領地経営で忙しい私に、第三王子が自由すぎる理由を教えてください

ねむたん

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第三話:姫の正体、暴露される

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第三話:姫の正体、暴露される

広場に近づくと、歌い手たちはますます声を張り上げ、聞く人々の目には期待と興奮の色が宿っていた。「隣国の姫」がいよいよ街に降臨すると信じきっている様子だ。

「これは予想以上だな……」
アレクシスは群衆の熱気にたじろぎながら、小声で呟いた。

「こういう賑わいは嫌いじゃないね」
レオンハルトは余裕の笑みを浮かべながら、堂々と人々の間を進んでいく。

「ちょっと、堂々としすぎです!」
エリナが焦りながら彼の後を追うが、レオンハルトは構わず広場の中心に進み出た。彼の美しい顔立ちは隠しようもなく、周囲の人々の視線が次第に集中していく。

そして、ついに誰かが気づいた。
「あれ? あの人、もしかして……隣国の姫様じゃないか!?」

一言が火種となり、瞬く間に人々がざわめき始めた。視線が一斉にレオンハルトに集まり、興奮した声が広場に満ちる。

「隣国の姫だ! 本当に来てくれたんだ!」
「お美しい……噂以上だ……!」

その場の熱狂的な歓声を受けて、アレクシスは頭を抱えた。
「おい、レオンハルト! 今すぐ止めろ!」

しかしレオンハルトは動じることなく、むしろ余裕たっぷりの笑顔を浮かべて人々に手を振った。
「皆さん、まずはこの歓迎に感謝を申し上げます」

「本当に話し始める気か!」
アレクシスが怒鳴るも、レオンハルトは気にした様子もなく続ける。

「私は確かに隣国アストリアの王族です。しかし――」
ここで一呼吸置き、彼は自分の帽子を取った。その下から現れた銀髪が陽光を受けて輝き、人々は一瞬、息を呑んだ。

「私は王女ではありません。王子、レオンハルト・フォン・アストリアです!」

広場は一瞬、静寂に包まれた。しかし、次の瞬間――

「え、王子様!?」
「なんて美しい王子様なんだ!」
「姫ではない……けど、むしろこれはこれで……!」

歓声はさらに大きくなり、群衆は新たな熱気に包まれた。

「なんでこうなるんだよ……」
アレクシスは頭を抱え、エリナも唖然とした表情でその場を見守っていた。

レオンハルトは群衆の反応を楽しむかのように、優雅に笑っている。
「誤解が解けたようで良かった。それでは、これからも両国の友好を――」

「王子様!」
その瞬間、群衆の中から一人の女性が叫び声を上げた。そして、レオンハルトの前に進み出ると、勢いよく頭を下げる。

「私、ずっと貴方様に憧れていました! 王女様だと思っていたけれど、王子様でも全然構いません!」

その場の空気が一層盛り上がり、レオンハルトは苦笑いを浮かべた。
「ありがたいお言葉ですが、私は王子として、国に務めを果たさねばなりません」

「やっぱり騒ぎを大きくしてるじゃないか!」
アレクシスはとうとう怒鳴り声を上げたが、レオンハルトは全く気にせず、楽しげに人々の反応を眺めている。

なんとか広場から抜け出した三人は、王宮への帰路でため息をついていた。

「正直、何も解決していない気がするんだけど」
アレクシスが疲れた声で言うと、レオンハルトは肩をすくめて答えた。
「むしろ良い方向に進んだじゃないか。これで僕が何者なのか、はっきり知らしめることができた」

「いや、君のせいで混乱が増しただけだ」
アレクシスは容赦なく突っ込み、エリナも困ったように微笑んだ。

「でも、王子様が国民に直接お話しされたことは、意外と良い印象を与えたかもしれませんね」

「エリナ嬢は優しいね。君が僕の隣国大使になってくれたら、もっと楽しくなりそうだ」
レオンハルトが冗談めかして言うと、エリナは軽く微笑みながら応じた。

「それは光栄ですが、きっとアレクシス様が止められるでしょうね」

「もちろん止めるさ。君をこいつの無茶な計画に巻き込むわけにはいかない」
アレクシスは真顔で言いながらも、どこか安心したような表情を浮かべていた。

一方、レオンハルトは楽しげに笑い続ける。その姿はまるで、騒ぎそのものを楽しむようだ。


その日の午後、ようやく王宮に戻った三人を出迎えたのは、エリナの父である伯爵だった。

「エリナ、君もいたのか。王宮で隣国の王子を迎える準備を進めているというのに、まさか外で騒ぎになっているとは……」
伯爵は深いため息をつき、疲れた顔でレオンハルトに目を向けた。

「レオンハルト殿下、どうかお静かに振る舞っていただければ幸いです。街中で騒ぎを起こされたと聞き、心臓が縮む思いでしたよ」

「いやいや、私の美しさが思わぬ形で誤解を生んだだけです。むしろ、これで城下町の人々も隣国の友好を実感したのでは?」
レオンハルトはまるで悪びれる様子もなく答え、伯爵はさらに深いため息をついた。

一方、アレクシスは怒りを抑えきれない様子でレオンハルトを睨んだ。
「君のせいで僕まで王宮で叱責されそうだ! もう少し慎みを持てないのか!」

「そんなに怒るなよ、アレクシス。少なくとも誰も怪我をしていないだろう?」
レオンハルトは軽く肩をすくめて微笑んだ。

そのやり取りを見て、エリナは苦笑いを浮かべた。
「アレクシス様、殿下が無事に戻られただけでも、良しとしましょう。これ以上叱るのは体力の無駄ですわ」

「君までそんなことを言うのか……」
アレクシスは頭を抱えつつも、エリナの柔らかな口調に少し気持ちを和らげたようだった。

その日の夜、王宮で小規模な歓迎の宴が開かれた。レオンハルトを歓迎するためのものだが、城下町での騒ぎを聞いた貴族たちの間では噂話が絶えなかった。

「隣国の王子があんなに美しいとは……いや、姫に見間違えるのも無理はないな」
「それにしても、レオンハルト殿下は随分と自由奔放だと聞くが、どうなのだろう?」

そんな囁きが交わされる中、宴の中心でレオンハルトは堂々と振る舞い、貴族たちの注目を一身に集めていた。

「エリナ嬢」
レオンハルトが人混みの中から彼女を見つけると、微笑みながら近づいてきた。
「さっきは助けてくれてありがとう。君の冷静な対応には感心したよ」

「お礼を言うのはこちらの方ですわ。殿下が大事に至らぬよう配慮してくださったおかげで、事なきを得ました」
エリナは丁寧に礼を述べたが、レオンハルトは軽く首を振った。

「それでも、君が隣にいると安心する。どうだい、アレクシスの婚約者なんてやめて、私の側に来ないか?」

突然の言葉にエリナは目を見開き、周囲の視線を意識しながら声をひそめた。
「殿下、冗談が過ぎます。そんなことを口にされると誤解を生みますわ」

「冗談だよ。もっとも、君が本気で望むなら歓迎するがね」
レオンハルトは茶目っ気たっぷりに笑い、エリナは困惑しながらも微笑んだ。


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