【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第37話 【天守閣の約束】

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 湯ノ花の天守閣は、湯けむりと朝霧の狭間にそびえていた。
 硝子窓から見下ろすと、白い屋根と花の街並みが朝日に照らされ、まるで世界そのものが湯気の中で目を覚ますようだった。

 ミサトは大広間の卓の中央に温泉まんじゅうと湯呑みを置き、深く息を吸った。
 リュウコク、マリー、バレンティオ、ザハラ、そしてリリィのキューブが静かに漂っている。
 窓の外では、職人の掛け声と子どもの笑い声が響いていた。
 “戦場の音”ではない。
 それだけで、この朝がどれほど尊いものかが分かる。

「さてと、、」
 ミサトが口を開いた。
「今日は、“これからこの四国がどうするか”の会議です」

 リュウコクが穏やかに頷き、視線をザハラへ向ける。
「まずは、僕から提案を。ザハラ王女。僕は、ザイールとの和平を正式に結びたい。ザイールの徴兵令を解き、ラインハルト王国とも互いに武を取らない協定を結びたいと思ってる」

 広間に、風の音だけが通り抜けた。
 ザハラの金の瞳が細められる。

「……信用しろと?乗り込んで来て、王を攫うような奴を?? それに貴様の王国だって、兵を整えていただろう。湯ノ花を守る名目で、いつでも攻め入れる体制を整えていた。現に私を誘拐したのがわかったらすぐにザイールに攻め込もうとしてたではないかっ! そんな相手の言葉を、どうして信じられる?」

 マリーが眉を寄せた。
 リュウコクも一瞬言葉を失う。
 静寂の中、ミサトがゆっくり立ち上がった。

「あははっ!うん。そうだよね…。ザハラさんからしたら私たち人攫いだもんね……言ってる事よく分かるよ……。う~ん??じゃあ、、今から信じてもらえるようにするよ」
 その声は、やわらかく、それでいて迷いがなかった。
「私からの提案。ザイールに行った時に気付いたんだけど…表向きはとっても煌びやかで素敵だったんだけど、ライフラインが弱く見えちゃったのね。きっとそこが潤えばもう少し幸福度が上がると思うの。生活が満たされると自然とイライラしなくなるからね。だから、、湯ノ花で使ってるライフラインの技術、全部ザイールで使っていいよ」

「はぁ?!……なに?」
 ザハラの声がかすかに震えた。
 マリーは思わず立ち上がる。

「おいっ?!ミサト!? それじゃ、湯ノ花の客が減っちゃうじゃないか! 観光客が向こう行っちゃうかもしれないんだよ!?」

「あはは。だったら、近い方行ったらいいじゃん♪」
 ミサトはあっけらかんと言って笑う。
「ん~?でもね、湯ノ花の“接客”は負けないから。リピート率で勝負よ☆サービス!サービス!なんてね☆」

 マリーが頭を抱え、リュウコクが吹き出す。
『はい。ミサト。経営的リスク計算中……採算度外視、愛情主導型提案です』
「リリィ、採算とか機械的な事言うな! そういうのは“ロマン”って言うのよ!」

 そんなやり取りを見ていたザハラが、ふと表情を緩めた。
「言いたいことは分かった……それで、お前は何を差し出すつもりなんだ?」
「うん。温泉、トイレ、飲み水とかかなぁ??私が見た感じそれで足りそうだったけど…。あと欲しい技術があればリリィに聞いてみるよ」
『はい。ミサト。湯ノ花の里特許権、全解放モード確認中』
「そう、それそれ!欲しかったら全部使っていいよ♪温泉も運ぶし、スライムも連れて行く。スライムがいれば畑も作れるしね~。作るのに人手も足りなければうちのゴブちゃん達にも手伝って貰うから」

「んがっ、、……狂ってる…。自国をそれだけ曝け出し、全てを奪われたらどうするつもりなんだ…?」
 ザハラは息を呑んだ。
「では、、貴様はそれだけを差し出し、ザイールに何を望む?」

