【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第28話 【火急の村、迫る包囲網】

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 夜の森を抜け、冷たい風が頬を刺す。
 その風に混じって、どこか不気味な振動が乗っていた。

 ドン……ドン……。
 規則的な太鼓の音。
 それは遠くから、しかし確かに近づいてきていた。

「っ……! もう始まってる!」
 先頭を走るリュカが振り返る。若い兵士の顔は汗で濡れ、息は荒い。
「討伐隊が村へ動き出した合図です!」

 その言葉に、一行の足が一瞬止まる。
 胸の奥が冷たく凍るような感覚。
 太鼓は“進軍の音”。それが意味するのは、ただひとつ、、時間切れの足音だ。

「くっそ……間に合わなかったか!」
 カイルが唸る。
 だがミサトは首を振った。
「まだだよ。まだ終わってない!急ごう!」
 ミサトの声は震えていたが、それでも前を向いていた。太鼓の音に心臓を乱されそうになりながらも、足を速める。

◇◇◇

 森を抜けると、わずかな木立の隙間から光が見えた。
 橙色の、ちらつく火。
 それが村の外れの茅葺き小屋を、今まさに呑み込もうとしている。

「くそっ!や、やめろおおぉっ!」
 ゴブ次郎が叫び、飛び出しかける。
 しかしミサトが咄嗟に腕を掴んだ。
「ゴブ次!ダメッ! 今突っ込んだら全員殺される!」

「でもボスっ! 兄貴がっ!!」
「分かってる!分かってるよ!! でも今のまま行っても助けられない!みんな殺されて終わりよっ!!」

 ゴブ次郎の目が血走り、牙を食いしばる。
 ミサトの心も同じように引き裂かれそうだった。
 しかし、そのとき頭の奥で冷静な声が響く。

『はい、ミサト。状況を整理します。
 正面突破は自殺行為。敵の数、約百人。こちらは十数人。勝つためには、視点の転換が必要ですね』

「視点の転換?一体どうすればいい……?」
 思わずミサトが呟くと、リリィが続ける。
『はい。ミサト。帝王学において重要なのは“全体最適”です。局所で勝つことよりも、戦線全体を崩すことを優先するのです』

「なるほど。局所じゃなく、全体……」
 ミサトが唇を噛んだとき、隣のカイルが低い声で言った。
「つまり……リリィが言いたいのは補給路だな?」

 皆の視線が一斉にカイルへ向く。
 彼は森の奥を顎で示した。
「軍がこんな辺鄙な場所で長く戦えるわけがねぇ。必ず補給物資を後方に置いてる。そこを潰せば討伐隊は長く持たないはずだ!」

「あっ?!そ、それなら……!」
 リュカが目を見開く。
「僕、知ってます! 荷車をまとめた物資置き場が西の丘にあるはずです。火薬樽や食料が山積みで、護衛も少ないはずです!作戦の時に地図に書いてありましたから!」

 仲間たちがざわめく。
 まさに内部情報。これほど心強い援護はない。

「ふふ!……でもよ?」
 カイルが鋭くリュカを睨む。
「そいつぁ小僧の“罠”かもしれねぇ。俺たちを誘い込むために嘘吹き込んでる可能性は?さっきから裏目裏目だもんな?」

 空気が一気に張り詰める。
 ゴブリンたちも再び武器を構え、リュカを睨みつけた。

「えっ?!そ、そんな……!わざとじゃないのに…」
 リュカは青ざめ、必死に叫ぶ。
「僕は……僕は嘘なんてついてません! ゴブリンたちの村を救いたいから、ここに来たんです!お願いします。信用して下さい」

 だがカイルは一歩近づき、低い声で突き刺す。
「大体よぉ、、よく考えたらよ…兵士のくせに軍を裏切る? そんな虫のいい話があるか。大方、軍の偉い奴に言われて湯ノ花を誘き出す役でも貰ったんだろ?!てめぇが俺たちを売るつもりなら、今ここで斬って、、」

「もう!やめてッ!」
 ミサトの声が鋭く響いた。
 思わず全員が振り返る。

 ミサトはリュカの前に立ちふさがり、両手を広げた。
「もし裏切りだったら、そのときは私が責任取るって言ってんでしょ!!だから今は信じるって決めたんだ!里長は私だよっ!!」

 リュカの瞳に涙が浮かぶ。
 カイルはしばらくミサトを無言で見つめて、やがて舌打ちして肩をすくめた。
「……ちっ。わかったよ。相変わらず引かねぇなぁ……。そんな顔されたら心中覚悟で挑むしかねぇわな!作戦会議頼むわ!」

 張り詰めた空気の中で、リュカが深々と頭を下げる。
「ありがとうございます……絶対に裏切りません!」

◇◇◇

 すぐに作戦会議が始まった。
 ミサトが即席の地図を土に描く。

「よしっ!みんないい? こう分担するよ。
 、、ゴブ次郎たちは村の手前で陽動。火を放とうとしている兵を引き付けて。
 、、私とカイルはリュカの案内で補給所を叩く。
 、、村人のみんなは避難誘導、ゴブリンの子どもと老人を最優先」

「ボス! オレら、絶対時間稼ぐからな!」
 ゴブ次郎が胸を叩き、、
「任せてくれ!」
 ミサトはニコッとゴブリンたちに笑いかけ、
「うん。頼んだよ!みんな絶対死んじゃダメだからね!」

 胸の鼓動は早鐘のよう。
 それでもミサトは不思議な高揚を感じていた。
 社畜時代、無理な納期のプロジェクトを前に“役割分担”を決めて走り出したときの感覚に似ていた。

『はい、ミサト。まさに帝王学的采配です。
 人材を最適に配置し、限られた資源で最大の成果を狙う。今、あなたは社畜ではなく“指導者”として動いています』
「やめてって……プレッシャーかけないでよぉ…必死で勢いだけで動いてんだから…」
 小声で返しながらも、胸の奥が熱くなる。

◇◇◇

 空は次第に白み始めていた。
 村を包む煙の匂いが風に乗って流れてくる。

「ミサトさん……!」
 リュカが振り返り、切実な声を上げた。
「信じてください! 僕は必ず案内します!」
 ミサトは大きく笑いうなずく。
「あははっ!信じるって決めたから、疑わないよ。頼んだよ!リュカ」

 その言葉に、リュカの瞳が光を宿した。
 太鼓の音はますます激しくなる。

 夜明け前、、
 小さな一団は、それぞれの役割を胸に走り出した。

 ゴブリン救出戦。火急の村を巡る決戦の幕が、今まさに上がろうとしていた。


          続
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