【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第23話 【湯ノ花散歩と気づき】

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 湯ノ花の里の朝は、港町アルガスの喧騒とは違う。山から流れる清らかな水と、湯けむりを含んだ柔らかな風が村全体を包み込んでいた。
 
 リュウコクはラインハルトへ、山のような外交案件を抱えて東に旅立った。マリーもアルガスで商会との交渉に追われている。
 
 、、結果、湯ノ花に残されたのはミサトぽつんとひとり。
『はい。ミサト。おはようございます。今日は何をされますか?』
「はぁ……リリィおはよう。なんかさ、みんな忙しくて遊んでくれないね……。私だけ取り残された社畜の昼休みかよ~~~」
『はい。ミサト。これは“休日の孤独感”です。現代でも、友人が全員予定ありのときによく発生します』
「慰めになってないから! あー、暇だよリリィ!」
『はい。ミサト。では散歩でもどうですか。情報収集を兼ねれば、ただの暇潰しも“業務改善活動”に変換できます。あと食べ過ぎてついた、お腹のお肉の解消もできます』
「うわぁ……お腹のお肉の事言ったなっ!腹立つ! あと散歩をそういう言い換え方すると、余計に社畜っぽい! でも……暇つぶしになるなら、まぁいっか♪行こう!」

 ミサトは腰に手を当て、大きく伸びをすると楽市楽座の方へと歩き出した。

◇◇◇
 
 拡大し続ける湯ノ花の楽市楽座。臨時に設けられた広場には、露店や荷車がずらりと並び、人と物と声が入り乱れていた。

「うわぁ~……なんか、前よりずっと増えてない?」
 ミサトは胸を高鳴らせながら、リリィと一緒に歩みを進めた。

『はい。ミサト。リュウコクが東の砂漠王国ザイールへ外交に向かってから五日、、その間に湯ノ花の里とアルガスの商業は確実に拡大しています。露店数はおよそ一•五倍。来客数は推定二倍です』

「うわ、数値化された……。でもほんと、人が多いね~」

 荷車の上には乾燥肉や織物、薬草や木工品まで。子どもがはしゃぎ、行商人が声を張り上げる。
 そんな賑わいの中、ゴブ太郎がひょっこり現れた。

「おぉ! ミサト! 見に来てたのか!」
「うわっ、ゴブ太郎!? びっくりしたぁ……」
「ぐへへっ。驚かせたのは悪かったな。だが見ろよ、この賑わい! オレたちが守ったアルガス港から物資が流れ込んで、今やこの里は大繁盛だぞ!」

 自慢げに胸を張るゴブ太郎に、カイルが横から冷静に突っ込む。
「繁盛なのは結構だが……正直、管理が追いついてない。帳簿は乱れるし、露店料を払わない奴も増えてる。物が動く速度が上がると、不正も同じくらい加速するんだ…。 あー忙しいっ!!」

「おお……やっぱりそういうのあるんだね~」
 ミサトは腕を組んでうなずいた。

『はい。ミサト。経済の膨張は管理の遅れを招きます。現代の会社でも、急成長期に内部統制が追いつかず、粉飾決算や横領が発覚するのは“あるある”です』

「うっわ……社畜時代のトラウマが蘇るコメントありがとうリリィ……」
『はい。ミサト。蘇る辛い記憶は、成長の糧です』
「ふぐぅぅ!もうちょっと優しい言い方ないの!?」

 わちゃわちゃ言い合う二人を、エルナが小走りで追いかけてきた。
「ミサトさん! ここにいたんですね! 大変なんです、見てください!」

 エルナが案内したのは、露店が並ぶ外れの道。
 そこでは農民らしき一団が、商人と口論していた。

「おい、ふざけるなよ! こんな安値じゃ次の種も買えねぇぞ!」
「なら売るなっ!別にお前の買わなくても、隣村のやつを買えばいい!ここは売り手も買い手もいっぱいいるんだっ!!」
「ぐっ……!」

 怒声に子どもが泣き出し、場の空気が険悪に変わる。

「あっちゃぁ~……あぁ、なるほどね」
 ミサトはぽつりと呟いた。
「な、何がです?」とエルナ。

「いや~、物が集まると、買いたたきとか独占が出るんだよね。前の世界でも、農協通さないと農家が損しかしないって話、結構聞いた事あったし」

 カイルも頷く。
「そうだな、、。交易が盛んになるほど、力を持つ商人が強くなる。庶民が食い物にされれば、不満はすぐに爆発するぞ」

「ん~、、なるほど……ってことは、これって“内政”の問題?つまり私の問題??」
『はい。ミサト。そうです。湯ノ花の里は今や交易の拠点。だが制度は小さな村のまま。拡張する仕組みを作らなければ、いずれ内側から崩壊します。ミサトが王子とイチャイチャデートしてる間に問題山積みです』

「イチャイチャデートしてないからっ! でも…内側から崩壊とか怖い言葉!!」
『はい。ミサト。怖いものから逃げても、締め切りは伸びません』
「そこまで言う!? もぉぉぉ~!またずる休みしようかな、、」

 泣きそうになるミサトを、ゴブ太郎が大声で励ました。
「ぐははっ! ミサトならできる! オレたちに任せろ! 力仕事、泥仕事でもなんでもやってやる!」
 その言葉に、ミサトは少しだけ笑みを取り戻す。
「ありがと……。そうだよね。なんか方法、考えなきゃ」

 空を見上げると、白い湯けむりがゆらゆらと風に溶けていく。
 、、湯ノ花を育てるための、本当の戦いはこれからだ。

◇◇◇

『はい。ミサト。まずは課題を整理しましょう』
「うん。商人の独占、民の保護、帳簿の管理……あと何かある?」
『はい。あとは治安、税制、そして人材の育成。最低でもこの三点が必要です』

「おぉ……まじで社畜OL時代の経営会議みたい……!」
『はい。ミサト。人は成長しても、課題は似ています』
「社畜の成長物語って言われると……なんか切ないっ!」

 ミサトは深呼吸し、仲間たちを見回した。
「よし。とりあえず……一個ずつ、片付けてこう! ね!」
 ゴブ太郎たちが拳を突き上げ、カイルは眼鏡を押し上げ、エルナは小さくうなずく。
 小さな決意が、ミサト式楽市楽座のざわめきの中で確かに芽生えていた。


          続
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