 ミサトは、笑って答えた。
「あははっ!決まってるよ☆“みんなの平和”《ミサト式スペシャルホワイト環境》だね!」

 その瞬間、広間の空気が変わった。
 風が吹き抜け、湯けむりがふわりと差し込む。
 リュウコクが一拍遅れて、天を仰ぎ、大の字でバタンと床に倒れ込んだ。

「あはははっ……もうダメだ……本当に君には敵わない。ますます、妻にしたいと思うよ。いや、、妻になってもらわないと僕の今世が終わらないよ…。来世の僕に取られるなんて耐えられない……」
「えっ!?ちょ、なに言ってんの!? イカれてんの??あんた今、会議中だよ??ラインハルトの国王でしょ!?隙見て私にちょいちょい告白すんなっ!」
『はい。ミサト。ドキドキしてる??恋愛フラグ上昇中です』
「はぁぁぁ!うるせぇぇ!私の心拍数とか測んのやめろっ!リリィぃぃぃ!!」
 広間に笑いがこぼれる。

「あのさ、本当にやめてよリュウコク! 冗談でもそんなこと言うとみんなに誤解されるよ!隣国の偉い人集まってるよ??」
「誤解?? いやいや僕はずーっと本気だけど?」
「はあ!? あんたねぇ!」
 ミサトが真っ赤になって椅子を蹴る。
 リュウコクは涼しい顔で湯呑みを口にした。
「この世界の平和は、君と一緒に作りたいんだ☆」
『はい。ミサト。確認しました。先ほどの発言、プロポーズワード検出。確率98%。』
「むっきゃきゃきゃ!!うるさいリリィ!いまは仕事中!」
『はい。ミサト。否定反応、照れ度数•高。恋愛フラグ確定です』
「ぬおぉぉぉぉっ!!確定すんなぁぁ!!」
「ふふふ。相変わらず可愛いなぁ~」
 リュウコクはそう言うと優しい目でミサトを見た。

 マリーも頬杖をつきながら、半ば呆れたように言った。
「いや、相変わらずのイチャイチャは見慣れたんだけどさ、、でもさ、真面目な話し、ミサトどうしたらそんな考えになるの? 普通、守るために戦うもんじゃない?」
 ミサトは少しだけ目を細めた。
「うん、前の世界でね……私、ずっと社畜ってやつだったんだ。誰かが勝てば誰かが負ける、そんな毎日。
 “仕事”って戦争と同じ構図なんだよ。
 でもね、気づいたんだ。 “勝たなくても、終わらせる”っていう選択肢もあるんだって。結局さ、足引っ張り合うより手を取り合った方がよっぽどいい仕事が出来るんだよね♪」

 その言葉に、静寂が落ちた。
 ザハラはミサトの横顔をじっと見つめ、やがて目を伏せた。
「……不思議ね。お前の言葉には、理屈じゃない“温度”がある」

 ザハラはゆっくりと立ち上がった。
「いいだろう。和平を受け入れる。ただし、、条件がある」
「条件?」
「あぁ、、ただ信用しろと言われて、はいそうですかにはならないだろ…。 こちらの臣下一人と、湯ノ花の臣下一人を、一定期間交換する。互いの国で生活し、互いを知る。それなら……信じてみようと思える」

 リュウコクが口を開きかけたが、ミサトが手を上げた。
「それなら納得できるのね……? わかった。一日、考えさせて」

 ザハラは頷き、窓の方へ歩み寄る。
 その背に、黄金の光が差し込んだ。
 リュウコクもまた、静かに外を見やった。
 遠くの砂丘の向こうに、黒い点がいくつも揺れている。

「ミサト……時間が、あまりないな。明日まで待てなそうだぞ……」
 リュウコクが呟く。
「どうやら、ザイールの軍勢が女王を取り返しに到着したらしい」

 湯ノ花の風が、ざわりと鳴った。
 その風の中で、ミサトは拳を握る。
 だがその瞳には、恐れはなかった。
 ミサトはただ、寂しそうに微笑んで言った。

「うん。わかったよ。このチャンス棒に振る訳にいかないもんね……」

 天守閣の鐘が、遠くで鳴り響いた。
 それは、戦いの合図ではなく、、
 新しい時代の幕開けを告げる音だった。

    
          続
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