【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
138 / 179

第33話 【砂漠の嵐 再会の予感】

しおりを挟む

 夜風が砂を巻き上げる。焚き火の灯がオレンジに揺れ、作戦前の砂丘を染めていた。
 ミサトは火を見つめながら、ポケットのリリィとマリーの顔を順に見た。
 バレンティオとフィオナもそこにいた。五人の影が長く伸びる。

「とりあえずミサトに言われたこれが“奪還作戦”の全貌だ」
 地面に描かれた地図の上を、バレンティオの指が滑る。
「俺が雇った傭兵団《スコルピオン》が宮殿正面で暴れる。その混乱で北門の兵が薄くなる。その隙に、ミサトたちがリュウコクの坊ちゃんを救い出す」

 ミサトは眉をひそめた。
「傭兵団って、、いつの間に?……それに暴れるって、どのくらい?」
「そりゃあ、いきなり突っ込んで奪還出来るほどザイールは甘くない。ふふ、暴れる規模は砂漠の夜が昼になるくらいさ。派手じゃなきゃ意味がないし、つまらないからな!はははっ!」
 バレンティオが白い歯を見せて笑う。

 だが、ミサトは笑えなかった。
 胸の奥がざわついていた。人が死ぬ匂いがする、、、そんな夜だった。

「ねぇ、傭兵さんたちに伝えて欲しいんだけど……」
「えっ?何を?」とフィオナが首を傾げる。
「、、絶対に、死んじゃダメだって!」
 一瞬、風が止まった。

 焚き火の向こうで、傭兵たちがこちらを見ていた。筋骨隆々の男たちが、まるで子供のように目を丸くする。
 やがて一人が笑い出した。
「がははっ!雇い主にそんなこと言われたの、初めてだな!」
「ぎひひっ!そうだなぁ~!俺たち、死ぬ覚悟で金もらってんだぜ?」
「でも、、なんか悪くねぇな、そういうの」

 彼らの笑い声に混じって、ミサトは小さく拳を握った。
「家族はいるの?故郷にお金は送れた?」
 傭兵のひとりが、頬を掻いてうなずく。
「あぁ、、送ったさ。これで女房も息子も食ってける。後は野となれ山となれ、ってな」

 ミサトは涙目で鼻をすすった。
「必ず生きて帰って。そして家族で湯ノ花の里に来て!来たら、美味しいお酒と温泉、奢るから☆」
「温泉!? 奢り? 本当かよ!」
「それに女王自ら接待だぜ!」
「ミサト様様の入湯祝いってやつだな!ぎひひっ!」

 笑いが夜風に溶けた。
 リリィの電子音声が静かに響く。
『はい。ミサト。あなたは相変わらず“ブラックな現場”でも優しすぎます』
「……あはは。優しいか……。社畜はね、人が倒れる姿見るのが一番つらいの」
『はい。ミサト。了解。ではこの作戦、全員無事故で終えることを最優先目標に設定し直します』
「あははっ!リリィに安全祈願される日が来るとはね」 
 ミサトが笑うと、風がまた砂を運んだ。

『はい。ミサト。ところで帰還後の残業申請はもう提出済みですか?』
「誰がするかっ!ていうか、どこの世界でも残業制度はあるのね……。しかもその書類、どうせ私の所に来るんでしょ??」
『はい。ミサト。勿論貴女が処理します。でも安心してください、今回も異世界労基法に照らしても違反です』
「むっきゃぁぁぁ!異世界労基法とかあったんかい?? はいはい、そりゃ頼もしいですな。でもその法律、まず私の湯ノ花に導入してよ?」
『はい。ミサト。承認プロセスには上司のサインが必要です』
「んっ?リリィに上司いるのかいっ?! でもリリィ……あんたも結局、上司には逆らえないのね」
『はい。ミサト。AIも二十四時間三百六十五日勤務の社畜の鏡ですから』
「あははっ!ご苦労様です。チーン♪」

 夜明け前。月が雲に隠れる瞬間、作戦は始まった。
 傭兵たちが火薬を抱え、宮殿の外壁へと散る。
 轟音が砂を割り、炎が砂丘を照らす。
 その隙に、ミサトたちは北門へと走った。
 、、そして同じ頃、王都の地下牢では。

◇◇◇

 松明の灯りがゆらゆらと壁に踊る。
 リュウコクは鎖に繋がれた手首を見つめ、静かに息を吐いた。
「ふふっ!……ずいぶんと風の匂いが違うな。そろそろかな??」

 その時看守が一人、巡回に現れた。
 足を引きずるその姿。利き腕に松明を持っていない。
 リュウコクは低く囁いた。
「やぁ、そこの君、、“故郷の味はまだ覚えてるかい”?」

 男が一瞬、立ち止まる。
 次の瞬間、震える声が返った。
「……えぇ。昨日のことのように、覚えております」

 錆びた鍵が鳴る。
 牢の扉が静かに開かれ、リュウコク達を解放した。
 リュウコクは微笑み、男の肩に手を置く。
「長い間、ご苦労だったね」
 男は涙を流し、膝をついた。
「王子様、、いや国王。こんな私に、勿体ないお言葉を……」

 カリオスが眉をひそめた。
「おいっ?リュウコク、これはどういうことだ?」
「あははっ!父上の時代から仕えてくれた影の一人サミールだ。ずっと潜んでいたのさ」
 サミールは深く頭を下げた。
「ラインハルト王国の志を、いつか果たせる日を待っておりました」

 牢の外に出ると、夜の冷気が肌を撫でた。
 遠くで爆音が響く。砂漠の空が赤く染まり始めていた。

「おっ?……始まったのかな? でもまた随分と派手にやるねぇ…」
 リュウコクは呟き、サミールを振り返った。
「お前はどうする?」
「私はここに残ります。目立たぬよう後方を支えますので…。後ろはご安心を」
 そしてサミールは両手を合わせ、静かに言った。
「ラインハルト国王。ご武運を」

 リュウコクは微笑みその手を握り返した。
「君の舌が故郷の味を忘れる前に必ず平和な世界にする。その時は一緒にラインハルトで飲もう☆」
 リュウコクが笑うと、松明の火が彼の瞳に映り、黄金のように輝いた。
 サミールはその光景を胸に焼き付けた。

「おいっ!リュウコク!」カリオスが前方を指す。
 北門の方角から、爆炎の光が走った。
 ザイール兵士たちが慌てて走る様子が見える。
 その混乱を縫って、リュウコクたちは影のように動く。

◇◇◇
 
 風が吹く。砂が舞い、炎の赤と夜の黒が混じり合う。
 その時、リュウコクの耳に微かな音が届いた。
 遠くで、、女性の声が風に乗って響いた気がした。
「お~い!バカ王子!何捕まってんだよっ!!本当!私が居ないとダメなのか?? よく聞いて、リュウコク。“迎えにきたよ”」

 リュウコクは思わず空を見上げ、笑った。
「あははっ?幻聴?それか本当に言った??……あぁ、まったく。君は本当に、予想外の人だな……」
 カリオスが怪訝そうに見る。
「何ニヤニヤしてんだよ!早く行くぞっ!」
「んっ?あぁ、、ゴメンゴメン。なんかミサトの声が聞こえた気がしちゃって。あははっ!」
「するかっ!惚けるのは逃げてからにするぞ!」

 砂漠の夜に、嵐の予感が走った。
 誰も知らぬ再会の時が、すぐそこまで迫っていた。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...