ノクティルカの深淵 ーThe Abyss of Noctilucaー

雪の要塞

彼なりの愛情

静かな午後、セラフィーナはヴァレリオの部屋の柔らかな光に包まれながら、ふとひらめいた。「ヴァレリオ、アイロンビーズで何か作りたいと思うの。あなたの部屋に飾るものが欲しいから、少し挑戦してみようかと思って」

ヴァレリオは彼女の言葉に耳を傾け、ふっと表情を輝かせた。「アイロンビーズで、ね。君が作るものなら、何だって素晴らしくなるに決まってる。何を作るつもりだ？」

セラフィーナは少し照れながらも微笑み、「まだ決めてないけど、あなたの部屋にぴったりなものができたらいいなって思ってるの」と答えた。

するとヴァレリオは突然、何かを思いついたように言った。「そうだ！君が使ったハンカチを飾る額縁が足りなくなってきたんだ。アイロンビーズで作ってくれないか？」

セラフィーナはその提案に目を丸くして、驚きの表情を浮かべた。「え？使ったハンカチを飾るための額縁をアイロンビーズで？」

ヴァレリオは真剣な顔で頷く。「うん、君が使ったハンカチは、僕にとってとても特別なものだから、それを飾る額縁も当然、特別でなくちゃいけないと思うんだ。アイロンビーズなら、きっと素晴らしい額縁ができるだろう？」

「でも…使ったものを飾るって、ちょっと変じゃない？」セラフィーナは照れながらも言った。

ヴァレリオはそれに気づかず、熱心に続けた。「使ったものこそが一番大切だよ。君が手に取ったもの、日々触れているもの、それらには君の思いが込められているんだから。だから、僕の部屋に飾るなら、君のハンカチが一番ふさわしいんだ」

セラフィーナは驚きつつも、思わず笑ってしまった。「ヴァレリオ、なんだかすごく真面目に言うから、照れくさいわね」

ヴァレリオはその言葉を無視することなく、満足げに頷いた。「君が作る額縁なら、どんなものでも素晴らしいものになるはずだ。お願い、作ってくれ」


セラフィーナはヴァレリオに頼まれた額縁のアイロンビーズ作品を作り始めた。あまりにも不意打ちだったその依頼に、最初は少し戸惑ったものの、次第にそのアイデアが妙に心地よく感じられてきた。

「できるだけ素敵に作ってみるわ」と言いながら、セラフィーナは色とりどりのアイロンビーズを並べ始めた。小さな手が動くたびに、色が重なり、模様が徐々に形を成していく。その姿を見て、ヴァレリオは珍しくも静かに見守っていた。彼がこれほど何も言わずに見ているのは、少しだけ新鮮だった。

「あの、ヴァレリオ、」セラフィーナが突然、手を止めて話しかけた。「本当に使ったハンカチを飾るって、変じゃない？」

ヴァレリオは何気なく目を向けながら、少しだけ苦笑を浮かべた。「君が使ったハンカチだからこそ、だろう。君の手のぬくもりが残っているから、大切にしたいんだ」

その言葉を聞いた瞬間、セラフィーナはほんの少し胸が熱くなった。ヴァレリオのこだわりが、単なる奇妙な執着ではなく、確かに愛情であることが伝わってきたからだ。

「分かったわ、ヴァレリオ。」セラフィーナは再びビーズに手を伸ばし、集中し始めた。時折、ビーズが思い通りに並ばず、思わずため息をついてしまうこともあったが、そんなときにはヴァレリオが軽く手伝ってくれた。

「無理しないで、楽しんで作るんだ。」ヴァレリオの言葉は、いつものように優しく、どこか穏やかなものだった。

セラフィーナはその言葉に励まされ、少しずつ完成へと近づいていった。ビーズを一つひとつ丁寧に並べ、繊細な模様が浮かび上がっていく。アイロンをかけて、ビーズがひとつに固まった瞬間、彼女はふと嬉しさを感じた。

「できたわ！」セラフィーナは満足げに手を見せると、ヴァレリオが驚いたように目を見張った。「完璧だ」彼は少し照れくさそうにそう言いながら、その作品を手に取った。

「本当に？ そんなに褒められると、ちょっと恥ずかしいわ。」セラフィーナは顔を赤らめながら、笑って言った。ヴァレリオはそんな彼女を見て、ふっと優しく微笑んだ。

「君が作ったものなら、何でも完璧だよ。特に、君が一生懸命作ったものは、どれも特別だから」ヴァレリオのその言葉に、セラフィーナの心は温かくなり、しばらく言葉を失ってしまった。

そして、完成したアイロンビーズの額縁に、ヴァレリオの部屋に飾られていた使い込んだハンカチを入れた瞬間、ヴァレリオは目を輝かせてその額縁をじっと見つめた。まるでそれが一番大切な宝物であるかのように、手を合わせて言った。「これで完璧だ、セラフィーナ。君が作った額縁、僕の部屋にぴったりだ」

セラフィーナは少し照れながらも、その言葉を聞いて心の中で幸せな気持ちを感じた。ヴァレリオの奇妙な愛情表現が、いつも以上に温かく、愛おしく感じられたからだ。



その後、アイロンビーズの額縁はヴァレリオの部屋の一角に飾られ、そこにはセラフィーナの手作りのものが静かに佇んでいた。彼女が少しずつ自分のために作ったものが、彼の日常の一部になっていく。セラフィーナも、何だかそれが嬉しくて、毎日その額縁を見るたびに、心が少しずつ成長していくのを感じていた。

ヴァレリオは彼女が作るものを大切にし、セラフィーナもまた、彼の優しさに支えられながら、自分を大切にすることの意味を少しずつ理解していった。