ノクティルカの深淵 ーThe Abyss of Noctilucaー

常夏でバカンス

南の島に到着

準備がすべて整い、トランクがぴったりと閉じられると、ヴァレリオは満足そうに息をついた。「これで準備は完璧だ。セラフィーナ、何か足りないものはないかい？」

「ううん、大丈夫だと思う。ヴァレリオがこんなにしっかり準備してくれるなんて思わなかったから、ちょっとびっくりしてるくらい。」セラフィーナは微笑みながら近づいて、彼の手元に視線を落とす。「でも、本当に私が持っていくべきものまで考えてくれるなんて、ありがたいわ。」

ヴァレリオはセラフィーナの笑顔に目を細めると、軽く肩をすくめてみせた。「君のためだからね。どんな小さなことでも、僕にできることはやらないと。」

彼女が荷物を確認しようとトランクを開けかけると、ヴァレリオがさりげなくその手を止めた。「中身は見なくていいよ。君を驚かせたいものも入っているからね。」彼の言葉に少し首をかしげたセラフィーナだったが、彼の真剣な眼差しに逆らうことはせず、手を引っ込めた。

「わかった。でも、あまり変なものは入っていないでしょうね？」セラフィーナは軽く笑いながらからかった。

ヴァレリオも微笑を返しつつ、「もちろんさ、すべて君のためになるものばかりだよ」と答えた。だが、心の中では大量の水着の存在を思い出しながら、少しだけ胸の内で苦笑していた。

その夜、セラフィーナは興奮気味にベッドへと潜り込み、明日から始まる旅を想像しながら目を閉じた。一方のヴァレリオは、彼女が眠りについた後も書斎で旅程を確認し、万が一のための準備に余念がなかった。彼はどこまでも完璧を目指す男だった。

翌朝、二人は早めに起き、広大な森を抜けて出発の準備を整えた。荷物はすべてヴァレリオが手際よく馬車に積み込み、セラフィーナが最後に忘れ物がないかと念入りに確認している間に、彼は再びトランクの中身をそっと確かめた。そこにはやはり、多彩なデザインの水着がぎっしりと詰まっていた。

「これくらいは、きっと大丈夫だろう」とヴァレリオは独り言のように呟くと、荷物をしっかりと閉じた。

馬車に乗り込むと、セラフィーナは少し緊張しながら窓の外を見つめた。「本当に孤島なんだよね。どんな場所なんだろう……」

ヴァレリオは隣で優しく微笑みながら彼女の手を握った。「君が気に入る場所だよ。海辺の風景も素晴らしいし、誰にも邪魔されることなく、ゆったりと過ごせるはずだ。」

セラフィーナはその言葉に少し安心し、彼の肩に頭を預ける。「ヴァレリオと一緒なら、どこに行っても楽しめる気がするわ。」

ヴァレリオはその言葉に満足そうに頷きながら、内心では早く彼女が水着を身に着けた姿を見たいという期待を抑えきれなかった。旅の始まりはこうして、彼の密かな楽しみを胸に秘めながら、静かに幕を開けたのだった。





船から降りた瞬間、セラフィーナの目に広がったのは、信じられないほど鮮やかな青だった。空は果てしなく澄み渡り、太陽の光が白い砂浜を照らしている。その先には透き通るような海が広がり、波間にはイルカたちが跳ねる姿が見える。どこか現実離れした光景に、セラフィーナは思わず息を呑んだ。

「ここが……本当に私たちだけの島なの？」セラフィーナは目を輝かせながらヴァレリオを見上げる。

「そうだよ。ここでは誰にも邪魔されず、君とゆっくり過ごせる。」ヴァレリオは穏やかに微笑むと、彼女の手を取り、少し先に見える白亜の別荘へと案内した。

宿泊先の別荘は、南国らしいシンプルで上品な造りだった。大きな窓からは海が一望でき、潮風がそっと室内に入り込む。リビングには白いソファとガラスのテーブル、壁には控えめに飾られた海辺の風景画が並ぶ。ベッドルームにはふかふかのベッドと、天蓋から薄い白いカーテンが垂れ下がり、どこか夢のような空間を演出していた。

「こんな素敵な場所があるなんて……本当にヴァレリオのおかげだね。」セラフィーナは窓辺に立ち、輝く海を眺めながら感嘆の声を漏らした。

彼女の姿を目にしたヴァレリオは、自分が計画したこの旅が正解だったと確信した。彼女の笑顔は、何よりも尊い報酬だ。優しく後ろから抱きしめながら、彼は低く囁くように言った。「君が喜んでくれるなら、それだけで十分だよ。」

その後、荷解きを始めた二人だったが、ヴァレリオが持ってきたトランクを開けたセラフィーナは、一瞬手を止めた。中には、色とりどりの水着がぎっしりと詰まっている。

「……ヴァレリオ、これって？」驚きの表情を浮かべたセラフィーナは彼を振り返る。

ヴァレリオは少しだけ視線を逸らしながら、「その……君に似合うものを選ぶのが楽しくて、つい増えてしまったんだ。全部必要なわけではないけれど……どれも君に似合うはずだと思う。」と、少し恥ずかしそうに説明した。

セラフィーナはその言葉を聞いて、一瞬黙った後、大きく笑い出した。「そんなにたくさん、私のために考えてくれたの？ありがとう、ヴァレリオ。少しびっくりしたけど、すごく嬉しい。」笑顔で彼を見つめるその瞳には、心からの感謝が込められていた。

「そう言ってもらえるなら、良かったよ。」ヴァレリオは胸を撫で下ろしつつ、彼女の無邪気な笑顔に再び安堵の微笑みを返す。彼女のために準備したものが受け入れられるだけで、彼の心は満たされていく。

その後、セラフィーナはトランクの中から一着を手に取り、ヴァレリオに「これ、どうかな？」と見せながら選び始めた。彼女の笑顔と楽しげな声が響く室内で、ヴァレリオは幸せな時間が始まる予感に満ちていた。