領地経営で忙しい私に、第三王子が自由すぎる理由を教えてください

ねむたん

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番外編:書き直し地獄と恋の手紙騒動

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番外編:書き直し地獄と恋の手紙騒動


第三王子アレクシスは自室でほおづえをついていた。その机の上には、領地経営に奮闘するエリナの姿が描かれた絵画が飾られている。それは、ある画家が領地の視察中に描き、後日アレクシスに届けられたものだ。

絵画の中のエリナは、彼が知るどの宮廷の女性よりも堂々としていて、それでいてどこか優しげだった。彼女が必死に領地を立て直す姿は、もはや彼の日常の一部となっている。しかし最近、その姿を思い出すたびに胸がざわつくのだ。

「あの領地の令嬢、すごいよなぁ。仕事も早いし、民衆の評判もいいし。」

つい先日、近衛兵の間でそんな話が上がったとき、アレクシスは無性に腹が立った。彼らが何気なく彼女を称賛するたび、どこか独占欲のようなものが湧いてくる。

「いや、こんな感情はただの敬意だろう。きっとそうだ……」

そう言い聞かせるものの、日に日に彼女への関心は募るばかり。

そして、その日。執務を終えてふと机に座った彼は、気づけばペンを手に取っていた。

「手紙なら、直接会えなくても想いを伝えられるだろう。」

そう、彼はこれまで一度も伝えたことがなかったのだ。彼女をどう思っているか、自分がなぜ彼女に惹かれているのか。それを言葉にするための手紙を書く。

しかし、いざペンを走らせてみると――

「領地経営でのご活躍、素晴らしい限りです。つきましては……って、これじゃ公文書じゃないか!」

彼は目を見開き、勢いよく紙を丸めて放り投げた。



それからの数時間、アレクシスは執務室に引きこもった。書いては捨て、書いては捨てを繰り返し、机の上には山のように丸められた紙が積み上がっていく。

最初は無難な挨拶から始めるべきだと思い、「お元気ですか」と書いてみたものの、彼女を知る自分の立場では他人行儀すぎる気がして却下。次に、「最近どうだ?」というくだけた文体を試したが、王族らしさがなさすぎてまた却下。

彼は次第に焦り始めた。

「……こんなに難しいものだったか?」

ペンを握りしめたまま窓の外を見ると、夕陽が薄紅色に染め上げる宮廷の庭が目に入った。ふと、エリナの領地にある花畑の光景が頭をよぎる。彼女が笑顔でその花畑を案内してくれた日の記憶が鮮明によみがえり、胸が締め付けられるようだった。

「どうすれば、あの笑顔にふさわしい言葉を見つけられるんだ……」

アレクシスはため息をつきながら再びペンを握り直した。



翌朝、彼の執務室を訪れた侍従が驚きの声を上げた。
「こ、これは……何事ですか!」

机の上も床も、手紙の書き損じで埋め尽くされていたのだ。それだけではない。ゴミ箱から溢れた紙の山が廊下にまで侵食している。

「いえ、ちょっと……書き物をしていてな。」
アレクシスが気まずそうに視線を逸らすと、侍従は意味深な笑みを浮かべた。

「……これは、恋文、ですか?」

「ち、違う!いや、そうだが!」

侍従が噂を広める前に、アレクシスは慌てて部屋を飛び出し、エリナの領地へ向かう決意を固める。直接会って伝えるのが一番だ――そう思ったのだった。
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