左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―

佐竹梅子

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左遷太守と不遜補佐・2

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王の御前で行われた大規模な武芸大会。赤伯も、訓練兵のはしくれとして、意気揚々と参戦していた。
仕合いは無作為に組まれた勝ち抜きで進められ、訓練兵たちは次々と闘った。武芸大会であるから、万が一が起こらぬよう、各々の得物の先には布を被せて備えはあった。……はずなのだが。

『あっ――!』

赤伯の指から槍の柄がつるりと逃げる。挙句、遠心力で穂先を覆った布切れが脱げるように外れていく。飛び去った槍は、鈍い音を立てて突き刺さった。
幸い、それは人ではなかった。幸い……しかし、紙一重である。あろうことか、王の見物席を覆う天蓋の、柱の一つに見事突き刺さってしまったのだ。

その高貴な顔を容易く晒さぬようにと張られた天蓋。乙女の細腕ほどもないその柱に、まるで狙ったように突き立った槍は、戦時であれば見事な腕前と褒めそやされていたであろう。

しかしこれは、武芸大会である。それも、短気とされる王の御前での武芸大会だ。

その玉体に怪我はなかったとはいえ、赤伯は称えられるどころか、鋭い一喝を受けた。

『それだけの腕前があるのであれば、地方都市の太守として民を守れるのであろうな』と。

これは体のいい切り方である。誰しもが――赤伯の両親や姉でさえそれを悟ることができた。しかし当の本人はあまりにも純粋であり、何かが幸いして、いやあの武芸大会での見事な演武が気に入られ、太守に抜擢されたものだと信じて疑いもしなかった。

真っ直ぐなその答えは、『はい! お任せください!』だった。

とはいえ、あの場で不敬だと斬り捨てられなかっただけ、まだよかったのかもしれない。

王都から二十数日あまりの道のりを経て、ようやく赴任先である都市の城門が見えた。既に報が行っていたのか、そこには数名の迎えが立っている。女官が二名、それから何やら屈強な護衛のような男が三名、そしてその中央には一際目立つ見目の青年が立っていた。歳は赤伯と同じくらいだろうか。

まるで玉虫織をほどこしたような色合いの黒髪を、簪で高く括り結いあげている。掬いきれずに、長く垂れた馬の尻尾のような後れ毛が中性的で、衣服もゆったりと独特な着こなしをしていた。

その一方で洒落た出で立ちとは裏腹に、気だるげで眠たそうな上瞼が、澄んだ青い瞳を半分ほど覆っているのが印象的だ。

「新任の太守さまでございますね? 我ら一同、お待ち申し上げておりました」

低くとも、澄んだ声色が赤伯の鼓膜を揺らす。思ったよりも柔らかな口調に、赤伯はなぜかほっとしていた。

「わたしは鈴青明《りん・せいめい》。代々この地で太守さまを補佐する家系、鈴氏の者でございます」
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