288 / 812
11月14日 バラ3本
しおりを挟む
温かいものがじんわりと伝わってくる。"晴れ"が冷えた空気を温めていくようだった。
「花火の、鈍感な上に気遣い屋なところ…どうにかなりませんかね…」
天さんの心配を聞いて、私はそっと微笑む。
「多分、大丈夫だと思いますよ?」
ぱたぱたと音が聞こえ、それが足音だと判断する。ノックの音と失礼しますの声の後、入って来たのは花火。
「あ、あれ…夕音と、天ちゃん?」
天さんが立ち上がったので、私もつられて立ち上がる。
「扇様と紺様はお二人で散歩がしたいと仰るので、私は夕音とお話させて頂いていましたわ」
「そうなのね。えっと、夕音もごめんね。ずっと放置になっちゃって」
「大丈夫だよ。天さんと話してたし。それより、片倉さんとお話は出来た?」
私の言葉に、花火は頬を赤く染めて俯く。目を逸らそうとするが、その反応にある程度察しがつく。
「…あ、あの…バラを3本渡されて…」
「バラを3本?」
天さんの口調から敬語が少しずつ外れていく。私はそれに気付かないふりをして、3本のバラの意味を脳裏に浮かべた。
「『告白』、『愛しています』だったよね」
花火ははにかんで、ゆっくりと頷いた。幸せそうな表情に、私も天さんもつられて笑顔になる。
「やっと、ね」
「ですね」
「やっと??」
私と天さんの見守るような笑顔を見て、花火は恥ずかしそうに怒る。その時、ノックとドアの開く音がした。ドアの奥から現れたのは、扇様と紺様。
「あら花火、話は終わったの?」
「お嬢様。えぇ、お陰様で」
「そう、なら良かったわ。お仕事も忘れないでね」
「はい。勿論私はお嬢様最優先です」
にこっと笑う花火に、嬉しそうに笑う扇様。紺様は扇様の奥から顔を出し、天さんの側に寄った。
「何があったんだい?」
「後でお話し致します」
天さんは先程の柔らかい表情から、凛とした仕事モードにいつの間にか変わっていた。
「…紺様、お話しは済みましたか?」
「あぁ。後は今日の夜の会食だなぁ…」
「承知致しました」
私はそっと花火の方に寄り、会食について聞く。扇様のお父さんを始めとした澪愛家と、紺様の鳳凰家で食事をするという。なんだか、忙しい時に来てしまったなぁと思う。
「それじゃあ私はもう帰るよ。準備とかで忙しいだろうし」
「えっ…まだお話…全然…」
扇様が名残惜しそうに呟いたのが聞こえ、そっと振り返る。
「また今度、呼んで頂ければ来ます。だからその時にたくさんお話ししましょう」
笑顔で私はそう告げた。扇様は「次」があることに喜び、了承してくれた。
「またね、夕音」
「はい、また」
私は花火に連れられて、使用人塔から出る。
「今日はごめんなさいね」
「大丈夫だよ。無理しないでね」
「ありがとう、またね」
「うん、またね」
そう言って私は、その場を後にした。
「…あの子が、新しい恋使か」
呟く誰かの声は、私の耳に届かなかった。
「花火の、鈍感な上に気遣い屋なところ…どうにかなりませんかね…」
天さんの心配を聞いて、私はそっと微笑む。
「多分、大丈夫だと思いますよ?」
ぱたぱたと音が聞こえ、それが足音だと判断する。ノックの音と失礼しますの声の後、入って来たのは花火。
「あ、あれ…夕音と、天ちゃん?」
天さんが立ち上がったので、私もつられて立ち上がる。
「扇様と紺様はお二人で散歩がしたいと仰るので、私は夕音とお話させて頂いていましたわ」
「そうなのね。えっと、夕音もごめんね。ずっと放置になっちゃって」
「大丈夫だよ。天さんと話してたし。それより、片倉さんとお話は出来た?」
私の言葉に、花火は頬を赤く染めて俯く。目を逸らそうとするが、その反応にある程度察しがつく。
「…あ、あの…バラを3本渡されて…」
「バラを3本?」
天さんの口調から敬語が少しずつ外れていく。私はそれに気付かないふりをして、3本のバラの意味を脳裏に浮かべた。
「『告白』、『愛しています』だったよね」
花火ははにかんで、ゆっくりと頷いた。幸せそうな表情に、私も天さんもつられて笑顔になる。
「やっと、ね」
「ですね」
「やっと??」
私と天さんの見守るような笑顔を見て、花火は恥ずかしそうに怒る。その時、ノックとドアの開く音がした。ドアの奥から現れたのは、扇様と紺様。
「あら花火、話は終わったの?」
「お嬢様。えぇ、お陰様で」
「そう、なら良かったわ。お仕事も忘れないでね」
「はい。勿論私はお嬢様最優先です」
にこっと笑う花火に、嬉しそうに笑う扇様。紺様は扇様の奥から顔を出し、天さんの側に寄った。
「何があったんだい?」
「後でお話し致します」
天さんは先程の柔らかい表情から、凛とした仕事モードにいつの間にか変わっていた。
「…紺様、お話しは済みましたか?」
「あぁ。後は今日の夜の会食だなぁ…」
「承知致しました」
私はそっと花火の方に寄り、会食について聞く。扇様のお父さんを始めとした澪愛家と、紺様の鳳凰家で食事をするという。なんだか、忙しい時に来てしまったなぁと思う。
「それじゃあ私はもう帰るよ。準備とかで忙しいだろうし」
「えっ…まだお話…全然…」
扇様が名残惜しそうに呟いたのが聞こえ、そっと振り返る。
「また今度、呼んで頂ければ来ます。だからその時にたくさんお話ししましょう」
笑顔で私はそう告げた。扇様は「次」があることに喜び、了承してくれた。
「またね、夕音」
「はい、また」
私は花火に連れられて、使用人塔から出る。
「今日はごめんなさいね」
「大丈夫だよ。無理しないでね」
「ありがとう、またね」
「うん、またね」
そう言って私は、その場を後にした。
「…あの子が、新しい恋使か」
呟く誰かの声は、私の耳に届かなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる