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番外編 ちいさな冒険
しおりを挟むエリナは目の前のスープを見つめながら、心の中で葛藤していた。この異国の食材を使った料理は、見た目も匂いも、そしてその味も、どうにも受け入れがたかった。家族の誰もが、同じように顔をしかめている。けれど、アレクシスはまるでその反応を気にする様子もなく、嬉しそうに器を持ち上げ、また一口食べた。
「ほら、エリナ、最初は驚くけど、慣れてくるから。」
アレクシスは自信満々に言い、またスプーンを口に運ぶ。しかし、エリナはその笑顔を見て、思わず息を吐いた。
「アレクシス、これはどう考えても無理よ。」
エリナは思わず言葉にしてしまった。顔をしかめながら一口飲んだものの、その味は本当に強烈すぎて、口の中で混乱が起きていた。干し魚の塩気、スパイスの刺激、そしてどこか泥臭い風味が渾然一体となり、どうしても飲み込めそうになかった。
その時、弟がゆっくりと立ち上がり、静かに言った。
「でも、これを乗り越えたら、何か大きなことが待ってるかもしれませんね。」
その言葉に家族全員が一瞬、驚きの表情を浮かべた。弟は、普段は控えめで物静かな性格だが、時折鋭い一言を言うことがある。今日はその一言が、どこか深く響いた。
「たしかに…」
アルベルトが呟いた。彼は料理の味に悪戦苦闘しながらも、すでに少しずつその食材の風味に慣れてきていたようだった。
「最初は嫌でも、食べているうちに慣れてきた。」
彼の言葉に、エリナは少しだけ希望を持ち始める。家族全員が、何とかしてこの料理を乗り越えようとする姿が、どこか愛おしくもあり、また面白く感じられた。
「でも、アレクシス。今度は…もう少し考えてから持ち込んでくれない?」
エリナは笑顔を浮かべて言った。アレクシスは少し照れながら、肩をすくめた。
「わかったよ、次はもっと簡単なものにするよ。」
そう言って、アレクシスは嬉しそうに笑った。それに家族全員が、少しずつ和やかな気持ちになり始めた。
料理を完食するのはまだ難しいものの、家族みんなで笑いながら食事をする光景が、どこか温かくて心地よいものに感じられた。エリナはふと気づく。アレクシスが持ち込んだ奇妙な食材が、結果的には家族の絆を強くしているのだと。
食事の後、エリナは庭のテラスで一息ついていた。アレクシスも隣に座り、少し落ち着いた様子で空を見上げている。普段の彼なら、次々と話題を振ってくるはずだが、今日は何かを考え込んでいるようだった。
「どうしたの?」
エリナは、彼の沈黙に気づき、尋ねた。アレクシスはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「エリナ、君はどうしてあんなに真面目なんだ?」
その問いに、エリナは少し驚いた。アレクシスの真剣な表情に、いつもとは違う雰囲気を感じる。
「真面目…?」
エリナは考え込みながら答えた。「それは、多分家族を支えなきゃいけないって思うからだと思う。でも、それが重く感じることもあるわ。」
アレクシスは少し笑いながら言った。
「でも、たまには肩の力を抜いて、少し冒険してみるのも悪くないんじゃないか?」
エリナはその言葉に少し驚いたが、同時に心の中で何かが弾けたような気がした。
「冒険、か…」
その言葉に、彼女は微笑みながら、ふと庭に目を向けた。空は高く、雲が流れ、あの日常から少しだけ外れて、自由に思い切り冒険することができたら、どんなに気持ちが楽になるだろうと思った。
「アレクシス、今日はありがとう。」
エリナは心からそう言った。アレクシスはにっこりと笑い、軽く肩をすくめて答えた。
「どういたしまして、エリナ。次も楽しみにしてるよ。」
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