NESTALIA -癒しと筋肉のスローライフ-

ねむたん

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朝、霧が晴れるころ。

焚き火の煙にまぎれて、外からかすかな鳴き声が届いた。
ティアが真っ先に駆け出して、すぐに堀の外で誰かと話す声がする。

リュウが出ていくと、そこには懐かしい顔があった。
町の露店で猫ちゃんグッズを売っていた、猫獣人の少女――ミャナだった。
小柄な体に、柔らかそうな三毛の耳。薄汚れたポンチョの裾を握って、後ろには年下らしき小さな獣人の子たちが数名ぴったりと身を寄せていた。

「……お願いです、ここに、匿ってもらえませんか?」

ミャナの声は震えていたが、必死さがこもっていた。

話を聞けば、彼らの故郷は、森林と温泉に囲まれた静かな山あいの村だった。
しかし、数日前から地中の変化により、火山性の有毒ガスが地下から噴き出すようになったという。
さらに、なぜか森の奥から異様な数の魔物が流れ込み、村の結界が破られた。

「ガスに弱い種族の子や、小さな子たちだけでも逃がそうって……」

決断は早かった。力のある大人たちが村の防衛に残る一方、非戦闘民の一団は、頼れる誰かのもとへ避難することを選んだ。

「町の露店で、リュウさんが猫ちゃんにあんなに優しかったのを見て、きっと助けてくれると思ったんです」

ミャナが深々と頭を下げたその後ろで、ちいさな猫耳たちが不安げにこちらを見つめている。

しろたんが「にゃあ」と一声、リュウの足元から飛び出していき、子猫たちにすり寄った。
しばしの沈黙ののち、リュウは目を細めてうなずいた。

「もちろん、歓迎するよ」

横でティアが満面の笑みを浮かべて、うんうんと強く頷いた。

森の奥に向かうティアとヴォルクの姿を見送ってから、リュウは腰に手を当てて大きく息をついた。

「さて、こっちも始めるか」

堀の外、拠点の外周に沿うように地面をならし、収納用の材木を広げていく。
クラフトスキルの進化により、簡易な住居程度ならすでに即席で組み上げられるようになっていた。
まずは基礎。フレーム。壁板。屋根。入口用の簡易ドア。
NPCから習った構造を思い出しながら、スキル任せに手を動かす。

ティアとヴォルクは、森で巨木を切り出していた。
力技のティアが木の根元をゆさゆさ揺らし、ヴォルクが巨大ハンマーで一撃を加えて転倒させる。
倒れた木を二人でかつぎ、引きずって拠点に戻ってくる頃には、すでに一棟目の小屋がほぼ完成していた。

「わー、はやっ!」

ティアが目を丸くしながら近づくと、リュウは額の汗をぬぐって振り向いた。

「うまくいけば、あと三棟は建てられる。材料があればな」

「なら、任せてよっ。まだまだ木はたくさんあるから!」

すぐさままた森へ駆けていくティアの後ろ姿を、ヴォルクが無言で追いかける。
その手には、すでに次の一本分の太いロープが握られていた。

リュウはふと視線を横にやる。
ミャナと猫獣人の子たちは、しろたんと一緒に焚き火のそばで昼寝をしている。
新しい生活の場として、ここを形にしていく責任を、リュウは自然に受け入れ始めていた。

木材を手に取り、小屋の壁をもう一枚、立ち上げる。
トン、とハンマーが鳴る音が、快いリズムで拠点に響いていた。

ティアとヴォルクが最後の一本を土場に降ろすと、ふたりは同時に「ふう」と大きく息をついた。筋肉に汗が光り、達成感のにじむ笑顔を交わす。

「これで、予定分はおしまいだな」
「やったー!でも……もうちょっと身体動かしたいかも」

まるで犬のように元気に尻尾を振りそうなティアの横で、ヴォルクが静かにうなずく。

「……堀、広げるか。外側にも」

リュウが振り返ると、ふたりはすでにスコップを手にしていた。
どうやら休憩という概念はないらしい。

「おい、少しは休めって……」と呆れかけたところで、ティアが声を張る。

「ねーねー、誰か一緒に土いじりしたい子いるー?」

焚き火のまわりで遊んでいた猫獣人の子どもたちが、わらわらと集まってくる。
スコップの大きさに見合うよう、小さな手鍬や木のヘラも配られた。
「やるやるー!」「掘っていいの?」「穴つくるの?」と好奇心まるだしの声が飛び交う。

リュウが笑いながら手を振る。

「外に出すぎるなよ。掘りすぎたら俺のクラフトが追いつかないからな」

「了解!」
「オッケーでーす!」

元気に返事をして、ティアとヴォルク、そして子どもたちが堀のさらに外へと散っていく。

こうして、拠点の防衛線は、静かに、しかし確実に拡張されていった。

陽が高くなった頃、拠点の中心に据えた大きな木のテーブルのまわりに、自然と人が集まりはじめた。
香ばしい匂いが風に乗って流れてくる。焚き火の上では、鉄板の上で魚が焼かれ、羽釜の蓋のすき間からは白い湯気がふわりと立ち上っていた。

「できたよー!」

エプロン姿の猫獣人の女性たちが声をかけると、子どもたちが歓声を上げながら駆け寄る。
手際よく盛り付けられた皿が次々とテーブルに並び、焼き魚、煮魚、魚のスープ、そしてほかほかの白米がどっさりと盛られていた。

「魚って、焼くといい匂いするんだねー」

ティアが大きな口を開けて頬張りながら、うっとりした顔で目を細める。
「おいしい」と言う前にもう一口、箸が伸びていた。

「……これはうまい」

無口なヴォルクも、箸を止めることなくしっかり味わっている。
普段は粗食の拠点だけに、このご馳走には皆の顔がほころぶ。

リュウも白米をひと口食べてから、思わず声を漏らす。

「これ、米? どこで手に入れたんだ」

「あっちの村の備蓄庫から、避難のときに少しだけ持ってきたの。ほんとは貴重なんだけど……今日は特別!」

猫獣人の女性が、誇らしげにしっぽを揺らす。
ティアもぱちぱちと手を叩いて賛同した。

「すっごく美味しい!わたし、この味のためなら拠点にずっといてもいいくらい!」

「……お前もう、半分住んでるようなもんだろ」

リュウが苦笑しながら魚の骨をよけると、しろたんが足元でにゃあと鳴いた。
すでに自分の皿を空にして、魚のにおいに誘われてきたようだ。

「はいはい、おまえの分はちゃんとある」

おやつ用の魚をほぐして皿に入れてやると、しろたんは満足そうに身をかがめて食べはじめた。

穏やかな昼下がり。
賑やかで温かい、にぎやかな食卓が続いていた。
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