元猫、魔法学園で屋上サロン作ってます!ローズフェスタと恋の行方は?

チャイ

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17話 不穏

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「おはようございます、アレクシス様」
「おはよう、ミアさん」

互いの名前を呼び合う時の嬉しそうな表情に、周りはとっくに気づいていたけれど、当人たちはまるで自分の気持ちに鈍感だった。

ミアの髪には、アレクシスからもらったリボンが毎日結ばれていた。キラキラした紐を見るとじゃれつきたくなる衝動と、毎朝戦うことになったのは、ちょっとした誤算だったけれど。

「ねえ、あの二人、お似合いよね」
「だって、人気はあっても誰にもなびかない、浮いた噂ひとつなくて、セレスティア様ともお付き合いなさらない、難攻不落のアレクシス様が、あの新入生には満面の笑みなんだものね」
「でも本人たちは全然気づいてないのよ」
先輩たちのひそひそ話を聞いて、サクラは苦笑いしていた。

「おい、ミア」
「なに、サクラちゃん?」
「お前、風紀委員長のこと恋愛として好きになっただろ?」
「え?そ、そんな……」

顔を真っ赤にするミアを見て、サクラは確信した。

そのころ生徒会室では、恋愛小説マニアの生徒会長、セレスティアが一人で喜びに震えていた。恋愛小説を片手にうっとりとしている。

「さすが私の見込んだヒロインちゃん!私のシナリオ通りよ!ここまでくれば両片思いの卒業はすぐそこね!全く二人してド天然なんだから、こっちも大変だったわねぇ」

一方、アレクシスも兄のエドワードに声をかけられ、久しぶりに話し込んでいた。最近では画家として名を馳せているエドワードの方が、個展だ取材だと忙しいくらいなのだ。

「最近、君はよく笑うようになったね」
「そうでしょうか?」
「ああ。特に、あのハートウェル嬢の話をしている時は」
「ミア……いえ、ミアさんの話を?」

「『ミア』かい。ずいぶん親しげだね」
エドワードはからかうように笑った。
アレクシスは慌てた。

「いや、その……」
「恋をしているんだね、弟よ」
「兄上!」
「素直になったらどうだい?ローズフェスタの時、隣にいた彼女だってまんざらじゃないようだったよ」


だが、アレクシスは首を振った。
「僕なんかが彼女に相応しいはずがない。
だって昔から僕は何もわかっていなかったんだ。見る目がないんだ。
兄さんは、わかってたよね。あのいたずら猫ニアがどんなに素敵な子だったか」

エドワードは、いたずらばかりする子猫のニアをけっして叱らず、『この子はきっと、すっごく楽しい毎日を送りたいんだ』とほほ笑むばかりだった。

兄にしてみれば、自由を愛し時にわがまま、頑固と言われる自分自身と子猫を重ねていたのかもしれない。
見るものすべてが新鮮、好奇心に満ち溢れ、そのくせ疲れるとコテンと寝てしまうニアの気まぐれさを彼は愛していた。

当時ニアとしても、自分が悪いことをしている自覚はあったらしい。叱られて当然だと思っていた。

そして彼女は小言を言われてもアレクシスが大好きで、すぐにまた膝に飛び乗ってかまってほしいとねだるのだった……。



ローズフェスタが終わってから、ミアは図書館に足しげく通うようになっていた。苦手な科目の補習をするため、そしてそこに行けば、アレクシスに会えるかもしれないという淡い期待を抱いて。
『僕はこの時間、図書館に来ることが多い。また会えたら、勉強をみよう』という彼の言葉を胸に。

だが、そんな中でミアは不安を感じることが多くなった。図書館に通っても彼の姿を見かけることはない。閉館時間ギリギリまで勉強してみるが、会えずにトボトボと帰る毎日だ。

そしてようやく偶然会えた時には、挨拶をしてもすぐに目をそらし、忙しそうに立ち去っていく。
少し前までは世間話や屋上庭園について話し込むこともあったというのに。

そう、心が通じ合えたと思えたはずが、なんとなくよそよそしいのだ。

(なにかおかしいよね?
気にしすぎ?それとも猫の勘?)

