領地経営で忙しい私に、第三王子が自由すぎる理由を教えてください

ねむたん

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第6章:交差する思惑

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第6章:交差する思惑

アレクシスがユリウスへの条件書を整えるべく動いている頃、王都の隅では別の会話が進んでいた。装飾の少ない部屋の中、黒いマントを羽織った男が、机の上に広げられた地図を指でなぞっていた。

「……第三王子が市場計画に関わっている、というわけか」

部屋の中には二人の男がいた。一人は地図に視線を落とすマントの男。そしてもう一人は、やや堅苦しい雰囲気の細身の貴族風の男だ。

「ええ。詳細はまだ掴めていませんが、彼が地方領主の支援を受けているのは確かです。ただの道楽だと思っていましたが、どうやら思った以上に計画的なようです」

マントの男は静かに笑った。その笑顔には冷たさが漂っていた。

「なるほどな。だが、彼が何をしようと、所詮は第三王子。王位争いには全く無縁の存在だ。それを理由に、利用価値があるとは思わないか?」

「……利用価値、ですか?」

「そうだ。彼が成功しようが失敗しようが、いずれにせよこちらに有利な状況を作り出せる。それに、地方領主がその計画に乗っているとなると……王都の貴族たちにとっては面白くない話だろう」

細身の男は何かを悟ったように微笑み、頭を下げた。

「なるほど。私にどう動けと?」

マントの男は視線を細め、机の上に置かれた地図を指し示した。

「まずは情報をもっと引き出せ。具体的な場所、関与している人物……そして、可能ならばその地方領主――伯爵家の令嬢についても調べろ。計画を崩すためには、彼女の存在が鍵になるかもしれない」

「承知しました。すぐに動きます」

その頃、エリナは領地から届いた報告書に目を通していた。市場計画に向けて、領地の農産物や工芸品を集める準備が進んでいることが記されている。だが、順調とは言いがたい内容だった。

「物資の運搬が遅れている……?どうしてこんな初歩的な問題が――」

エリナは報告書に顔を近づけながら、眉をひそめた。これまで彼女が築き上げてきた手筈は、細部に至るまで綿密に計画されていたはずだ。それが滞っているとなると、何かしらの妨害があるのかもしれない、と直感的に感じた。

「エリナ様、よろしいですか?」

執事の声に振り向くと、彼が新しい書簡を手にしていた。

「王都からの書簡です。アレクシス様が、近々追加の支援策を提案するとのことです」

「アレクシス様が?」

エリナは書簡を受け取りながら、彼の飄々とした笑顔を思い出した。市場計画を推進するために奔走しているとは聞いていたが、彼が本気で支援を拡大するつもりでいるとは意外だった。

「……本気でやるつもりなんですね、あの方」

エリナは小さく息を吐きながら、手元の書簡を握りしめた。

一方、王都の別の場所では、アレクシスがもう一人の重要人物と会っていた。彼は古くから王都で影響力を持つ老商人のアルセウスだ。

「市場計画の話を聞いたが、君が主導するとは驚いたよ、王子様」

アルセウスは豪快に笑いながら、アレクシスを見据えた。

「驚かれるのは慣れているよ。だが、この計画は王都と地方を結ぶ架け橋になるものだ。君の協力が必要だ」

アレクシスの真剣な眼差しに、アルセウスは少し驚いたようだったが、すぐに興味深げに頷いた。

「なるほど。だが、一つ聞かせてくれ。この計画は本当に君自身のためなのか?それとも、あの令嬢のためなのか?」

アレクシスの表情が一瞬だけ固まる。だが、すぐに笑顔を作り直して言った。

「両方さ。彼女の努力を無駄にしたくないし、俺も少しは王家の名に恥じないことをしたいと思っているだけだ」

アルセウスはその答えに満足したように微笑み、力強く手を打った。

「よし、それなら協力してやろう。だが、君も覚悟しておくんだな。市場の立ち上げは甘くないぞ、王子様」

「覚悟なら、とうの昔に決めているさ」

アレクシスは力強く答えたが、その背後にはいくつもの思惑が交差していることをまだ知らなかった――。
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