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第二章最終話 【拳と涙と、そして惚れた】
しおりを挟む戦場の只中、、土煙と血の匂いが混ざり合う。
湯ノ花の城門前での三つ巴、、国王は追い詰められていた。魚鱗の陣を崩され、兵は散り散り。背後を守る壁もなく、残されたのは剣を手に立ちすくむ姿のみ。
「もう終わりだよ!父上っ!」
リュウコクの叫びが戦場を裂く。
高台から疾風のごとく駆け下り、わずか二百の兵で数千の国王軍を切り裂いた王子は、今、自らの父を剣の先に捉えていた。
「ぐっ!……リュウコク……!」
国王の声は震えていた。怒りか、恐怖か、それとも父としての痛みか。
「お前は……我の息子であろう! 共に玉座を守るはずの……!」
リュウコクの目が揺らぐ。だがすぐに剣を強く構え直す。
「……父上。僕はずっと願ってきた。父上の背中を追い、父上に認められる王になりたいと。だが、、」
その声が震える。
「民が飢え、兵が倒れても、バカ親父は剣を振るう事と民を罵る事しか知らなかった! その姿に、俺は……絶望したんだ!」
「ぐぐぐっ!!黙れっ!」
国王が吠え、剣を振り下ろす。だがその刃は重く、鈍い。
「いいか!?リュウコク!王とは孤独なものなのだ! 誰に嫌われようと耐え、進まねばならぬ! お前も我が息子なら、それを学べ!」
リュウコクの剣がその一撃を受け止め、火花を散らす。
「あははっ!孤独を背負うのは王の務めかもしれない! だがあなたは、孤独に溺れて国を見失った! 僕は……僕はもう、そんな父上を王として認められない!」
二人の剣がぶつかり合い、鉄と鉄の響きが戦場に木霊した。
それはただの権力争いではなく、親子が互いの想いを叩きつける、最後の対話の様でもあった。
◇◇◇
激しく打ち合う王と王子。その背後で、別の火花が散っていた。
「おい……そこのゴブリン?」
剣を携えたカリオスが、鋭く目を細める。
「その腕、、ちゃんと繋がっているのか? 湯ノ花の軍に混ざっているのを見た時は驚いたぞ!はははっ!」
ゴブ太郎は大きな傷跡の残る腕を掲げ、にやりと牙を覗かせた。
「何か可笑しいか? あの時…この腕ちゃんと持って帰ってればよかったな~。 残念だったな。俺はまだ戦場にいる。また地べたに這いつくばらせるぞ!」
カリオスの口元に薄笑いが浮かぶ。
「くっくっ!ほう……減らず口は健在か。“あの時の俺”は負ける役だったからな…。 お前のそのしぶとさ、嫌いじゃない。いずれ正面から、決着をつけよう」
「あぁん!負け惜しみ言ってんなよ! オレは今、暇じゃないからな……また後でな…その言葉、覚えとけよ」
二人の視線が一瞬ぶつかり、鋭い火花を散らす。だが大斧も剣も振るうことはなく、互いに視線を外した。
戦場の空気はなお緊迫していたが、その一瞬のやり取りは、未来の再戦の予告状のように響いた。
◇◇◇
そして王と王子の戦いの終わりが近づいていた、、
国王の剣が弾かれ、膝が大地に沈む。
リュウコクの剣が振り上げられる。
リュウコクの剣が閃き、国王の脇腹を裂いた。
血が迸り、王は呻き声を漏らして膝をつく。
「終わりだな…父上。止めを刺す」
リュウコクが剣を振りかぶる。
その刹那、、、
、、ドンッ!
体当たりが、リュウコクを吹き飛ばした。
「もういいでしょ!!やめなさぁぁぁいっ!もう終わりっ!!」
怒ってるミサトだった。
城門から駆け下り、二人の間に割って入ると、いきなりその拳をリュウコクの頬に叩き込む。
「えっ?いたっ、な、何を、、」
次の瞬間、二撃、三撃。拳が何度も何度も王子を打つ。
ゴッ、バキッ、鈍い音が響き、ミサトの指は血に濡れ、折れ、痛みに震えながらも止まらない。
「何で、、なんで、親を大事に出来ないんだよっ!!あんたのお父さんでしょ!!」
「うぐっ……!やめ、やめろ!バカ女」
「やめないわよっ!このバカ王子!!親を斬って王になるなんて、そんなの最低だ!!」
涙と嗚咽が混じり、叫びながら殴る。
リュウコクは頬を裂かれ、唇から血を流しながら、それでもなぜか抵抗しなかった。真正面からミサトの拳を受け続けていた。
カイルが必死に駆け寄り、ミサトの腕を掴む。
「もうやめろっ!ミサト!、 これ以上はお前が壊れちまうよ!」
ゴブ次郎も慌てて抱きしめるように止める。
「ボス、もう十分だ!拳が折れちまってるよ… もう十分だって!!」
だがミサトは泣きながら震える声でなおも叫ぶ。
「なんで…なんで、どうして……どうしてそんなに平気で親を傷つけられるの! ……どんなに愚かでも、どんなに不器用でも……親は親でしょうがぁぁぁ!ちゃんと話し合えよ!裏でコソコソやって、弱った所狙って!親子なんだから!ちゃんと話し合えよぉぉぉぉ!!」
拳が力尽き、ついにミサトは地に崩れ落ちた。
涙が頬を濡らし、嗚咽が戦場にこだまする。
、、その時だった。
「惚れたぁぁぁぁぁ!!!」
血まみれの顔で、リュウコクが唐突に言い放った。
その場が凍りつく。
国王も兵士も、湯ノ花の仲間たちも、全員が目を剥いた。
「……はぁっ!?…殴られすぎてイカレタ??」
ミサトの涙声が止まる。
「惚れた! 君の拳に、涙に、言葉に、僕は心を奪われたぁぁぁぁ!!」
「え、ええええええええええ!?」
空気が凍り付いたまま爆ぜ、戦場に似つかわしくない混乱と困惑が広がる。
呻いていた国王も、息子を見上げて弱々しく口を開いた。
「リュウコク……われは……われは息子に……嫌われたくはない……もう終いじゃ…」
その言葉は敗北の告白であり、同時に父としての本音だった。
国王は剣を落とし、血に濡れた手を震わせながら言う。
「王権を……リュウコクに譲る……国王と言う肩書きは我には過ぎた舞台だったな…頼むぞ。リュウコク。この国を明るい方向へ……」
沈黙。
その重みを受け止め、リュウコクはやがて血まみれの腫れた顔でゆっくりと頷いた。
リュウコクは振り返り、ミサトを見据える。
「……ならば俺は、今この場でこの湯ノ花を国と認めよう。これが、僕が王としてやるべき最初の仕事だ!!ラインハルト王国が出来なかったことを、湯ノ花がやった。これからは並び立とう。同じ国として。そして、ミサト!“僕と結婚してくれ”!!」
「えっっ!?いや!無理っ!!私のタイプは一日中頑張って、パンツ汚して帰って来る人がタイプだから……。あんたパンツ綺麗そうだもね……??」
リリィはいつも通り冷静に呟く。
『はい。ミサト。名言頂きました。でも、この状況、この場でプロポーズって、やっぱり顔が整っていると色々と歪みますね』
◇◇◇
その夜、城門の前には松明が灯り、ささやかな宴が湯ノ花の里で開かれた。
疲れ切った兵士も、ゴブリンも、エルフも、村人達も、国王も、王子も、全部同じ火を囲んだ。
杯を掲げるカイルが笑いながらぽつりと言う。
「あははっ!……結局、全部お前が持ってったな、ミサト」
「えへへ……そうかな?」ミサトはリュシアにエルフの薬効入り包帯を手に巻かれながら、苦笑した。
リリィが静かに告げる。
『はい、ミサト。これでまた貴女の一つの章が終わりましたね。……ですが、物語はまだ続きます』
ミサトは夜空を仰ぎ、深く息を吐いた。
「……なんかさ~、リリィが前言った言葉達を思い出すんだよね。孫子とか、ナポレオンとかさ、ジャンヌとかさ、、遠い時代の偉人たちのこと。戦って、人を動かして、でも最後に欲しかったのは勝利とかじゃなくて……もしかして“民の笑顔”だったんじゃないかなってさぁ~」
リリィは静かに肯定する。
『はい。ミサト。きっとそうでしょう。あなたの選んだ道もまた、“人を生かす戦”でした。血を流すより、希望を繋ぐことを優先した。それは、どの偉人にも劣らない選択です』
「えへへ。……偉人、か~。あたしなんて、ただの元社畜OLだよ。今回の残業代と労災、請求するぞぉー!なんてね☆」
ミサトは自嘲するように笑った。だが火を囲む人々の声が、それを否定するかのように響いていた。
リリィが優しく告げる。
『はい。ミサト。名を残すことだけが偉人ではありません。人々の未来に道を拓く者こそ、誰に知られなくても真の偉人です。……あなたの物語は、まだ始まったばかり。それと残業と労災はちゃんと手続きの書類を書いてください。あとその手は自分でやったから労災は厳しいと思いますよ』
「あははっ!やっぱリリィうるせぇー!書類書くの面倒臭いから~、今回は自費でやりま~す!あははっ!!」
ミサトとリリィの会話は、みんな胸の奥に灯る熱を抱きしめ、夜空を見上げる。この戦の終わりを告げ、次なる波乱を予感させるように。
そして湯ノ花の里に新たな日が始まる、、、。
続
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