354 / 812
12月7日 言葉に詰まる
しおりを挟む
菜古ちゃんの恋心に、私はどうすれば良いか分からず立ち止まっていた。何とかしようと目を見開いても、どうすべきか分からずにまた閉じてしまう。神の力を使って、干渉して、それでまたあの神様に取り込まれたら。一度やった逃走経路は塞がれるだろう。けれど他に干渉を解除する方法を知らない。対策を打たれたら、私にはもう動くことは叶わない。恋使として食われるだけだ。
…食人する神様なんて聞いたことないよ。
心の中でひとりごちる。他の人に知られてはいけない悩み。知らせたところで、信じてもらえるかどうか分からないけど。解決策の見つからない問いに、私はため息をつきたくなる。
何も言わない私に、不安そうに首を傾げる菜古ちゃん。私は慌てて、それでも何と言おうか迷って、恋心を知らないまま、今までどうやって友達の恋を応援して来たのか思い出せなくなっていた。
「…優しいね、五十嵐くん」
その言葉は、無意識だった。私は早く何か喋らなきゃ、と思ってはいたが頭が回らず、言葉なんて上手くまとまっていなかった。けれどその言葉が、菜古ちゃんを見たらするりと出て来たのだ。
「私、五十嵐くんが誰を好きかは知らない。今現在恋をしているのかも、私には分からない。けど、菜古ちゃんの"好き"って気持ちを踏み躙るような人ではない。それだけは、知ってる」
明るくて、話し上手で、面白い。五十嵐くんはそんな人だと思っている。亜美を好きなことを隠して、友人の恋を応援出来る人なんだと思う。五十嵐くんは潮賀くんと仲が良かったはずだ。
「…私も、そう思います。五十嵐先輩は、優しいんです。優しすぎて、ずるいんです」
菜古ちゃんは困ったように笑った。私はそっと菜古ちゃんの頭を撫でて、時間を確認する。そろそろ戻らないとお昼ご飯を食べ損ねてしまう。
「あんまり参考にならない相談相手でごめんね。また困ったことがあったら、聞くことは出来るから」
「いえっ、こちらこそ急にすみませんでした…!ありがとうございます」
私達は教室を出て、菜古ちゃんの教室がある階の階段で別れた。教室に戻ると利羽がじぃっと目を吊り上げて私を見て来たので、両手を小さく上げて無罪を主張した。今にも飛びかかって来そうな心配性の利羽を紗奈が宥め、由芽が苦笑いをしながら言う。
「おかえり。あと少しで利羽が探しに行くところだったよ」
「それはありがたいような申し訳ないような」
「なら心配かけないように気を付けなよ。紗奈が疲弊してるよ」
「りぃちゃん…も…ストップ…」
ぜーはーと息を切らしながら、紗奈が無理やり利羽を押さえていた。私はその様子に慄きながら、苦笑いをした。
五十嵐くんと、話をしに行こうか考えながら。
…食人する神様なんて聞いたことないよ。
心の中でひとりごちる。他の人に知られてはいけない悩み。知らせたところで、信じてもらえるかどうか分からないけど。解決策の見つからない問いに、私はため息をつきたくなる。
何も言わない私に、不安そうに首を傾げる菜古ちゃん。私は慌てて、それでも何と言おうか迷って、恋心を知らないまま、今までどうやって友達の恋を応援して来たのか思い出せなくなっていた。
「…優しいね、五十嵐くん」
その言葉は、無意識だった。私は早く何か喋らなきゃ、と思ってはいたが頭が回らず、言葉なんて上手くまとまっていなかった。けれどその言葉が、菜古ちゃんを見たらするりと出て来たのだ。
「私、五十嵐くんが誰を好きかは知らない。今現在恋をしているのかも、私には分からない。けど、菜古ちゃんの"好き"って気持ちを踏み躙るような人ではない。それだけは、知ってる」
明るくて、話し上手で、面白い。五十嵐くんはそんな人だと思っている。亜美を好きなことを隠して、友人の恋を応援出来る人なんだと思う。五十嵐くんは潮賀くんと仲が良かったはずだ。
「…私も、そう思います。五十嵐先輩は、優しいんです。優しすぎて、ずるいんです」
菜古ちゃんは困ったように笑った。私はそっと菜古ちゃんの頭を撫でて、時間を確認する。そろそろ戻らないとお昼ご飯を食べ損ねてしまう。
「あんまり参考にならない相談相手でごめんね。また困ったことがあったら、聞くことは出来るから」
「いえっ、こちらこそ急にすみませんでした…!ありがとうございます」
私達は教室を出て、菜古ちゃんの教室がある階の階段で別れた。教室に戻ると利羽がじぃっと目を吊り上げて私を見て来たので、両手を小さく上げて無罪を主張した。今にも飛びかかって来そうな心配性の利羽を紗奈が宥め、由芽が苦笑いをしながら言う。
「おかえり。あと少しで利羽が探しに行くところだったよ」
「それはありがたいような申し訳ないような」
「なら心配かけないように気を付けなよ。紗奈が疲弊してるよ」
「りぃちゃん…も…ストップ…」
ぜーはーと息を切らしながら、紗奈が無理やり利羽を押さえていた。私はその様子に慄きながら、苦笑いをした。
五十嵐くんと、話をしに行こうか考えながら。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる