1 / 5
第一章 織宮の忍び
零、追憶
しおりを挟む
山あいにひっそりと佇む小さな神社は、冬の名残りを抱えた風が通り抜けるたび、舞い上がる落ち葉の音がやさしく境内を満たしていた。
白髪を後ろでひとつに束ねた宮司は、ゆっくりと竹ぼうきを動かして、石畳に積もった葉を静かに寄せていく。
そのすぐそばを、子供達が駆け抜けた。笑い声が澄みわたり、せっかく集めた落ち葉はあっという間に散り散りだ。
老人は箒を止め、「まったく……」と小さく笑った。叱るでもなく、ただ肩を落としながらもどこか楽しげに、散らかった葉を見つめる。
ふいに、小さな手がその袖を引いた。
「ねえ、宮司さま!今日もお話、聞かせてよ!」
見ると、期待に目を輝かせた子供達が数人、いつの間にか取り囲んでいた。
足元には、どこからともなく集まってきた猫たちが、気ままに腰をおろしている。
「……お話、ねぇ。」
宮司は、そっと目を細めた。
子供達は徳川が幕府を開いた後の生まれで、平穏というものが空気のように当たり前の世代だ。
だが、有名な武将の話や、戦の世を駆けた者の逸話には強い憧れを抱いている。
村の大人達の中でも、この宮司だけは若い頃に実際の戦場へ赴いたと噂され、それを知る子供達は、彼の昔語りを宝物のようにせがむのだった。
宮司は竹ぼうきを壁に立てかけ、集まった子らをゆっくりと見渡した。
吹きつける風に揺れた落ち葉が、ふっと彼の足元をかすめる。その一瞬、遥か昔の景色が微かに胸裏をよぎる。
(……今でも触れれば痛むものもある。)
胸の奥で、ひとつの重みが静かに疼く。
それは戦の傷だけではない。失ったもの、救えなかったもの、言えずに呑み込んだ思い……。
年月はその痛みを薄れさせてはくれなかった。それでも彼は、逃げずに抱いたまま、ここまで生きてきた。
痛みごと大切に抱きしめてきた、遠い日の思い出だ。
老人は、そっと息を吐き、縁側の方へ歩いていく。
「ほら、そこに座りなさい。風が強いから、身を寄せ合うのだよ。」
子供達は嬉しそうに駆け寄り、猫たちも我が物顔で並んで座り込む。
宮司は腰を下ろし、手を膝に置いて、緩やかに視線を落とした。目の奥に、静かな決意のような光が宿る。
「昔の話だ。……わしが、まだ若かった頃のこと。」
年老いた宮司はゆっくりと語り始めた。
命を懸けて生き抜いた、忘れようとしても忘れられるはずのない、あまりにも鮮烈で、あまりにも愛しい、若き日の物語を。
白髪を後ろでひとつに束ねた宮司は、ゆっくりと竹ぼうきを動かして、石畳に積もった葉を静かに寄せていく。
そのすぐそばを、子供達が駆け抜けた。笑い声が澄みわたり、せっかく集めた落ち葉はあっという間に散り散りだ。
老人は箒を止め、「まったく……」と小さく笑った。叱るでもなく、ただ肩を落としながらもどこか楽しげに、散らかった葉を見つめる。
ふいに、小さな手がその袖を引いた。
「ねえ、宮司さま!今日もお話、聞かせてよ!」
見ると、期待に目を輝かせた子供達が数人、いつの間にか取り囲んでいた。
足元には、どこからともなく集まってきた猫たちが、気ままに腰をおろしている。
「……お話、ねぇ。」
宮司は、そっと目を細めた。
子供達は徳川が幕府を開いた後の生まれで、平穏というものが空気のように当たり前の世代だ。
だが、有名な武将の話や、戦の世を駆けた者の逸話には強い憧れを抱いている。
村の大人達の中でも、この宮司だけは若い頃に実際の戦場へ赴いたと噂され、それを知る子供達は、彼の昔語りを宝物のようにせがむのだった。
宮司は竹ぼうきを壁に立てかけ、集まった子らをゆっくりと見渡した。
吹きつける風に揺れた落ち葉が、ふっと彼の足元をかすめる。その一瞬、遥か昔の景色が微かに胸裏をよぎる。
(……今でも触れれば痛むものもある。)
胸の奥で、ひとつの重みが静かに疼く。
それは戦の傷だけではない。失ったもの、救えなかったもの、言えずに呑み込んだ思い……。
年月はその痛みを薄れさせてはくれなかった。それでも彼は、逃げずに抱いたまま、ここまで生きてきた。
痛みごと大切に抱きしめてきた、遠い日の思い出だ。
老人は、そっと息を吐き、縁側の方へ歩いていく。
「ほら、そこに座りなさい。風が強いから、身を寄せ合うのだよ。」
子供達は嬉しそうに駆け寄り、猫たちも我が物顔で並んで座り込む。
宮司は腰を下ろし、手を膝に置いて、緩やかに視線を落とした。目の奥に、静かな決意のような光が宿る。
「昔の話だ。……わしが、まだ若かった頃のこと。」
年老いた宮司はゆっくりと語り始めた。
命を懸けて生き抜いた、忘れようとしても忘れられるはずのない、あまりにも鮮烈で、あまりにも愛しい、若き日の物語を。
0
あなたにおすすめの小説
マッチ率100%の二人だが、君は彼女で私は彼だった
naomikoryo
恋愛
【♪♪♪第19回恋愛小説大賞 参加作品♪♪♪ 本編開始しました!!】【♪♪ 毎日、朝5時・昼12時・夕17時 更新予定 ♪♪ 応援、投票よろしくお願いします(^^) ♪♪】
出会いサイトで“理想の異性”を演じた二人。
マッチ率100%の会話は、マッチアプリだけで一か月続いていく。
会ったことも、声を聞いたこともないのに、心だけが先に近づいてしまった。
――でも、君は彼女で、私は彼だった。
嘘から始まったのに、気持ちだけは嘘じゃなかった。
百貨店の喧騒と休憩室の静けさの中で、すれ違いはやがて現実になる。
“会う”じゃなく、“見つける”恋の行方を、あなたも覗いてみませんか。
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる