106 / 179
第1話 【新王の初仕事はプロポーズ!?】
しおりを挟む湯ノ花の空は高く澄み渡っていた。国王軍との籠城戦の喧噪が去り、ようやく訪れた静けさに、人々はまだ慣れずにいる。折れた槍を片づける者、焼け落ちた柵を組み直す者、負傷者の包帯を替える者……。それぞれの手が確かに未来へと伸びていた。
その日から一週間、、、。
城の前に再び人々が集められた。理由はただ一つ。リュウコクが《王》として即位を宣言するためだった。
高台に立った若き王子の姿に、人々はざわめき、そして拍手と歓声が広がる。
「リュウコク様万歳!」「これからのラインハルト王国に栄光あれ!」
まだ顔には戦いの傷(ミサトに殴られた傷)が残っていたが、それはむしろ若き指導者の勲章として、民の胸に深く刻まれていた。
リュウコクは胸を張り、声を張り上げた。
「我が父、国王から王位を譲られ、このたび新たにラインハルト王国を治める者となった! ここに誓おう。この国を、人々を守り、より良い方向に導くことを!!」
民衆は大きな拍手を送る。だがその次の瞬間、リュウコクの言葉が全てを吹き飛ばした。
「そして! ここで皆に宣言する! 湯ノ花の里を国と認め、友好国とし、そして!英雄ミサト! 僕と結婚してくれ!!」
、、、シーン。
場が凍り付く音がした。
人々は固まり、兵士たちは顔を見合わせ、ゴブリンたちは「え?」と目を丸くする。
「はぁああああ!?!?あいつ何言ってんの??」
一番大きな声をあげたのは、もちろん当の本人だった。ミサトは顔を真っ赤にして跳ね上がる。
「なっ……なに言ってんの!このバカ!! ここ国の公式イベントでしょ!? みんなの前で!? あんた正気!?」
リュウコクは真剣な目でまっすぐに彼女を見ていた。
「僕は本気だ! 君しかいないんだ!」
場内は再び静まり……次の瞬間、爆発した。
「ぷははははっ! 新王の初仕事がプロポーズかよ!」カイルが腹を抱えて笑い出す。
「がははっ!なんだぁ? 英雄ミサトもついに王妃か?」とゴブ太郎が冷やかす。
「いやいや、まだ承諾してないから!」ミサトは全力で否定するが、顔はさらに赤い。
ただ一人、冷静だったのはリリィだった。
『はい。ミサト。確認ですが、求婚に関する書式はまだ未整備ですので、この宣言は法的に無効となります。今後は婚姻届のフォーマットを整えたうえで再申請してください』
「リリィうっさい!!みんな楽しんでんじゃないわよっ!!」ミサトが叫ぶ。
人々は笑い、歓声は「王と英雄の結婚話」一色に染まっていく。
「いやいやいや! 違うから! 私の意思を勝手に決めるなぁぁぁ!!」
ミサトは耐え切れず、城門から逃げ出した。
◇◇◇
混乱の渦を背に、ミサトはひとり港へ向かっていた。
そこには、湯ノ花の里籠城戦で共に戦った仲間、、港の書記官ルディアがいる。
「本当にあいつらバカじゃないの??いきなり結婚とか…まずは手を繋いでデートしてからだろがいっ!!」
ミサトはぶつぶつと独りごちりながら港町を歩く。
港町は戦の影響で一部流通が荒れたものの、もう荷馬車が行き交い、商人たちが声を張り上げていた。そんな中、整った制服姿のルディアが帳簿を抱えて立っていた。
「あっ!?ルディア!」
呼びかけると、彼女は振り返り、涼やかな笑みを見せた。
「おや。お久しぶりですね、ミサトさん」
ミサトは深々と頭を下げた。
「ありがとう。本当に……あなたがいてくれなかったら、あの籠城戦での戦いは絶対に勝てなかった」
ルディアは軽く首を振る。
「ふふふ、礼など要りません。私が動けたのは、あなたが私なら出来ると信じてくれたからです。……それに、湯ノ花が残れば港の商人たちも助かりますから」
ルディアはふと声を潜めた。
「ですが、、これからが本当の試練ですよ。国に認められた以上、、“政治は戦より厄介”です」
その目は冗談ではなく、冷徹な現実を見据えていた。
ミサトは背筋を正し、力なく笑った。
「やっぱそうだよねぇ……。戦争の方がまだシンプルだよ……。私のやり方で湯ノ花が飢えたり、潤ったり……」
ルディアは頷きながら帳簿を一冊取り出し、ミサトに差し出した。
「ちなみに、、前回の国への食料差し押さえにかかった経費、こちらです」
ぱらりとめくった瞬間、ミサトの顔が引きつる。
「ありがとう。……え、うん。けっこう……かかったね……。想像以上に桁が多いんですけど!?」
ルディアは涼しい顔でニコッと答えた。
「ふふ、戦に勝つには必要経費です。たくさん賄賂をばら撒きました」
「ふんぐぅぅぅ!賄賂を必要経費って言って済ませるのやめてぇぇぇ!」
◇◇◇
湯ノ花へ戻ると、待ち構えていたのはやはりリュウコクだった。
「あっ!ミサト!」
彼は人目もはばからず駆け寄り、真剣な目で言った。
「君がいなければ、僕は王でいられない! だから、、そばにいてくれ!」
その迫力に、ミサトは一瞬言葉を失う。
(や、やば……真剣眼差し真っ直ぐにハンサム過ぎ…。ちょっと惚れそうになった……! でも違う! 絶対コイツ、私に残業増やすタイプだ!!)
心の中で絶叫し、彼を突き飛ばす。
「はぁぁぁ!? あんた、まず自分のとこの国政の帳簿整理やんなさいよ!!」
リュウコクは首を傾げる。
「帳簿?? ……そんなもの、君がいれば解決だ!」
「いやいや!!解決するかぁぁぁ!!!はよ!家帰れぇぇぇぇ!」
◇◇◇
その夜。ミサトは帳簿の山にうずもれながら、頭を抱えていた。
「残業代ゼロで徹夜とか……これブラック国家だよ……って、私が一応湯ノ花の里の王になったのか…」
リリィが横から淡々と口を挟む。
『はい。ミサト。現在、湯ノ花の里には労基署は存在しませんので、訴える先はありません』
「おおぉい! AIまでブラック寄りとか!すぐに労基作るしかないか??あれっ?みんなが相談に来たら私に来るのか??」
『はい。ミサト。そうですね。でもご安心ください。ミサトが倒れた場合は私が遺言を代筆します』
「うんうん。ありがとう。って!!それ安心じゃなぁぁぁい!!リリィ適当な事書きそうだから、“遺書”って小説でも書いて残しとくわっ!!」
二人の相変わらずの掛け合いが響く湯ノ花。
国政の火消しと恋の火花が同時に燃え上がり、湯ノ花の里の新しい日々が幕を開けたのだった。
続
10
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる