お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん

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アレクシスは、目を閉じたまま静かに息を吐いた。

「アレクシス様……」

フローラ・ラングレーの声が震えている。

彼女はしっかりと彼の腕を掴み、涙を浮かべていた。

「どうか、私を見捨てないでくださいませ……!」

彼女の手はわずかに冷たかった。
ラングレー侯爵家が追い詰められ、フローラの立場も危うくなっている。

(ここで彼女を支えれば……俺はヴァルター公爵と正面から敵対することになる)

だが——

(ここで彼女を切り捨てれば……俺の立場は守れるが、フローラは終わる)

アレクシスは、深い苦悩に包まれていた。

——彼が決めるべきは、王子としての正しい道か、それとも、彼女を守る”情”か。

「アレクシス様……私は、あなたの婚約者ですわ」

フローラは、彼を見上げる。

「あなたが私を見捨てるなら、私は……」

彼女は言葉を詰まらせるが、その瞳には必死の訴えが宿っていた。

「……」

アレクシスは、ゆっくりと彼女の手を握り返す。

「フローラ」

彼は、静かに口を開いた。

「俺は……」

その言葉を言いかけたとき——

コン、コン

部屋の扉が控えめにノックされた。

「……?」

アレクシスが戸惑いながら振り返ると、侍従が静かに入室する。

「アレクシス殿下、至急のご報告がございます」

「……何だ?」

「先ほど、正式な通達が届きました」

「通達?」

「はい。“ラングレー侯爵家によるエーデルシュタイン公爵家への誹謗中傷”に関する正式な調査結果が発表されました」

「……っ!」

フローラの表情が一気に強張る。

「どういう内容だ?」

アレクシスが問いかけると、侍従は厳しい顔つきで続ける。

「ラングレー侯爵家が根拠のない噂を意図的に流布し、貴族社会を混乱させたことが確認されました。」

「……!」

「その結果、王宮は”ラングレー侯爵家に対する処罰を検討する”と発表しました」

——フローラの顔が、完全に青ざめた。

「処罰……ですって……?」

彼女の声が震える。

侍従は、静かに続ける。

「詳細な処罰内容はまだ決定しておりませんが……このままでは、ラングレー侯爵家の爵位剥奪、あるいは失脚の可能性もございます」

「……っ!」

フローラは、耐えきれずにアレクシスの腕を掴んだ。

「アレクシス様……あなたなら、止められますわよね?」

「……」

彼女の声は、まるで必死に縋るようだった。

「お願いです……王宮での影響力を使って、この処罰を阻止してくださいませ!」

アレクシスの胸の奥に、冷たいものが広がる。

(俺が、彼女を助けなければならないのか?)

(だが……)

彼は、ゆっくりと目を閉じた。

「……フローラ」

アレクシスは、ゆっくりと口を開いた。

「申し訳ない」

「……?」

フローラの瞳が、不安に揺れる。

「俺には……もう、お前を庇うことはできない」

「……え?」

彼の言葉が理解できず、フローラは呆然とする。

「王宮が正式に動いた以上、俺が口を挟めば、むしろ王家の立場が危うくなる」

「で、でも……!」

フローラは、必死に言葉を紡ごうとする。

「アレクシス様……私たちは婚約しているのですわ!あなたが私を守ってくださらなければ……!」

「……フローラ」

アレクシスは、静かに彼女の手を解く。

「俺は、もう君を支えることはできない」

「っ!!」

フローラの顔が、一瞬で蒼白になる。

「そ、そんな……!」

彼の手が、彼女から離れていく。

それはまるで——彼が、彼女を”切り捨てる”ことを意味していた。

「アレクシス様……」

フローラの声は、かすれた。

「あなたまで、私を見捨てるのですか……?」

「……俺は王子だ」

アレクシスの声は、どこか冷たく響いた。

「王家にとって、ヴァルター公爵は重要な存在……そして、俺は”王宮を守る”ことを優先しなければならない」

「……っ!」

フローラの足元が崩れ落ちそうになる。

(そんな……そんなはずがない)

彼は、レティシアを捨て、自分を選んだはずだった。
王子の婚約者として、これからも彼の隣に立つはずだったのに——

——彼は、もう、自分を庇うつもりがない。

「アレクシス様……!」

彼女は、震える声で最後の訴えをする。

「お願いですわ……どうか、私を……!」

だが、彼の瞳には、もう以前のような情は宿っていなかった。

「……すまない」

それが、アレクシスの最後の言葉だった。

フローラは、ふらふらと王宮の廊下を歩いていた。

(終わった……)

(私のすべてが……終わってしまった……)

ラングレー侯爵家は、王宮からの処罰を受け、爵位剥奪が決定した。

彼女は、王家の婚約者の座を守ることもできず、貴族社会での立場も失う。

(どうして……こんなことに……)

彼女は、“勝者”になるはずだった。

それなのに——

「……」

彼女は、ただ黙って、暗い廊下を歩き続けた。アレクシスへの暗い恨みを抱いたまま。
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