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しおりを挟む「……はぁ」
私は、手元の紅茶をそっと口に運びながら、静かにため息をついた。
目の前には、広々とした公爵邸の中庭。
朝露に濡れた花々が、陽の光を受けて美しく輝いている。
かつて王宮での日々を過ごしていた私にとって、こんなに落ち着いた時間を持つのは初めてかもしれない。
——いや、厳密に言えば、落ち着いているとは言い難いのだけれど。
なぜなら、目の前にはヴァルター公爵がいるからである。
「レティシア、紅茶の味はどうだ?」
私の向かいで、相変わらず冷静な表情のまま公爵が問いかける。
「……おいしいですわ」
正直、味なんて気にしている余裕はない。
だって、この人、朝からずっと私のことを見てるんですもの!!
「……公爵?」
「なんだ」
「なぜそんなに私を見つめているのです?」
「お前の顔を見るのは当然だろう」
「……!!」
私は思わずカップを持つ手を震わせた。
最近、公爵の溺愛(?)が加速している気がする。
最初は「婚約者だから」という理屈だったはずが、
なぜか四六時中、彼の視界の中にいるようになっている。
朝食も一緒、散歩も一緒、そしてお茶会まで一緒——。
(いや、これはさすがに過保護では!?)
私は必死に冷静を装いながら、ゆっくりと言葉を選んだ。
「……公爵は、いつもお忙しいのではありませんか?」
「忙しい」
「ならば、そろそろお仕事に——」
「お前がいれば問題ない」
「えっ?」
「むしろ、お前がいないと仕事に集中できん」
「……」
もうダメだ、この人、本当に逃げ場を与えてくれない!!
私は天を仰ぎながら、心の中で嘆いた。
——ヴァルター公爵の独占欲、想像以上だった。
公爵邸での生活は、王宮とはまるで違う。
しがらみや陰謀が渦巻く王宮に比べ、ここでは心からくつろげる時間がある。
それに、公爵の執事や騎士たちも、意外なほど礼儀正しく、私を「公爵の婚約者」として丁重に扱ってくれる。
だが——
やはり最大の問題は、公爵自身である。
彼は私がどこへ行くにもついてくるし、
私が別の部屋で過ごそうとすれば、わざわざやって来る。
もはや、完全に囲われているのでは???
「……あの、公爵」
「なんだ」
「少し、一人の時間が欲しいのですが」
「なぜだ」
「えっ?」
「俺といるのが嫌なのか」
「いや、そういう意味ではなく!」
「ならば問題ない」
「……っ!!!」
私は思わずテーブルを握りしめた。
(……これ、何をどう言っても離れてくれないやつだ……)
溜め息をつきながら、私は静かに紅茶を飲み干した。
——ヴァルター公爵との婚約生活、前途多難すぎる。
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