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第35話 【処刑台の空に立つ】
しおりを挟む夜が明ける前の北門の空は、まるで誰かが息をひそめたように静かだった。
砂漠の風が止み、空気の重さが胸にのしかかる。
「ほらっ!……リュウコクっ!逃げるよ!」
ミサトの叫びが、炎と砂塵に呑まれる。
背を向けたリュウコクが、笑って振り返った。
「みんなを連れて行け。ミサト。僕が足止めする」
「バカ!置いてくわけないでしょっ!!」
叫ぶ声に、リュウコクは首を振る。
その瞳は不思議なほど穏やかだった。
「大丈夫。約束しただろ? “もう離さない”って。でも、今だけは、、君を送り出す方が先なんだ。それにこっからが僕の予定だしね☆。 “機械!後は頼んだよ!”分かるよね?“僕の言っている意味”!」
その言葉にミサトが動揺する間もなく、兵の群れがリュウコクを取り囲んだ。
剣が閃き、鎖が音を立て、リュウコクは捕らえられた。
「ちょっ!リュウコク、、っ!!」
リリィの通信が耳元で震える。
『はい。ミサト。これ以上追跡不可。リュウコク、敵の中央広場に移送されています。このままここにいるとミサトも捕まってしまいます』
「なんで!……くそっ、あのバカタレ!絶対に助け出す。絶対に」
ミサトは拳を握り、砂を蹴った。
◇◇◇
次の日のザイール王国の中心、円形の処刑台。
昼の十二時を回ろうと言うのに灰色の曇り空の下、数百の民衆がリュウコクの処刑を見ようと押し寄せていた。 風が旗を叩き、鈍い太鼓が鳴る。
鎖につながれたリュウコクが、台の中央に立たされる。
その姿を見下ろすように、王女ザハラが玉座のような高台に腰を下ろしていた。
金糸の衣が風に翻る。
その金色の瞳には、静かな怒りと、何かを決意したような影。
「お騒がせ者のラインハルト、リュウコク。昨日の夜はずいぶんとお楽しみだったようだね……。貴様は我が国の混乱を招き、民を惑わせた。その罪、命をもって償うがよい」
「ふふっ!……そうか。けどね、王女。僕はこの国を壊そうなんて思ってなかった。ただ、縛られてるものを、、解きたかっただけだ」
リュウコクの声が、群衆のざわめきの中に響く。
その声は、風よりも静かで、どこか優しかった。
「黙れ!」と衛兵が槍の柄で彼を叩こうとした瞬間、
どこからか小さな煙玉が弾けた。
白煙が舞い上がる。 群衆がどよめく。
その中に紛れているミサト達。その時リリィの小さな電子音が鳴った。
『はい。ミサト。リュウコクからの信号確認。ミサトからの支援ラインが作動しました』
「あはは……来たか!」
リュウコクは鎖を引きちぎり、軽やかに跳ね上がる。
処刑人の剣が唸るが、彼は一歩も引かない。
かわし、奪い、背後へと回る。
だが、刃を突き立てることはしなかった。
代わりに、手に取った剣を地面へ突き立てた。
「今一度言う!ザハラ王女。我々ラインハルト王国は殺し合いはもう、うんざりなんだ!」
群衆の中に、微かな息が漏れた。
その姿は、戦士ではなく、言葉で戦う者のようだった。
「私を人質にするのか!?それこそ戦争だぞ!!」
ザハラの声が、わずかに震えた。
「人質??違うよ。あなたを、連れて行く」
「……何?」
「敵の女王としてじゃない。“これからの未来を語る人間”としてね!!」
その言葉に、ザハラが初めて目を見開く。
そのとき、広場の外周で爆音が轟いた。
ミサトたちの陽動が始まったのだ。
白煙が一気に吹き上がり、兵士たちが視界を失う。
「よしっ!捕まえたね。今だ! リリィ、道を示してあげて!」
『はい。ミサト。了解。脱出経路、北東門方向。熱源検知ゼロ。行けます!』
リュウコクはザハラの腕を引き、笑いながら処刑台を跳び降りた。
