【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
55 / 179

第3話 【浮かび上がる網】

しおりを挟む

 港町ガルマの夜は早い。昼間あれほど騒がしかった市場も、陽が落ちれば潮風と酒場の笑い声だけが残る。
 宿に戻ったミサトは、仲間と机を囲んで昼間の収穫を整理していた。

「……まとめると、うちの物資は“契約解除”って形に改ざんされて、他商会の荷に混ぜられてるみたいですね…」
 エルナが記録帳をめくりながら言う。
「しかも、その情報を町中の人達が“当然のこと”みたいに口にしてる。誰かが意図的に噂をばらまいてるんです!」

「なるほどな。つまり、、」カイルが腕を組む。
「バルドン商会はただ横流ししてるだけじゃねぇ。情報まで操ってるってわけか」
 ゴブ次郎が小さくうなった。
「オレ、昼間に聞いたんだ。魚を運んでた船頭が『湯ノ花の荷はもう港に入れない』って言ってた。……そんな権限、誰にあるんだ?」
『はい。これで分かりましたね。答えは明白です。港の物流網に深く食い込んでいる組織。つまり、バルドン商会です』
 リリィの冷静な声が脳裏に響き、ミサトは唇を噛んだ。
「またバルドンか…、、しかも情報網……ね。これはただの妨害じゃない。相手は“市場の流れそのもの”を握ろうとしてるんだね…」

◇◇◇

 翌朝、ミサトは一計を案じ、エルナと共に港の会計所へ足を運んだ。
 役所よりは庶民的な建物で、帳簿や関税の控えを管理している。運良く、顔見知りの小商人が書記官に書類を届けに来ていた。

「ねえ、お願いがあるの。ちょっとでいいから帳簿を見せてもらえない?」
 小声で頼むと、男は顔をしかめた。
「ミサトさん……これ危ない橋だぜ。今、ここガルマじゃ、バルドンや帳簿に首を突っ込んだ奴は、みんな痛い目に遭ってる」
「あははっ!だからこそよ。こっちは正規の契約をしてるのに、勝手に解除扱いされてる。証拠がなきゃ話にならないの!!」
 真剣な眼差しに、男は観念したように溜息をつき、こっそり帳簿を開いて見せてくれた。

 ミサトは息をのむ。
「……なに、これ」

 湯ノ花の名義で発注された物資が、別の商会名義に“すり替えられて”記録されていた。しかも、一度や二度ではない。ここ三ヶ月、ほぼ毎回。

「これだから…数字が合わない。支払った量と記録された量に差がある……」
 エルナが小声で指摘する。
「ミサトさん…これってつまり誰かが“帳簿を二重管理している”ってことですよね…」

 帳簿の隅には、見覚えのある印章があった。
「ねぇ、リリィ?これ……バルドン商会の印じゃない?」
『はい。ミサト。間違いないです』
 エルナが険しい顔で言う。
「あの人達、港の記録係まで抱き込んでるんですね…」

◇◇◇

 夕方、仲間が再集合した宿。
 ミサトは帳簿の写しと、エルナの記録を机に並べた。
 しんと静まり返った部屋に、帳簿と証拠が並ぶ。
 重苦しい空気が落ち込む中、ミサトは勢いよく椅子を蹴って立ち上がった。

「……ねぇ、みんな! ここで怖気づいたら、私たちは一生“下請け”で終わるよ! せっかく里のみんなが信じてついてきてくれてるのに、ここで逃げたら何の意味もない!」

 強い口調に、カイルもゴブ次郎も目を見張った。

「バルドンが港を押さえてる? 帳簿を改ざんしてる? 噂で不利にしてる? ……だから何!? 私たちには正しい証拠がある。正しく働く仲間がいる。ここで負けたら、もう“湯ノ花の未来”はないんだよ!」

 ミサトの瞳が一人ひとりを射抜く。
「私は逃げない。絶対に戦う。だって私たちの里は、みんなで作った居場所なんだから!」
 その言葉に、カイルが力強く頷いた。
「……そうだな。俺はもう決めた。湯ノ花のために剣もペンも振るう。たとえ相手がガルマ中を牛耳る怪物でもだ!」
 ゴブ次郎の拳が机を叩きつける。
「オレだってそうだ! もう田畑を荒らして生きていく自分たちには戻らねぇ。里を守るって決めたんだ!」
 エルナも小さく笑った。
「うん。私も信じてる。ミサトさんが導く未来を」

 胸の奥に熱が宿り、リリィの声が静かに響いた。
『はい。ミサト。あなたは決して一人ではありません。皆があなたを信じ、共に歩んでいます』

 重苦しかった部屋に、確かな光が差し込む。
 彼らはただの小さな村の集まりかもしれない。だが 、、その心は誰よりも強かった。

「よし。……これでもう次にやる事ははっきりしたよね。バルドン商会は、物資だけじゃなく情報網まで完全に押さえてる…。てことは…」

 カイルが低く唸る。
「港の労働者、役所、倉庫、噂話……全部ひとつの網で繋がってる。下手に動けば、すぐに手を回される…」
 ゴブ次郎が拳を握りしめた。
「へへ!オイラたちの里を守るには、この網を切るしかないな」
 ミサトはニコッと笑い深く息を吸い込んだ。
「うん。でもただ斬るんじゃない。証拠を掴んで、逆に利用する。彼らの網の中で、私たちが泳ぎきるんだ!私たちを捕まえた事を後悔させてやるっ!」

 その瞳は決意に燃えていた。

『はい。ミサト。正しい選択です。情報戦は既に始まっています。勝敗を分けるのは、“誰が真実を握るか”です』
 リリィの声が静かに告げた。

 港の窓の外では、赤い夕日が海を染めていた。
 その色はまるで、迫り来る大きな戦いの前触れのように思えた。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...