NESTALIA -癒しと筋肉のスローライフ-

ねむたん

文字の大きさ
32 / 35

緊迫の防衛戦

しおりを挟む
狙い通りだった。

火に追い立てられた魔物たちは本能のまま突進し、次々に堀へと落ちていった。
土と石で作られた深い溝は、内側に張り出した逆勾配――ねずみ返しの構造によって、落ちた者たちを逃がさない。

「よし……上がってこない!」

リュウの声に、堀の縁にいたティアが身を乗り出して確認した。

「ほんとだ、つるつる滑ってる!」

魔物たちは堀の壁に爪や牙を立てて必死によじ登ろうとするが、粘土質の土と内側に張り出した構造に阻まれ、爪を空しく滑らせるばかり。中には仲間の背に乗りあがろうとする個体もいるが、そのたびに他の魔物が下敷きになり、悲鳴のようなうなり声が響いた。

「お湯の準備できました!」

ミャナが大鍋を抱えた仲間とともに走ってきた。

「よし、じゃあリュウが指示して!」

「わ、わかった!」

手元のタイミングを見て、リュウが声を上げる。

「いまだ――!」

猫獣人たちが一斉に熱湯を堀へと注ぎ込む。
蒸気が立ちのぼり、魔物たちの悲鳴が重なった。

「うわ……これは……思ったよりえげつないな……」

リュウがやや引き気味に呟くと、ティアが横でにこにこと頷いた。

「すごいね!完璧なコンビネーションだよ!」

夜の闇を背景に、炎と蒸気と怒声が入り混じる。だが、確実に戦況は拠点側の優勢だった。
堀に落ち、這い上がれず、熱湯に焼かれる魔物たち。
仕掛けた罠は、狙い通りに機能していた。

堀の上から槍が突き立てられ、重たい石が落とされるたび、魔物たちの断末魔が夜の空気に吸い込まれていった。

「今だ、右のやつ!」

ティアの掛け声に応じて、力任せに槍を振るう猫獣人の若者。獣の肩口に命中し、呻き声が上がった。横ではヴォルクが丸太ほどの腕で巨大な岩を持ち上げ、無造作に落とす。

ごん、と鈍い音。堀の底が騒然とする。

「命中」

ヴォルクが淡々と呟くと、子供たちが後ろで小さく歓声を上げた。

「次いこー!ティアさん、石!」

「はいはーい!」

ティアが持ち上げた巨大な石の一つを放り投げる。地響きのような衝撃とともに、魔物が数体潰された。

「やっぱ筋肉は正義……」

「石こそ最高の武器……!」

子供たちの呟きが、妙に神妙な声色だった。

「リュウ、そっちは?」

「大丈夫、次の火矢いける!」

再び火矢が弧を描いて飛び、堀の外周に逃げようとした個体の前に着地。炎が道を塞ぎ、魔物たちは混乱して再び堀へと殺到した。

仕掛けておいた構造と武器が的確に機能し、迎撃の手は一切乱れなかった。

水、火、石、槍。
どれもが、手作りの拠点を守るために振るわれていた。

「勝ったな……」

誰かの呟きが、燃えさかる外周の炎にかき消された。

そのときだった。
火の壁の向こう側、ゆらめく熱気の中に――異様な、巨躯の影が現れた。

「っ……!」

ティアが槍を構えて身構える。リュウも即座に火矢を構えたが、直感的に悟る。
あれは、並の矢では止まらない。

四足の獣とも、二足の怪物ともつかぬ異形。全身を黒い鎧のような鱗が覆い、燃えるような赤い眼がこちらを射抜いている。

「……飛ぶつもりだ」

リュウの呟きと同時、そいつは地を蹴った。

巨大な体躯が、炎を越えて空へ。

堀の幅では、止められない。着地されれば、拠点の中心は壊滅する。
その瞬間――

「ふんっ!」

地鳴りのような唸りと共に、ヴォルクが動いた。

火の壁の内側、堀の縁。
そこに、岩のような男が大剣を構え、ただ一人待ち構えていた。

刹那、黒い巨体と鋼鉄の刃がぶつかる。

ぐしゃり、と肉が裂ける音。
そのまま、ヴォルクの大剣は跳躍中の魔物の胴を貫き、その勢いで地面に叩きつけた。

轟音。

巨大な躯が、地面に崩れ伏し、二度と動かなかった。

「……仕留めた」

ヴォルクが刃を引き抜き、肩越しに仲間たちを見る。
誰もが、声も出せずに立ち尽くしていた。

その静寂を、炎の爆ぜる音と、しろたんの「にゃあ」が破った。





「わあぁぁあっ!!」

誰かの声を皮切りに、拠点中から歓声が上がった。
しろたんがしっぽを逆立てながらも、子どもたちの足元でくるくる回る。

ティアが真っ先にヴォルクのもとへ駆け寄り、肩に飛びついた。

「すごいよヴォルク!でっかいの串刺しにしちゃった!」

「当然だ」
照れを隠すように咳払いしながらも、大男の口元にはわずかな笑み。

猫獣人たちも、槍を掲げて歓喜の声を上げる。
夜空に火の粉が舞い、焚き火に追加された薪がパチパチと音を立てた。

ミャナがにこにこと嬉しそうにしろたんを抱え上げると、
「にゃーっ」と元気な声が返ってくる。

「こりゃもう……祝わないとだよな」

リュウが笑いながら言えば、

「うん!お祭りだよお祭り!」
ティアがぴょんと跳ねて、みんなに合図を送った。

誰もがその合図を待っていたかのように動き出す。

猫獣人の一団は手分けして保存してあった食材を取り出し、
筋肉チームは新たに木を割って臨時の椅子やテーブルを並べ始めた。

亀のスープも再加熱され、魚料理が追加される。
リュウも調味料を取り出し、即興で香草焼きを作り始めた。

夜の拠点に、にぎやかな笑い声と明かりが満ちていく。
大きな勝利を祝う、真夜中のパーティーだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...