驚く彼女を抱きかかえ、群衆の波をすり抜ける。
カリオスやバレンティオ、マリーが叫んだ。
「逃げろ! 処刑人が生きてるぞ!」 「殺されたくない奴は道を開けろ!!」 「首が飛ぶぞぉぉぉ!!」
民衆が割れ、道が生まれた。
その道を、リュウコクはまっすぐ駆け抜けた。
◇◇◇
北門にたどり着いたとき、砂風が再び吹きつけた。
そこにはミサトが待っていた。
砂まみれの頬に涙の跡が光る。
「バカ……!バカ……!バカ…!バカ…!バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!ばぁぁぁかぁぁぁ!!」
「痛い!痛い!痛い!痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛!!ごめんって!牢に入れられた時に考えて、ここまでが僕の計算だったんだよ。でも、、ミサト来てるって言うから、、会いたくなっちゃって!本当はあのまま二人で帰っても良かったんだけど、、また攫いに来るのめんどくさいし…。本当ごめんって!軽い寄り道だと思って☆」
「なにぃぃぃぃ!!軽い寄り道って!!危うく首飛んでただろうがぁぁ!!それに人質抱えて帰ってくるなっ!」
『はい。ミサト。ツッコミは後でまとめてログ化します』
「リリィっ!!やめろぉぉぉ!!」
ザハラが呆れたように二人を見つめた。
その表情は、もはや敵のものではなかった。
「……お前たち、本当に我らと戦う気があるのか??私の首を刎ねぬのか?」
「んっ??戦う気?あるよ。湯ノ花とラインハルトとザイールの未来とね☆あと、、絶対に首なんか刎ねさせないから心配しないでね!」
ミサトの言葉に、ザハラの肩がわずかに震えた。
砂の向こうで朝日が昇り始める。
金色の光が三人の背を照らした。
「おーいっ!遊んでんのもいいけど追っ手が来る前に逃げようぜ!」
マリーがそう言うとカリオスとバレンティオが用意してあったラクダの馬車とラクダを指差した。
ミサトがリュウコクの肩に手を置く。
「うん。お疲れ様♪帰ろう。湯ノ花に」
リュウコクが静かに頷くと、リリィが静かに告げた。
『はい。ミサト。全員生還確認。作戦、完了です』
◇◇◇
砂を蹴る馬車の揺れが、戦場の記憶を遠ざけていく。
薄い布の天幕の中、ラクダの足音がとくん、とくんと響いた。
ミサトの隣で、リュウコクが静かにミサトの肩にもたれかかる。
息が触れるほど近い距離。
彼の指先はまだ傷だらけだったが、その寝顔はどこまでも穏やかだった。
「悪りぃな……こいつ、ずっと寝てなかったんだ。今は、殴らないでやってくれよ」
前方でザハラを見張るカリオスがぼそりと呟く。
「はぁぁあ!殴るわけないでしょ!私のことアマゾネスとか思ってんのか??」
ミサトがむくれて小さな声で返すと、リリィが控えめに電子音で笑う。
『はい。ミサト。心拍上昇。感情データ•照れを観測』
「うるさいっ!照れてないっ!」
そう言うとミサトはそっとリュウコクを見つめ呟いた。
「まったく、、甘えちゃって。今日だけだからな……」
その様子を見ていたザハラが、ぽつりと漏らした。
「……これが、“国王”とその仲間たち、なのか?」
その声には、嘲りではなく、確かな興味が宿っていた。
ミサトは微笑む。
「あはは。そうよ。ちょっと変わった国のね。興味出て来た?? そうだ!湯ノ花に着いたら一緒に温泉入ろうね♪」
「温泉??そう言えば前に旅の者が何か言っていたな??」
「ふふふ。着けば分かるって☆」
砂漠の空が白みはじめ、風がやさしく頬を撫でた。
それは、戦の終わりを告げる風だった。
そして、、次の始まりを連れてくる風でもあった。
続
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