左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―

佐竹梅子

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左遷太守と不遜補佐・13

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それにしても、この騒ぎは何事だろうか。

地方独特の朝の習慣か、実は昨日の様子は希なもので、今朝は栄えた町並みが広がっているとか……。

様々な可能性を良い方向へ導きながら、赤伯は着替えを手伝ってもらうべく、青明を探すことにして寝台を裸足でおりた。

と、同時に、戸が開かれた。

「おっ、青明」

丁度よい偶然だ。彼の方から訪ねてきてくれたらしい。

「お目覚めでございましたか太守さま。ただ今、ご報告に参りました」
「報告?」

のんきに小首を傾げる赤伯を、青い瞳を覗かせる瞼の隙間から現れた、鋭い刃物が襲った。
それくらい、補佐が彼を見る視線は冷え切っていた。

――民草が群がっているのです。何の努力もせずに食糧にありつこうとして。

「なんで! そんな……!」

寝巻のまま門に駆け寄ると、門兵が槍を交差させた先には民の群れが見えた。

「太守だ! 太守が出てきたぞ!」
「みんな……?」

赤伯の姿に気付いた民は、血走った目で彼の姿を捉える。

「飯をよこせ!」
「食い物だ!」
「酒を!」   

一斉に叫ばれる民たちの声が、呪いのように赤伯の耳を貫く。
飯、食い物、酒……確かに、昨夜は宴の食卓を分け与えたが、今朝のこれは、どういうことだというのか。
背筋にいやな汗が走る。それこそ衿首から直接的に水を差し込まれるような寒気だ。

「え、え……?」

太守は、ただただ民の訴えをぶつけられる物と化していた。いま、何をすべきなのか、何を言うべきなのか。
すべてが分からないまま、真っ白に立ち尽くした。

「皆さま、落ち着かれませ!」

騒音の中、唯一音も立てずに現れた(ように思えるほど冷静沈着な)太守補佐が発声する。

澄んでいながらも圧のある声が、一瞬にして場を支配した。あんなにも騒いでいた民たちが、水を打ったように静まり返っている。

「なにか、思い違いをなさっておいでではありませんか? 昨夜は太守さま新任の宴でしたので、気まぐれに祭のようなものを行っただけです。以後、食糧の配給はご容赦ください」

よろしいですね? ……そう念を押されたのは、民か、太守か。

文句を言う者、舌打ちをする者、悲し気に目元を抑える者。
それぞれ散っていく民らの背中を見て、赤伯は唇を噛みしめた。ただ食糧を無駄にせず、かつ住人たちと交流をはかりたかった。それだけなのに。

「お分かりになりましたか。無意味な善意は、貪欲に火をつけるだけだと……」

青明は赤伯の顔を見ることなく、淡々と告げ続ける。

「昨夜のあなたの提案は、この都市を救いたいという正義感から来たものなのでしょう。しかし、その正義に着地点はありますか?」

善意、正義――着地点。そうだ。赤伯は民に食事を与えてしまった『だけ』なのだ。
仮に交流をはかったとしてどうするつもりだったのか。根本的に、太守としてどう動くべきなのか、まだまったく見えていないのだ。

「……お疲れでしょう、一度お部屋でお休みください」

あとは頼みましたよ。女官に太守を託すと、青明も太守館を後にした。

その足取りは彼らしくなく、重たそうだと、赤伯はぼんやりとした思考の中で思った。
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