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第20話 【秘薬と泉、独占資源の価値】
しおりを挟む女王アエリアの宣言から数刻後、、。
ミサトたちは、大樹の宮殿の奥にある小部屋へと案内されていた。壁一面に絡みつく蔦の隙間から淡い光が差し込み、空気は薬草の香りに満ちている。
そこで差し出されたのは、小さな木箱だった。
蓋を開けると、翡翠のように輝く葉が丁寧に収められている。
「これは……?」
カイルが思わず身を乗り出す。
女王の侍女が淡々と告げた。
「《聖樹葉》。我らが森にて百年に一度しか摘めぬ葉です。煎じれば万病に効く薬となり、擦れば傷の癒えを早める膏薬となるでしょう」
「ひ、百年に一度!?」
ゴブ三郎が声を裏返らせた。
「ボス、これ絶対とんでもねぇ値で売れるやつだろ!」
「いやいやいや! 売り物にするって軽々しく言うなって!」
ミサトは慌てて制した。
「女王様からの分け前なんだから、まずはちゃんと管理と用途を考えないと……!」
リュシアがくすりと笑う。
「母上は“分け与える”と言ったでしょう? ただし、湯ノ花の里に限ってよ。だから、流通に出すにしても、他国に横流しされないよう気をつけてくださいね」
「なるほど……つまりこれは、独占資源か」
リリィの落ち着いた声が脳裏に響く。
『はい。ミサト。帝王学における“資源独占”は、国家経営の要です。希少価値のある物を握り、信頼できる相手と限定的に分け合う。これにより市場での発言力を得られるのです』
「独占資源……かぁ…」
ミサトは呟き、胃を押さえながら笑う。
「うわぁ……なんか急に商会どころか国家の戦略っぽい話になってきた……」
さらにエルフの侍女は、青く輝く水の入った瓶を差し出した。
「こちらは《清泉水》。女王の御座の根元から湧き出る泉の水です。エルフはこれを薬湯として使い、身体を癒しております」
「薬湯……ってことは、温泉みたいな?」
ミサトの言葉に、リュシアが頷いた。
「ええ。ただし、我らは薬としてしか用いてこなかったわ。けれど、ミサトさんたちが営んでいる“温泉宿”でなら、新しい使い方ができるんじゃないかしら」
その一言に、ミサトの目が輝いた。
「薬効温泉……! それだよ! 普通のお客さんは“癒やし”として入れるし、病気や怪我の人には“治療”の意味合いで広められる……!」
『はい、ミサト。帝王学的にも、これは“付加価値の創造”です。既存の文化を輸入し、自分たちの強みと融合させることで、唯一無二の商品を作り出せます』
「唯一無二……うんうん、いい響きだね!」
ミサトは拳をぎゅっと握った。
◇◇◇
その夜、湯ノ花の面々は、与えられた客間で早速会議を開いた。
卓上に並ぶのは、《聖樹葉》と《清泉水》のサンプル。
みな一様に目を輝かせている。
「で、ボス。これをどう売り出すんだ?」
ゴブ次郎が腕を組む。
「薬屋に卸せば即大金だろうけど……正直、オレらの懐にゃ危なすぎる代物だぜ」
「う~ん、、そうなんだよねぇ……」
ミサトは頬をかきながら苦笑した。
「もしさこれを闇市に流したら、確実に狙われる。それに湯ノ花で売ってるって噂になれば盗賊とか貴族とか、ろくでもない連中が寄ってくるよね~」
「ははは、そうだな!じゃあやっぱり、温泉と一緒に使うのが一番だな。清泉水は温泉に混ぜて、《薬の湯》的な!」
カイルが使い道を口を開く。
「温泉宿を中心にすれば、供給をコントロールできる。聖樹葉は少量を膏薬に加工し、宿に来た者だけに提供する。清泉水は温泉とブレンドして“薬湯”にする。これなら全部湯ノ花の懐に入るだろ?」
「なるほど……! それなら、独占資源を“観光資源”に転換できる!」
ミサトは勢い込んで立ち上がった。
「一部は信頼できる商人に卸して、医薬品としての価値を広めてもいいけど……中心はやっぱり湯ノ花の里の温泉! そうすれば他国は勝手に手を出せないし、“行かなきゃ体験できない”強みになる!」
『はい、ミサト。帝王学的に言えば、それは“資源の囲い込みによる求心力”です。人は価値を求めて集まります。集まった人々が経済を回し、さらに国力となる。理想的な循環ですね』
「……おお、なんか私、めっちゃ国のトップっぽいことしてる……!」
ミサトは思わず顔を覆った。
「きゃぁぁぁ~!私なんて社畜OLだったはずなのに、胃に穴を空けながら異世界国家運営って……キャリアプラン完全に狂ってるんですけど!?」
「ははっ、それでこそミサトだな!」
カイルが微笑み、酒杯を掲げた。
「女王が認めたのも納得だ。だが……くれぐれも、気を抜かない事だな。これほどの資源を独占すれば、必ず狙う者が現れる」
「うっ……胃がまた痛くなるようなこと言うのやめてよ……!」
そんなやり取りに、リュシアは穏やかに笑みを浮かべていた。
「でも……大丈夫。ミサトさんなら、きっと守れるわ。私も手伝うから」
その言葉に、ミサトは一瞬だけ戸惑い、、そして照れくさそうに頷いた。
「よしっ!問題も解決したし、湯ノ花の里に帰りますか!!」ミサトのその言葉にみんなが頷いた。
◇◇◇
こうして、湯ノ花の里は《聖樹葉》と《清泉水》という二つの独占資源を得た。
それはまだ小さな村に過ぎなかった共同体を、一つの“地域国家”へと押し上げる大きな一歩となる。
だが同時に、、その独占資源の存在は、外の世界に新たな火種を生むことにもなるのだった。
◇◇◇
ミサト達を見送った女王アエリアはお土産で貰った温泉まんじゅうを一口かじると、瞳を丸くした。
「はぁぁぁぁん……なんと、優しい甘さ…手が止まらぬ…」
次の瞬間には、もう二つ目を手にしている。ふんわりとした皮が溶け、蜜のような餡が舌を包むたび、女王の表情は子どものように綻んだ。侍女たちが慌てて盆を差し出す間もなく、女王は夢中でまんじゅうを頬張り続けた、、、。
続
20
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