ノクティルカの深淵 ーThe Abyss of Noctilucaー

ねむたん

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ノクティルカの森で

折り合いをつけていく

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ふたりきりの生活が続く中で、セラフィーナは時折、自分だけの時間を持ちたくなることがあった。最初は小さな反発心からだった。ヴァレリオに囲まれ、すべてを共有する日々の中で、ほんの少しだけでも一人で静かな時間を過ごすことが、彼女にとって必要なことのように思えた。

ある日、ヴァレリオが何も言わずに部屋を出て行った。彼は少しの間、外の空気を感じに出かけることを好むことがあった。セラフィーナはその瞬間、何とも言えない安心感を覚えながらも、少しだけ自分一人の時間を過ごしたいという気持ちが湧き上がった。

彼がいなくなった部屋の中で、セラフィーナはしばらくその静けさを享受した。何もすることはない。窓の外に広がる夜の風景をぼんやりと見つめていた。きっとヴァレリオはすぐに戻ってくるだろうと分かっていながらも、その時だけは何も考えずにひとときの自由を感じた。

だが、ほんの数分後、彼の足音が近づいてきた。ドアが静かに開かれ、ヴァレリオがその姿を現す。セラフィーナはふとその気配に気づくと、自然に体が反応してしまう。

「君、どうしたんだい?こんなに静かな時間を過ごしているなんて。」

その問いかけには少し驚きとともに、何か見透かされているような感覚があった。セラフィーナは軽く微笑んでから、答える。

「ただ、少しだけ……一人で考えたくなったの。」

ヴァレリオは黙って彼女の近くに座り、その目をじっと見つめる。セラフィーナは少し居心地が悪くなり、無意識に身体を少しだけ引いた。

「君が望むなら、僕は何でもする。でも、これ以上君が一人にならないように気を付けているんだ。」

その言葉に、セラフィーナは心のどこかで甘えたような気持ちが湧き上がってくる。ヴァレリオの言葉通り、彼はいつも自分を守り、見守ってくれていた。それは確かに心地よいものだったし、何より安心感を与えてくれる。

だが同時に、その過保護が少しだけ窮屈にも感じる瞬間があることも事実だった。彼に依存しきっている自分が、少しずつ重く感じられることがあった。それでも、ヴァレリオの愛情を受け入れることは、彼女にとって自然なことだった。

「分かってる、ヴァレリオ。でも、少しだけ……ひとりでいる時間を持ってもいいよね?」

セラフィーナは遠慮がちに尋ねる。少し怖い気持ちがある。ヴァレリオがどんな反応を示すか分からないからだ。だが、ヴァレリオは彼女の言葉に静かにうなずき、柔らかい微笑みを浮かべる。

「もちろん。君がそれを望むのなら、僕は君の自由を奪いたくはない。ただ、君がどこにいるか、何をしているかは知っておきたいだけだ。」

その言葉には、セラフィーナを愛するがゆえの、過剰なまでの支配欲がにじんでいた。しかし、それを感じたセラフィーナはどこかで安心し、また少しだけ胸の奥で温かなものが広がっていくのを感じた。

「ありがとう、ヴァレリオ。」

ほんの少しの距離感が生まれた瞬間だったが、その距離感もまた、二人の絆を確かなものにしているような気がして、セラフィーナは心から安堵した。




セラフィーナが朝の静けさの中でひとり、館の中を歩いていた。ヴァレリオはまだ眠っており、いつも彼の姿が部屋にいないと少し心細く感じることがある。けれど、今はその静けさの中で自分と向き合う時間が必要だった。ヴァレリオが常にそばにいることで、確かに安心できる。だが、時折その過剰な愛情が少しだけ窮屈に感じる瞬間もあった。

セラフィーナは庭の片隅にある小道を歩きながら、何気ない景色に目を留める。いつもはヴァレリオと一緒に歩くその道も、今日はひとりで歩くと違って見える。足元の草花の香りにふと心が和むが、どこか物足りなさも感じる。

その時、ふと感じた視線に気づいた。背後から、いつの間にかヴァレリオが現れていた。彼は、どこか遠くを見つめながら歩いているような、少し不安げな表情を浮かべていた。

「君がひとりで歩いているのを見て、少し驚いた。」

セラフィーナはその声に振り返り、微笑んだ。けれど、心のどこかでは、今のヴァレリオの眼差しが少し鋭く感じられた。何かを見透かされているような感覚に包まれる。

「少しだけ、ひとりで考えたくなったの。あなたが近くにいると、どうしても気になってしまって。」

ヴァレリオは少し黙って彼女を見つめ、その後でふっと息を吐いた。

「君が考えたいことがあるなら、僕に言ってくれても構わないんだよ。君の思いを無理に隠さなくていい。」

その言葉に、セラフィーナは一瞬戸惑いながらも、心の中でほっとした。ヴァレリオはいつでも自分の気持ちを理解し、受け入れてくれる。しかし、同時に、彼の愛情が時折過剰に感じられることもある。それが彼の望むものだと理解しているが、それでも自分が一歩引くことで、二人の関係がより強くなるのではないかと、セラフィーナは思うことがある。

「私は、あなたが側にいてくれることが本当に嬉しい。でも、たまにはひとりで過ごす時間も必要だと思うの。」

セラフィーナは少しだけ顔を背け、目の前の風景に視線を落とす。ヴァレリオは彼女の言葉にしばらく沈黙した後、優しく彼女の手を取った。

「君がひとりで過ごすことを、僕は決して拒まない。ただ、君がどんなに遠くに行っても、僕は必ず君を守ることを誓う。」

その言葉には、決して揺らがない強い意志が込められていた。それを聞いて、セラフィーナは安心感とともに、胸の奥で少しだけ切ない気持ちが芽生える。ヴァレリオの愛情が時に重く感じられることもあるけれど、彼が必死で自分を守りたがる気持ちは、何よりも深く伝わってきた。

「ありがとう、ヴァレリオ。私は、あなたのことを信じている。」

その言葉を最後に、二人は静かに歩き続けた。セラフィーナは、この瞬間が大切だと感じながらも、心のどこかでヴァレリオの愛情がどこまで自分にとって必要なのかを、まだ確信できていない自分に気づいていた。それでも、この歩みが二人にとって一番大切なことだと思うから、セラフィーナはその先の未来を考えながら、静かに彼の手を握りしめた。
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