ミアは髪からリボンをほどき、そっと眺めた。
窓からこっそり屋根に飛び出し、夜の闇の下で、もう一度眺める。
月のない夜、あたたかなピンク色の光がリボンから発せられている。
ミアの心も温かくなった。

(大丈夫、アレクシスは、きっと今、忙しいだけ)



同じ夜、アレクシスは魔導ランプが煌々と灯る自室で、研究資料を前に深い思索に沈んでいた。

(このままでは、彼女を危険に巻き込んでしまうかもしれない)

内通者の存在が浮上した。まだ尻尾はつかめないが、監視を強めている。
ミアの副担任である魔法生物学の若手教師、ジェイド・ヴァルナ。
確かに彼が内通者なら、これまで感じてきた微妙な異変の説明もつく。

教師兼研究者であり、今も大学の研究棟によく出入りしている。
内通者として、これほど恐ろしい人物はいないかもしれない。


アレクシスと聖アルカディア大学がこれまで地道に取り組んできた研究は、少しずつ形になり始めていた。

魔力結晶培養法は、人工的に魔力結晶を培養・増殖させる方法であり、革新的な研究だ。
完成すれば、魔法や魔物による負傷の傷の治癒を早めることができる。
それは多くの人々が待ち望む治療法であり、新時代の幕開けをもたらすだろう。

だが、魔法医療を独占する勢力にとってはどうだろうか?
彼らは、新しい技術は自分たちが独占し、上級貴族にのみ高額で提供することを一番に考えている。
それが聖薬師協会のやり方だ。

彼は、ミアの明るい笑顔を思い浮かべ、そっと目を閉じた。
(君から離れるのが、一番いいんだ……)
そして、彼はセレスティアの頼みを引き受けた。



先日、アレクシスは風紀委員室を人払いした後、シモンとの会話で、彼がミアから聞き出した魔法生物学の教師ジェイド・ヴァルナの評判を話して聞かせた。

いつもはクールで端正な顔立ちの彼だが今は、疲労の影が色濃く落ちている。シモンはいつものように大げさな溜息をついた。

「なるほど、真面目で良い教師ですか。
婚約破棄されたのは、事実のようですよ。
急に金遣いが荒くなったそうで」

「そうか。君も調べてくれていたのだな、ありがとう。
僕と一緒にいては、そろそろ君も危ないんじゃないか?
僕はいざとなれば、研究棟に閉じこもればいいが」

シモンは「わかってないですねぇ」とでも言いたげな、大げさな溜息をついた。
「アレクシス様、内通者が出てきたとなると、それは危険です。
まだ高校校内の人目につく場所にいらっしゃった方が、ましではありませんか?」
目の前のダミドク茶をがぶ飲みし、話を続ける。

「この学内は新しくセレスティア様の警備ギルドも目を光らせておりますしね。最新の魔導警報器とやらも配備されています」
「ああ、学園祭の時の『護衛隊』よりも目立たないようにやってくれている。やはり高校内に物々しい警備は不似合いだからな」

「まあ、一番安心なのは、とりあえず、国で三本の指に入る大貴族のご令嬢、セレスティア様のそばにいることですよ。
あとは、この風紀委員よりも生徒会に出入りですかね。あちらの方が、多少は安全でしょうから。あなたは生徒会役員でもいらっしゃるんですしね」
「そうかもしれないな。シモンの言うとおりにしよう……」

反発されると思っていたのに、素直にうなずかれてシモンはかえって驚いた。
それだけ、敵の危険を身近に感じているということか?

「そういえばアレクシス様、ミア嬢とは最近どうです?」
「どうですと言われても、わからない。話していないんだ」
「え?先日私が手紙を彼女に届けて、いい感じになったはずでは?」

「彼女のことが大事だからこそ、今は離れなければ」
「ミア嬢はそれに納得してるんですか?」
「何も知らないはずだ。内通者、奴は彼女の副担任だ。まだ奴を泳がせているんだ、何があるかわからないだろ?味方すら欺いていなければならない……」
アレクシスは、そう言い切った。

「それはそうかもしれませんが、うーん、私としてはお話しされた方がよかったんじゃないかと思いますけどねぇ」
シモンは最後にごにょごにょと独り言のようにつぶやいた。
ひねくれているように見える彼だが、何事もシンプルにと言うのが信条を持っている。



セレスティアはと言えば、彼の身を案じ、あらゆる対策を打ち始めていた。

「最近、父が警備ギルドにも手を広げたの。まぁ私の発案なのですけど、結界技術をもっと実戦に役立ててみたいし、記録も取りたいの。
新規事業だから名声作りも必要、この学園で採用されれば箔がつくし、他の学校や機関にも評判が広がるでしょう?」

彼女はにっこりと笑った。
「だから、ただでもお願いしたいくらいなのよ」
アレクシスは感心した表情を浮かべる。

「君は本当に……」
「何?」
「いや、君らしいなと思って」

「恋愛小説なら、ここで王子様が颯爽と現れて守ってくれるのだけど。
現実はそうはいかないのよねぇ」
セレスティアは遠い目をした。

「だから、魔導警報器や結界に守ってもらいましょう」
少し間を置き、真剣な表情になった彼女はアレクシスに念を押した。
「でも、あの子のことは、あなたが必ず守りなさい」

アレクシスは一瞬驚いたが、すぐに頷いた。
「もちろんだ。僕だって……」


「それにしても、あの幼馴染がこんなに立派になってしまうなんて!命を狙われるほどの研究なんて、めったにあるものじゃないわ」

「君だって、生徒会の仕事に加え、家業に趣味まで」
「ふふ、私、最近は自分でも書いてますのよ。あの人も褒めてくれています」
(ヒロインはミアさんをモデルにした純真なかわいい子よ!ただしヒーローはたくましい騎士だけどね……)



放課後、宿題をやろうと図書館を訪れたミアだったが、入り口には張り紙がぺたりと貼られていた。
「図書館臨時休業?」

仕方なく、裏庭のガゼボで教科書を広げることにした。王都の気候は今が、一年で一番さわやかな季節とされる。外の方が気持ちがいいくらいだ。
そこにはすでに先客がいて、ひそひそと話し声が聞こえてくる。

「今日は図書館に、魔導警報器を設置するらしいよ」
「まあ、ここにもですか!ここだけの話、研究棟にも増えてるって聞いたわ」
「物騒な世の中ですこと。これも平民がのさばるから……」

ミアは眉をひそめた。最近学園の警備が厳しくなっているのは確かだったが、平民への偏見を含んだ会話は聞いていて気持ちのいいものではなかった。
そんな時、別のグループの会話が耳に入る。

「あーあ、がっかりしちゃうな。僕の女神、セレスティア様が……」
「ああ、あの噂ね。手をつないでショッピングしてたって」
「仕方ないよね。昔からそうじゃないかって噂はあったし。お似合いだから、僕らは諦めるしかないさ」

セレスティア様にお付き合いされている方がいらっしゃるとは!きっと素敵な人に違いないわ、とミアはこっそり目を輝かせた。

その時、カァカァと鳴き声を響かせて、カラスが一斉に飛び立った。夕暮れが近づいているのか、空の色も少しずつ変わり始めている。
ミアは教科書に目を落とした。だが、なぜか今日は集中できそうになかった。


「作者より一言」

お読みいただきありがとうございました!

最近読んだ本
銭天堂作者の方の「魔女犬ボンボン」シリーズ。(児童文学です)
コーギーの子犬が魔女のパートナーになるんですよ。
この子が、いたずらっこでとってもかわいい。

次回は事態がよりややこしく。でも恋も事件もテンポアップです。
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