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第25話 【二本柱の第一歩】
しおりを挟む次の日の陽が傾きかけた湯ノ花の里に、威勢のいい掛け声が響いた。
「おーい! 石をどかせ! この丸太はもっと端に寄せろ!」
「旗立てろ! これが“自警団見回り中”の合図だ!」
ゴブ太郎、ゴブ次郎を先頭に、ゴブリンたちが大きな木槌を振るいながら、通りに立て札や柵を設置していく。
旅の通行人たちは最初ぎょっとしたが、ミサトが説明に回ると、やがて子供たちまで「うわぁ!ゴブリンのおまわりさんだ!」とはしゃぎだした。
「……ほんとに、治安維持をゴブリンに任せるなんて、正気の沙汰じゃないわよね~」
ミサトは腰に手を当てて呟いた。
『はい。ミサト。ですが、豊臣秀吉も最初は荒くれ者や浪人を組み入れて秩序を作ったのです。外見ではなく“役割”を与えることが要なのですよ』
リリィの声は、まるで歴史の講義をそのまま切り取ったように淡々としている。
「うん。まあね。……でも、見てみてよ!あの嬉しそうな顔☆」
ミサトが指さす先で、ゴブ太郎とゴブ次郎が、夜警当番を決めて大げさにじゃんけんをしていた。
「ぐははっ! 夜はオレに任せろ!」
「なに言ってんだ兄貴! オレだって見回りたいんだよ!悪者の頭を棍棒でフルスイングしたいんだよっ!!」
言い合いながらも、旗を掲げるその姿はどこか誇らしげだった。
「ふふ、案外うまくやってくれるかもね。言ってる言葉はめちゃくちゃ物騒だけど……」
ミサトが微笑むと、リリィが小さく息をついた。
『はい。ミサト。泣かぬなら、鳴くまで待とう、ホトトギス。……まさにその忍耐です』
「ちょっ、それ家康のやつでしょ! 私バージョンにしないで!」
思わず赤面するミサトに、リリィが茶々を入れる。
『はい。ミサト。では、、泣かぬなら、ミサトが殴って泣かせてみせましょう、ホトトギス』
「おいっ!まだイジるか?? しかも無理矢理やめろぉぉ! それじゃ悪徳パワハラ上司みたいじゃんかよっ!!」
そんなやり取りに、近くにいた子供たちまで笑い出した。
◇◇◇
夕方、今度は村の広場に人々が集まっていた。木の机が並び、その上には分厚い帳簿や羊皮紙が積み上げられている。
「数字を管理する……? そ、そんな難しいこと、私には」
農夫の妻が肩をすくめる。
「安心しろ、最初は誰もできない。だから今からちゃんと説明する」
カイルが眼鏡を押し上げながら、新しい帳簿の試作を掲げた。
「一枚に一ヶ月分。品物ごとに入と出を分ける。収支が合えば丸印。合わなければ赤で印をつける」
「なるほど……色でわかるのね」
エルナが試しに帳簿に線を引き、赤い丸と黒い丸を描き分けた。
「はい。これなら私でもできそうです!」
ぱっと顔を明るくするエルナに、周囲の村人たちも少しずつ身を乗り出してくる。
だが、、
「へぇ、でもさ、数字遊びしてる間に盗まれたらどうすんだ? 結局さぁ、食えりゃいいんだろ?」
不満げな声が一人の男から飛んだ。
ミサトはきゅっと眉を寄せた。
「……だからこそ、二本柱にするんだよ」
「二本柱?」
「治安と帳簿。どっちかだけじゃ片手落ち。でも両方が噛み合えば、安心して取引できる。結果的にみんなの暮らしが安定する」
その言葉に、リリィが大きく瞬いた。
『はい。ミサト。補足します。 みなさん、徳川家康と言う人物は町奉行を置き、記録を厳格にして秩序を守った。それは武力ではなく仕組みの力だった。そして豊臣秀吉と言う人物は、検地で土地を正確に把握した。二人の手法を併せれば、この小さな国でも“大名並み”の基盤が築けます』
リリィがさらりと補足する。
「おおぉ……説明がまたリアル歴史偉人のマシマシ合わせ技……!」
ミサトは天を仰いだ。
「でも、スケールがデカ過ぎて私にそんな大それたことまでは……」
その手を、そっとエルナが握った。
「もう、心配性なんですから。大丈夫。できますよ。だって、ここまで導いてくれたじゃないですか」
横でゴブ太郎が拳を突き上げる。
「ぐははっ! 泥棒も悪党も、俺たちゴブリンがぶっ飛ばしてやる!」
カイルはため息をつきつつも、口元を緩めた。
「仕組みづくりは骨が折れるが……数字をまとめるのは俺の役目だな」
ミサトは一度深呼吸し、皆を見渡した。
「よし。……わかった。じゃあ、まずは小さく始めよう。夜警と見回りを“当番制”に。帳簿は“見本”を作って練習用に。最初から完璧は無理だけど、動き出すことが大事だと思う!うん。今日からみんなで始めよーー!!」
沈黙の後、広場に「「「おぉぉぉぉ!!」」」と大きな歓声が広がった。
◇◇◇
夜。焚き火を囲み、見回りを終えたゴブリンたちが笑い声を上げる。
「ひっひっひ!今日は泥棒来なかったな!」
「そりゃそうだ、オレたちの顔見たら逃げるに決まってる!見つけたら頭に棍棒フルスイングだかんなぁ~!あははっ!」
「いやいや!聞かない振りしてたけど、、フルスイングしちゃダメだろ……。あと、それ怖がられてるだけだから!」
ミサトが突っ込みを入れると、皆がどっと笑った。
炎の明かりに照らされながら、リリィの声が落ち着いて響く。
『はいミサト。順調ですね。動き出した歯車は、もう止まりません』
「うん。……そうだね!第一歩、ってやつだね~」
ミサトは小さく呟き、焚き火を見つめた。
焚き火が小さくはぜ、夜の帳が里を包む。
「ねえリリィ……私、本当に大丈夫かな。秀吉とか家康みたいなこと、やれるのかな……」
ミサトは肩をすくめた。
『はい。ミサト。心配性ですね。泣かぬなら 笑うまで寄り添う、、それがあなたのスタイルでしょう?』
「え、なにそれ……私の新バージョンまた作ったでしょ!」
『はい。ミサト。ええ。だって歴史の偉人たちも、あなたを見たらきっと目を丸くしますよ。“泣かぬなら働かせてみせようホトトギス”ってね』
「やめろぉぉぉ!! 社畜イジりトーク混ぜんなぁぁ!」
ミサトの抗議に、焚き火の明かりがふっと揺れ、夜空に笑い声が溶けていった。まだ不安定で、まだ危うい。けれど確かに“何か”が始まったのだ。
続
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