領地経営で忙しい私に、第三王子が自由すぎる理由を教えてください

第7話「噂の結末と本当の気持ち」

第7話「噂の結末と本当の気持ち」

エリナはアレクシスの手を握られたまま、心臓が激しく跳ねるのを感じていた。その温かさに動揺しつつも、彼が自分を真っ直ぐ見つめる視線から目を逸らせなかった。

「ア、アレクシス様……それは……本気で仰っているのですか？」

ようやく絞り出した声は震えていた。アレクシスは微笑みながら、しかし真剣な眼差しで答えた。

「もちろんだ。俺はずっと、君のことを特別だと思っていた。」

その言葉にエリナの胸は高鳴り、同時に疑念が浮かぶ。

（どうして今……こんな風に言うの？ それともこれは、噂を鎮めるための方便なの？）

エリナは顔を伏せ、握られた手をそっと引き戻した。

「ごめんなさい……私には、どう答えればいいのか分かりません。」

アレクシスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに静かに頷いた。

「そうだな。急にこんなことを言われたら、困るのも当然だ。」

エリナの手をそっと放し、彼は柔らかな笑みを浮かべる。

「だが、俺の気持ちは変わらない。だから君が答えを出すまで、待つよ。」

エリナはその誠実な言葉に胸が熱くなるのを感じた。彼が本気であることは分かる。しかし、今の彼女にはまだ自分の気持ちをはっきりと伝える自信がなかった。

舞踏会の喧騒は終盤に差し掛かり、主賓である隣国の王子レオンハルトが壇上に上がると、会場は一気に静まり返った。

「皆様、今宵はこのように素晴らしい舞踏会を開催していただき、心より感謝申し上げます。」

彼の声はよく通り、優雅な微笑みが見る者すべてを惹きつける。その美しさにため息を漏らす者も多かったが、レオンハルトは続けた。

「しかし、ひとつ訂正したいことがございます。」

その言葉にざわめきが広がる。レオンハルトは微笑みながら手を挙げ、それを静めた。

「どうやら私がこの国に滞在している間に、いささか興味深い噂が立っているようです。私が王子ではなく“姫”であり、さらに婚約話が持ち上がっていると。」

会場に笑いが漏れる中、レオンハルトはさらに言葉を続けた。

「残念ながら私は姫ではなく、れっきとした王子でございます。美しさゆえに誤解されたのかもしれませんが、私に婚約の予定は一切ございません。」

その宣言に、会場は驚きと笑いで包まれた。これまで真偽を探ろうとしていた人々も一気に肩の力を抜き、噂の終結を感じ取った。

その頃、アレクシスはエリナを連れ出し、ホールの外に出ていた。夜風が心地よく、二人の間には静かな空気が流れている。

「これで、噂は終わりだな。」

アレクシスがそう言うと、エリナは小さく頷いた。

「そうですね……。私も、ようやく気持ちが落ち着きました。」

彼女の言葉に、アレクシスは少しだけ眉を上げた。

「……気持ちが落ち着いた、か。」

「え？」

「つまり、俺のことを見て焦ったり、嫉妬したりしていたんだな？」

エリナは一瞬固まり、次の瞬間、顔を真っ赤にして慌てて否定した。

「そ、そんなことは……！」

「いや、今の反応で確信した。」

アレクシスは笑みを浮かべながら、一歩エリナに近づいた。

「エリナ、お前は俺に嘘をつけないな。」

「も、もう……アレクシス様！」

エリナは俯きながら彼の腕を軽く叩いたが、アレクシスは満足げな表情を浮かべていた。

「でも、それでいい。お前が俺に本音を隠さずいてくれるのが、一番嬉しいから。」

エリナは顔を赤くしたまま、何も言い返せなかった。ただ、彼の言葉が心の奥にじんわりと染み渡るのを感じていた。