
狛犬が、目を輝かせて言った。
「このから揚げの下味は塩こうじ。なるほど唐揚げ大賞ダイヤモンド賞をとっただけありますね、月彦様!」
「ふん、ボクは普通のから揚げでかまわない」
皿の上のごちそうが、みるみる空っぽになった。
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