fruit tarte

天ノ谷 霙

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愛するひとは

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僕が君に何をしたっていうの。
僕だけこんな気持ち、ずるいじゃないか。
僕の気を引こうとして、その子と一緒にいるの。
やめてよ。君の瞳が僕以外を写すのは気に食わないんだ。
僕が好きなんでしょう。僕を誰よりも愛してくれるんでしょう。なら、僕だけを見てよ。そんな奴なんて放っておいてさ。僕だけを見てよ。
じゃないと、僕、君を…。
君と物理的な距離がちかくても、心の距離は最もとおい。ちかくて、とおい。僕は、それが辛い。君を壁際に追いやった。後ろの壁にはさみを突き刺した。それでも、それでも君との距離はかわらない。ちかくなればなるほどとおくて、とおくなって、不安になって、怖い。
「や、やめ…」
がたがたと震え、目を見開いて怯えてる。やめて、なんて酷いよ。僕は、ボクは、君が好きなのに。苦しい。苦しいよ。僕のこと、本当は好きじゃないの知ってる。けど、夢を見たいの。見せて。見せてよ。貴方と愛し合っている夢。ねぇ。お願い、お願いだから。大好きなことを隠させないで。
あの日、出会った貴方は優しくて、向日葵のような笑顔で笑った。花がぱっと開くように。一瞬だったけれど、よく覚えている。僕はその姿に一目惚れしたんだから。
それなのに、今、君は目の前で怯えてる。僕は、僕は…悲しくて、辛くて、苦しくて。だから、君も同じ思いでしょう?だから、僕は君を悲しませないように、会いに行ったのに、君の瞳はいつだってあの子を追いかけてる。
”ねぇ。
僕は、あの子の本性知ってるんだ。
裏表の無い女なんかいないんだ。
信じたって無駄だよ。
だって。
あの子はそういう子なんだから。”
その言葉に君は凄く怒ったね。激しく僕を揺さぶって、許さない、お前なんか大嫌いだ、って言ったよね。
僕は、悲しかった。傷付いた。
なのに君は傷付けた人を許さなくて、自分が傷付けた人はどうでもいいみたい。
”おかしいよね。人類皆平等って、何処の夢物語だろう。”
僕は貴方に問いかけた。貴方はこぼれ落ちそうなくらいに目を見開いて、許して、許して…って何回も言った。
僕は、何も怒っていないのに。
”ねぇ、なんでそんなに怖がるの”
僕は、、そう問いかけた。
答えてくれない貴方に、花は限界が来ちゃったみたい。
きらりと光る包丁を、後方の壁に突き刺した。貴方の髪がはらりと落ちた。貴方は体を固くして金縛りにでもあったかのように動けなくなった。花から、目を離さないのに。
「ねぇ、君は今から」
包丁の側面を自分の頬につけ、花は満面の笑みをこぼした。
「ーーーーー花のもの!」

……あれ?うまく笑えなかったのかな?
貴方は身を硬めながら、静かに、息を引き取っていた。
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