領地経営で忙しい私に、第三王子が自由すぎる理由を教えてください

第16章：秘密の訪問

第16章：秘密の訪問

翌朝、エリナは緊張と期待の入り混じった気持ちで準備を整えていた。普段の執務用の服ではなく、少しだけ華やかながらも動きやすい服装を選んだ。

「エリナ様、殿下がお迎えにいらっしゃいました。」

侍女の言葉に一瞬動揺したが、深呼吸して心を落ち着けると、玄関へと向かった。そこには、馬車の前で軽やかに立つアレクシスの姿があった。

「おはよう、準備はいいか？」

「はい。」

彼女がそう答えると、アレクシスは手を差し出してきた。ためらいながらもその手を取ると、馬車に乗り込んだ。

「今日はどちらへ向かうんですか？」

馬車が揺れながら街道を進む中、エリナは尋ねた。アレクシスは窓の外を眺めながら笑みを浮かべた。

「君の領地の中に、最近興味深い場所が見つかったんだ。俺の知人が調査中でね、君にも見てほしいと思って。」

「私の領地の中、ですか？」

「そうだ。森の中に古い遺跡のようなものがあるらしい。もしかしたら、君の領地の歴史に関わるかもしれないだろう？」

エリナは驚いた。領地を隅々まで知っているつもりだったが、そんな場所があるとは聞いたことがなかった。

馬車はやがて森の入り口で止まり、二人は降り立った。アレクシスの案内で森を進んでいくと、草木に覆われた古びた石造りの遺跡が現れた。

「これがその場所ですか……。」

エリナは息を飲んだ。美しい彫刻が施された柱や、崩れた壁が自然と調和している。だがその中に、何か不思議な威圧感を感じる。

「君の領地にこんな場所があったなんて、知らなかっただろう？」

アレクシスが問いかけると、エリナは頷いた。

「はい……不思議な場所ですね。でも、ここに来たのには何か理由があるのでしょうか？」

「まあ、楽しみ半分、君への提案半分ってところかな。」

彼は石の壁を軽く叩きながら、少し意味ありげに笑った。

「提案？」

「この遺跡、君の領地の観光資源として使えそうだと思わないか？もちろん、調査が進めばの話だけどな。」

エリナは目を見開いた。領地経営の改善策として、彼女の頭にはなかった視点だった。

「観光資源……確かに、その可能性はあります。でも、そんな簡単にできるものでしょうか？」

「簡単じゃないのはわかってる。でも、君ならきっと上手くやれる。俺も力を貸すよ。」

彼の言葉には、からかいのような軽さがなかった。その真剣な声に、エリナの心はわずかに揺れた。

「ありがとうございます、殿下。」

その場の静寂を破るように、遠くから鳥のさえずりが聞こえた。二人はしばらくの間、遺跡を眺めながら言葉を交わすことなく立っていたが、エリナの胸には新たな決意が芽生えつつあった。

この遺跡を守り、活用することで領地をより良くする――そして、それを支える殿下の力を信じること。