15 / 209
悪い知らせ
しおりを挟む
露店の賑やかな空気に包まれた広場で、リディアは色替わりポーションを手に笑顔を振りまいていた。
「見て見て、こんなに鮮やかな青髪になったよ!」と、露店の隣でパンを焼いている店主が頭を誇らしげに振る。
「まるで空みたいだね!」とリディアが感嘆すると、客たちも次々に試してみようと集まってきた。
髪の色や目の色が次々と変わる様子に笑いが絶えず、リディアもその光景に満足げだった。
そんな和やかな時間を切り裂くように、金属の響きを立てた重い足音が近づいてきた。
顔を真っ青にした衛兵が息を切らせながら叫ぶ。
「スタンピードだ!非戦闘員はすぐに冒険者ギルドの地下へ避難しろ!」
その一言が場の空気を一変させた。
「スタンピードって、魔物の群れが押し寄せてくるってことだよね?」
リディアは背筋に冷たいものが走るのを感じながら衛兵に問いかけた。
衛兵は頷き、さらに説明を続ける。
「魔物たちが森の方向から集団でこちらに向かってきている。この街の冒険者たちが迎撃に向かうが、万一を考えて住民を避難させているんだ!」
周囲の人々は顔を見合わせ、急いで露店の品を片付け始めた。
リディアもポーションの瓶を箱に詰め込みながら、手が震えるのを止められなかった。
魔物の群れが来る──そんなことは神殿にいた頃でも想像すらしたことがない。
「どうしたら…」声が震えて出てしまう。
すると、アラニスが隣に来て、リディアの肩に優しく手を置いた。
「大丈夫よ、リディア。私たちは一緒に避難すればいいの。怖がらなくていいわ。」その穏やかな声に、リディアは少しだけ落ち着きを取り戻した。
しかし、その時ふと箱の中のポーションたちに目を向けたリディアの脳裏に、ある考えが浮かんだ。
「もし、私のポーションが役に立つなら…」小声で呟いた彼女の言葉に気付いたアラニスが、心配そうに尋ねた。「まさか、何かするつもり?」
リディアは静かに首を横に振ったが、心の中では違う感情が芽生えていた。
この街の人々を笑顔にしてくれたポーションたちが、今度は命を守るために使えるかもしれない。安全な場所へ避難するべきだという理性が彼女を縛る。
「さあ、急ごう!」アラニスが声をかけ、二人は避難する人々の列に加わった。
リディアは箱の中に手を伸ばし、いくつかのポーションをそっとポケットに忍ばせた。
魔物が迫るという恐怖と、役立ちたいという気持ちの狭間で、彼女の心は揺れていた。
地下避難所は、石造りの頑丈な空間で、外の騒ぎが嘘のように静かだった。
リディアはポーションの箱を足元に置き、避難してきた人々の不安げな様子を見ていた。
空気は重く、魔物のスタンピードという未知の脅威が人々の心に影を落としているのが感じられる。
突然、重い足音が響き、リディアの目の前に熊のような体格の騎士が現れた。
その顔は血の気を失い、肩には深い傷を負っている。
「露店でポーションを売っていた娘だな!」彼の声は切羽詰まっていて、リディアの肩を力強く掴んだ。「治癒ポーションを、今すぐ作ってくれ!」
リディアは驚いて顔を上げた。
「え、でも…治癒ポーションは気休めの携帯用で…。私が直接治癒の魔法をかけた方が早いし効果も強いわ!」そう言って手を伸ばそうとするが、彼は怪訝そうに眉をひそめた。
「治癒の魔法だと…?そんなものがあるわけがないだろう!」
その一言に、リディアは息を飲んだ。
「えっ…?でも、普通は怪我をしたら治癒の魔法で…」言いかけて、彼女ははっとした。この世界には魔法使いがあふれている。
それなのに、誰も治癒の魔法を使っていないことに気づいてしまった。
「この世界には…治癒魔法がないの?」
彼女は声を落として呟いた。
その言葉に、騎士は苛立ちを見せながら続けた。
「治癒魔法だと?おとぎ話の中だけのものだ。怪我をしたら、薬草で作った粉薬や包帯で応急処置をするしかない。それか、医師に診てもらうまで放っておくんだ!」
リディアの頭の中で、いくつもの考えが巡った。治癒魔法が当たり前だった自分の世界。
けれど、この世界ではその「当たり前」はないという。傷を癒すためには時間と労力がかかる。
この騎士がここまで血相を変えて治癒ポーションを求めたのも、そういう背景があったからなのだ。
リディアは決心したように頷いた。
「今すぐ、あなたの傷を癒すからじっとしていて!」
そう言うと、彼女はそっと手をかざし、魔法陣のような淡い光が騎士の肩を包み込んだ。光が消えると、傷は見る間に塞がり、痛みが和らいでいくのがわかる。
驚きの表情を浮かべた騎士は、肩を動かしながらリディアを見た。
「…まさか、本当に癒えたのか?これは夢か何かか?」
その声には信じられないという気持ちがありありと表れていた。
「夢じゃないよ」
リディアは微笑みながら力強く頷いた。
騎士は一瞬呆然としていたが、すぐに目を輝かせて頭を下げた。
「君の力があれば、多くの命が救える。どうかもう少し、戦場の仲間を助けてくれないか!」
その切実な頼みに、リディアは少し考え込んだが、やがて覚悟を決めたように口を開いた。
「できるだけ頑張ってみる。でも、終わったら…また私の露店で愉快なポーションを買ってね!」
そう言って、リディアはポケットにいくつか小瓶を忍ばせながら、次なる治癒へと歩み出した。
「見て見て、こんなに鮮やかな青髪になったよ!」と、露店の隣でパンを焼いている店主が頭を誇らしげに振る。
「まるで空みたいだね!」とリディアが感嘆すると、客たちも次々に試してみようと集まってきた。
髪の色や目の色が次々と変わる様子に笑いが絶えず、リディアもその光景に満足げだった。
そんな和やかな時間を切り裂くように、金属の響きを立てた重い足音が近づいてきた。
顔を真っ青にした衛兵が息を切らせながら叫ぶ。
「スタンピードだ!非戦闘員はすぐに冒険者ギルドの地下へ避難しろ!」
その一言が場の空気を一変させた。
「スタンピードって、魔物の群れが押し寄せてくるってことだよね?」
リディアは背筋に冷たいものが走るのを感じながら衛兵に問いかけた。
衛兵は頷き、さらに説明を続ける。
「魔物たちが森の方向から集団でこちらに向かってきている。この街の冒険者たちが迎撃に向かうが、万一を考えて住民を避難させているんだ!」
周囲の人々は顔を見合わせ、急いで露店の品を片付け始めた。
リディアもポーションの瓶を箱に詰め込みながら、手が震えるのを止められなかった。
魔物の群れが来る──そんなことは神殿にいた頃でも想像すらしたことがない。
「どうしたら…」声が震えて出てしまう。
すると、アラニスが隣に来て、リディアの肩に優しく手を置いた。
「大丈夫よ、リディア。私たちは一緒に避難すればいいの。怖がらなくていいわ。」その穏やかな声に、リディアは少しだけ落ち着きを取り戻した。
しかし、その時ふと箱の中のポーションたちに目を向けたリディアの脳裏に、ある考えが浮かんだ。
「もし、私のポーションが役に立つなら…」小声で呟いた彼女の言葉に気付いたアラニスが、心配そうに尋ねた。「まさか、何かするつもり?」
リディアは静かに首を横に振ったが、心の中では違う感情が芽生えていた。
この街の人々を笑顔にしてくれたポーションたちが、今度は命を守るために使えるかもしれない。安全な場所へ避難するべきだという理性が彼女を縛る。
「さあ、急ごう!」アラニスが声をかけ、二人は避難する人々の列に加わった。
リディアは箱の中に手を伸ばし、いくつかのポーションをそっとポケットに忍ばせた。
魔物が迫るという恐怖と、役立ちたいという気持ちの狭間で、彼女の心は揺れていた。
地下避難所は、石造りの頑丈な空間で、外の騒ぎが嘘のように静かだった。
リディアはポーションの箱を足元に置き、避難してきた人々の不安げな様子を見ていた。
空気は重く、魔物のスタンピードという未知の脅威が人々の心に影を落としているのが感じられる。
突然、重い足音が響き、リディアの目の前に熊のような体格の騎士が現れた。
その顔は血の気を失い、肩には深い傷を負っている。
「露店でポーションを売っていた娘だな!」彼の声は切羽詰まっていて、リディアの肩を力強く掴んだ。「治癒ポーションを、今すぐ作ってくれ!」
リディアは驚いて顔を上げた。
「え、でも…治癒ポーションは気休めの携帯用で…。私が直接治癒の魔法をかけた方が早いし効果も強いわ!」そう言って手を伸ばそうとするが、彼は怪訝そうに眉をひそめた。
「治癒の魔法だと…?そんなものがあるわけがないだろう!」
その一言に、リディアは息を飲んだ。
「えっ…?でも、普通は怪我をしたら治癒の魔法で…」言いかけて、彼女ははっとした。この世界には魔法使いがあふれている。
それなのに、誰も治癒の魔法を使っていないことに気づいてしまった。
「この世界には…治癒魔法がないの?」
彼女は声を落として呟いた。
その言葉に、騎士は苛立ちを見せながら続けた。
「治癒魔法だと?おとぎ話の中だけのものだ。怪我をしたら、薬草で作った粉薬や包帯で応急処置をするしかない。それか、医師に診てもらうまで放っておくんだ!」
リディアの頭の中で、いくつもの考えが巡った。治癒魔法が当たり前だった自分の世界。
けれど、この世界ではその「当たり前」はないという。傷を癒すためには時間と労力がかかる。
この騎士がここまで血相を変えて治癒ポーションを求めたのも、そういう背景があったからなのだ。
リディアは決心したように頷いた。
「今すぐ、あなたの傷を癒すからじっとしていて!」
そう言うと、彼女はそっと手をかざし、魔法陣のような淡い光が騎士の肩を包み込んだ。光が消えると、傷は見る間に塞がり、痛みが和らいでいくのがわかる。
驚きの表情を浮かべた騎士は、肩を動かしながらリディアを見た。
「…まさか、本当に癒えたのか?これは夢か何かか?」
その声には信じられないという気持ちがありありと表れていた。
「夢じゃないよ」
リディアは微笑みながら力強く頷いた。
騎士は一瞬呆然としていたが、すぐに目を輝かせて頭を下げた。
「君の力があれば、多くの命が救える。どうかもう少し、戦場の仲間を助けてくれないか!」
その切実な頼みに、リディアは少し考え込んだが、やがて覚悟を決めたように口を開いた。
「できるだけ頑張ってみる。でも、終わったら…また私の露店で愉快なポーションを買ってね!」
そう言って、リディアはポケットにいくつか小瓶を忍ばせながら、次なる治癒へと歩み出した。
59
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません
との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗
「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ!
あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。
断罪劇? いや、珍喜劇だね。
魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。
留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。
私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で?
治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな?
聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。
我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし?
面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。
訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結まで予約投稿済み
R15は念の為・・
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる