238 / 812
9月24日 効果切れ
しおりを挟む
「よぉーっす、藤上兄の方いるかー」
怠そうな青海川先生が教室に入ってきた。口調も隈もいつも通り青海川先生なのに、女性の姿であるせいで変な感じがする。
「もう帰りましたよー」
由芽が答える。藤上くんを始め、鹿宮くんや利羽、眞里阿、浅野くん、蒼くんなどはもう既に帰っていた。亜美や潮賀くん、北原くんの荷物も無いので、帰ったのだろう。
「そうか。んじゃ、いいや。…お前らまだ戻ってねぇの?誰が誰だ?」
「稲森です」
「空原ですー」
「梶栗っすよー」
「…冬間の、弟の方です」
「結構効果長いんだな。俺も戻らねぇなぁ…」
青海川先生が自分の姿を再度確認した時、霙の「わぁっ!?」と驚く声が聞こえた。振り返ると、先ほどまで女の子だったはずの雪くんが、男の子の姿に戻っていた。
「…やぁーっと戻ったぁ…!」
「えー…」
「なんで嫌そうなんだよ、霙」
雪くんが心から嬉しそうな表情を浮かべるのを、残念そうな顔で見つめる霙。恋使となって心の声を聞くまでもなく、2人の心の声が聞こえるようだった。
「じゃあ私もう帰れるけど、紗奈帰る?」
「帰るー」
「はいよ、ばいばーい」
「また明日ねー」
霙と紗奈が帰った。残っているのは私、由芽、竜夜くん、小野くん、青海川先生ぐらいだった。
「俺だけ戻ってるってなんか変な感じだなぁ…」
小野くんが遠い目をして呟いた時、教室のドアが開く音がした。
「夕音ー?」
「羅樹!」
いつもの姿に戻った羅樹が、教室に入ってきた。
「あ、まだ戻ってないの?もうちょっと待機かー」
「待たせてごめんね、先帰っても良いけど…」
「待つよ。誘ったの僕だし」
「…そ、そう…」
羅樹の笑顔が、胸にくる。決意を固めたというのに、私はまだ臆病で、逃げ出したい衝動に駆られている。
「あと戻ってないのは…」
「あ、竜夜」
「え?」
「戻ってる」
由芽が差し出した鏡を見て、竜夜くんは大喜びする。気付かないうちに戻っていたらしい。
「これで残りは私と夕音だけね」
「同じくらいの位置にいたし、薬に凄く近かったからね…そういえば、由芽は誰と帰るの?」
「私?部活の子と約束してる。どうしても薬が切れるまで会いたくないって言われてるのよ。そういうこと言われると血が騒ぐんだけど…トーンが本気だったから諦めた」
「そ、そうなんだ…」
演劇部の子でも、男装をあまりやらない子なのだろうか。演技中以外はスイッチが切れて、恥ずかしくなってしまうタイプなのだろうか。少し考えているときに、何か引っかかるような感覚がして、よろめく。瞬きすると、視界が少し低くなったように感じた。服を見るといつものスカートで、肩には長い髪がかかっていた。
「あ、戻った!」
「戻ったー!」
私と由芽はお互いにハイタッチをする。効果が長くて、心のどこかで不安だったらしい。
「あ、部員も戻ったって連絡きたから、行くね。また明日ねー」
戻った瞬間鞄を肩に掛けて去って行く由芽。それを見て「俺らも帰るわ」「じゃーな」と竜夜くんと小野くんが去って行った。
「…私達も帰ろうか。先生、さようなら」
「うん、さようならー!」
「おう、気を付けて帰れよー」
未だ女性のままの先生を教室に残して、私達は教室を出た。
怠そうな青海川先生が教室に入ってきた。口調も隈もいつも通り青海川先生なのに、女性の姿であるせいで変な感じがする。
「もう帰りましたよー」
由芽が答える。藤上くんを始め、鹿宮くんや利羽、眞里阿、浅野くん、蒼くんなどはもう既に帰っていた。亜美や潮賀くん、北原くんの荷物も無いので、帰ったのだろう。
「そうか。んじゃ、いいや。…お前らまだ戻ってねぇの?誰が誰だ?」
「稲森です」
「空原ですー」
「梶栗っすよー」
「…冬間の、弟の方です」
「結構効果長いんだな。俺も戻らねぇなぁ…」
青海川先生が自分の姿を再度確認した時、霙の「わぁっ!?」と驚く声が聞こえた。振り返ると、先ほどまで女の子だったはずの雪くんが、男の子の姿に戻っていた。
「…やぁーっと戻ったぁ…!」
「えー…」
「なんで嫌そうなんだよ、霙」
雪くんが心から嬉しそうな表情を浮かべるのを、残念そうな顔で見つめる霙。恋使となって心の声を聞くまでもなく、2人の心の声が聞こえるようだった。
「じゃあ私もう帰れるけど、紗奈帰る?」
「帰るー」
「はいよ、ばいばーい」
「また明日ねー」
霙と紗奈が帰った。残っているのは私、由芽、竜夜くん、小野くん、青海川先生ぐらいだった。
「俺だけ戻ってるってなんか変な感じだなぁ…」
小野くんが遠い目をして呟いた時、教室のドアが開く音がした。
「夕音ー?」
「羅樹!」
いつもの姿に戻った羅樹が、教室に入ってきた。
「あ、まだ戻ってないの?もうちょっと待機かー」
「待たせてごめんね、先帰っても良いけど…」
「待つよ。誘ったの僕だし」
「…そ、そう…」
羅樹の笑顔が、胸にくる。決意を固めたというのに、私はまだ臆病で、逃げ出したい衝動に駆られている。
「あと戻ってないのは…」
「あ、竜夜」
「え?」
「戻ってる」
由芽が差し出した鏡を見て、竜夜くんは大喜びする。気付かないうちに戻っていたらしい。
「これで残りは私と夕音だけね」
「同じくらいの位置にいたし、薬に凄く近かったからね…そういえば、由芽は誰と帰るの?」
「私?部活の子と約束してる。どうしても薬が切れるまで会いたくないって言われてるのよ。そういうこと言われると血が騒ぐんだけど…トーンが本気だったから諦めた」
「そ、そうなんだ…」
演劇部の子でも、男装をあまりやらない子なのだろうか。演技中以外はスイッチが切れて、恥ずかしくなってしまうタイプなのだろうか。少し考えているときに、何か引っかかるような感覚がして、よろめく。瞬きすると、視界が少し低くなったように感じた。服を見るといつものスカートで、肩には長い髪がかかっていた。
「あ、戻った!」
「戻ったー!」
私と由芽はお互いにハイタッチをする。効果が長くて、心のどこかで不安だったらしい。
「あ、部員も戻ったって連絡きたから、行くね。また明日ねー」
戻った瞬間鞄を肩に掛けて去って行く由芽。それを見て「俺らも帰るわ」「じゃーな」と竜夜くんと小野くんが去って行った。
「…私達も帰ろうか。先生、さようなら」
「うん、さようならー!」
「おう、気を付けて帰れよー」
未だ女性のままの先生を教室に残して、私達は教室を出た。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる