脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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ヒーローの悩み

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リディアはシャボン玉をふわりと吹きながら、その奥様方の会話に耳を傾けていた。

最初は単なる美形の騎士団の帰還の話が、次第に興味深い方向へと展開していく。

「でもね、その騎士様、どうやら女性にモテないみたいなのよ。」

「えっ、どうして?あんなにかっこいいのに?」

リディアは思わず手を止め、ブランコに腰掛けたまま耳を澄ます。
どうやら話は思わぬ方向に進んでいるようだ。奥様たちはさらに続ける。

「そうなのよ。あんなに見目麗しくて、力強い男なのに、どうも女性には縁がないらしいわ。」

「不思議ね。もしかして、照れ屋なのかしら?」

リディアは目を見開いた。美形で優しい騎士様が、なぜか女性にモテないというのは、まるで物語の中のような話だ。
そんな人物が実際にいるなんて、まるで夢のようだと思った。

「それだけじゃなくてね。あの騎士様、よく騎士団の仲間に、『誰かいい人を紹介してくれ』って嘆いているんですって。」

「なんてかわいらしい!」

リディアは少し驚きながらも、思わず笑顔がこぼれた。きっとその騎士様は、普段の強さや立派な姿からは想像もできないような悩みを抱えているのだろう。
それにしても、そんな素顔があるなんて、ますますその人物に会ってみたくなった。

「なんだか面白い騎士様ね。」

リディアは一人ごちた。そう、彼女にとってはまだその騎士様の姿を見たことがなかった。
それでも、今やその騎士の存在が、どこかで気になる存在になっていた。

「でも、どうしてモテないのかしら?きっと、心に何か秘密があるんでしょうね。」

リディアはシャボン玉を一つ、ふわりと空に放った。街の人々がそれぞれの生活を楽しんでいる中で、どうしても騎士様のことが気になって仕方なかった。
その騎士様が本当にどうしてモテないのか、何か理由があるのだろうか。

「ちょっと気になるな…」

くすっと笑い、リディアはブランコを漕ぎながら、その騎士様のことを心の中で思い浮かべた。



リディアが露店の前でポーションを並べていると、突然、いかつい熊のような騎士が近づいてきた。

彼の大きな体は重々しく地面を揺らし、鋭い眼差しでリディアを見据えていた。
その横には、青い瞳とさらさらの髪を持つ、どこか優雅な雰囲気を漂わせた騎士も立っていた。

「おい、治癒ポーションをたくさん作れ。」

いかつい騎士の声が、リディアの耳に突き刺さった。
その冷徹で無愛想な口調は、リディアを一瞬で神殿での過酷な生活を思い出させた。まるであの時の神官たちの命令のように、強制的で、何の選択肢も与えられないような言い方だった。
リディアは一瞬硬直し、胸がざわついた。

「強制労働だけはもう…」

心の中でそう思いながら、リディアは必死に冷静さを取り戻した。
神殿での日々、無理やり大量に作らされたポーション、そしてその後の絶え間ない仕事に対する恐怖が蘇ってきた。

「い、いえ、今ある分だけをお売りします。」

リディアは震えながら答えた。強制的に働かされるようなことはもうごめんだ。
これが今の自分の生活だと、心に強く決意を抱き、露店に並べている分だけを売ることにした。

いかつい騎士は少し眉をひそめたが、リディアの答えに特に反論することもなく、財布から金を取り出してポーションを購入していった。

その後、青い瞳の美形騎士がリディアのポーションに目を留めた。
特に「ニコニコポーション」に興味を示して、じっと見つめている。

「これは…?」

リディアはその視線に気づき、少し恥ずかしくなりながらも答えた。

「ニコニコポーションです。飲むと、どんな時でも笑ってしまうポーションですよ。」

美形騎士はその説明を聞くと、にやりと笑みを浮かべて、ポーションを手に取った。

「これで、もしかしたら…彼女が出来るかもしれないな。」

リディアはその言葉にちょっと驚いた。
騎士は、ポーションを手に掲げ、まるでその効果で気になる人と仲良くなれるかもしれないと期待しているようだった。
どうやら彼には、少し表情筋が固く、緊張すると笑顔を作れない癖があるらしい。

リディアはそれを見て、すこし微笑ましく思った。

「がんばってくださいね、騎士様。」

美形騎士はその微笑みに一瞬ほっとしたように見えたが、すぐに真剣な顔をしてポーションを袋にしまう。
リディアは静かに去っていくふたりの姿を見送った。

そして、今日も街の一角で平穏無事に過ぎていく日常に、少しだけ胸を躍らせながら、笑顔を浮かべて作業を続けた。
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