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12月10日 見舞い
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何度も寝ては、その度に目を覚ます。熱も下がってきていて、後一晩二晩休めば回復しそうだったため、病院に行くことは拒否した。お母さんは呆れていたが、私は安堵のため息をついていた。
寝すぎてそろそろ眠れなくなってきた頃、私が目を覚ますと人の気配を感じた。何かと思って体を起こそうとすると、少しだけ布団が縫い付けられているように抵抗を示した。引っ張ると、何かが乗っているのか動かない。もう片側の抵抗が少ない方から体を出して起き上がると、そこには見覚えのある焦げ茶色の髪。
「…羅樹!?」
思わず大きな声を出してしまう。喉の痛みを感じ、慌てて口を塞ぐが遅かった。髪がふわふわと揺れて、「んー」という言葉にならない声が聞こえる。それも聞き覚えのあるもので、私が焦がれてやまない声だった。
「…ん、あれ、おはよう夕音」
「…お、おはよう…」
ふにゃっとした羅樹の笑顔に、鼓動が高鳴る。全身の血流が早くなっていることがわかる。身体の中がばくばくと波打つ。誰だって、寝起きに好きな人が笑って話しかけてきたら驚くでしょう。
「あれ、僕…あ、お見舞いに来たよ。寝ちゃったけど」
「…風邪、うつっちゃうよ」
かろうじて出た言葉は、そんなものだった。「お見舞いに来てくれてありがとう」だとか、「疲れてるんじゃない?」とか、そんな言葉より先に出てくるのはそんな言葉。お礼を言わなきゃ、と考える前に別のことを言って、毎回タイミングを逃している。それが悔しくて、心の中で地団駄を踏む。
「平気だよー。僕は風邪ひかないと思うから」
「何それ」
真剣にマッスルポーズの真似をする羅樹がおかしくて、つい笑ってしまう。私が笑うのを見て、羅樹も笑った。
「夕音のお母さん、今ちょっと買い物に行ってるって。だから僕が留守番中」
「留守番中に寝てたら泥棒入りたい放題じゃない」
「あ、確かに!でもさっき音が聞こえたから、鍵閉めて行ったみたいだよ」
「あぁ…」
羅樹は私が寝てるとつられて隣で寝ることが昔からあった。お母さんもそれを覚えていたのだろう。正しい判断だと思う。
「夕音もう熱はない?体起こして平気なの?」
「え、あぁ…多分…」
私が額を触ろうとした時、前髪を羅樹にかきあげられた。そして羅樹はコツンと、何か言う暇もなく額を合わせる。あまりにも一瞬の出来事で、離れてから5秒程経つまで、何をされたか分からなかった。
「本当だ。もうそんなに無いみたいだね。良かったぁ~」
「…ん????」
羅樹が話しやすい距離感に戻ってから、額を合わせて熱を測る方法を取られたことに気付いた。自覚した瞬間、頬が熱を帯びる。
「…あれ、夕音?」
とりあえず私は、手元にあったクッションを投げつけることにした。
寝すぎてそろそろ眠れなくなってきた頃、私が目を覚ますと人の気配を感じた。何かと思って体を起こそうとすると、少しだけ布団が縫い付けられているように抵抗を示した。引っ張ると、何かが乗っているのか動かない。もう片側の抵抗が少ない方から体を出して起き上がると、そこには見覚えのある焦げ茶色の髪。
「…羅樹!?」
思わず大きな声を出してしまう。喉の痛みを感じ、慌てて口を塞ぐが遅かった。髪がふわふわと揺れて、「んー」という言葉にならない声が聞こえる。それも聞き覚えのあるもので、私が焦がれてやまない声だった。
「…ん、あれ、おはよう夕音」
「…お、おはよう…」
ふにゃっとした羅樹の笑顔に、鼓動が高鳴る。全身の血流が早くなっていることがわかる。身体の中がばくばくと波打つ。誰だって、寝起きに好きな人が笑って話しかけてきたら驚くでしょう。
「あれ、僕…あ、お見舞いに来たよ。寝ちゃったけど」
「…風邪、うつっちゃうよ」
かろうじて出た言葉は、そんなものだった。「お見舞いに来てくれてありがとう」だとか、「疲れてるんじゃない?」とか、そんな言葉より先に出てくるのはそんな言葉。お礼を言わなきゃ、と考える前に別のことを言って、毎回タイミングを逃している。それが悔しくて、心の中で地団駄を踏む。
「平気だよー。僕は風邪ひかないと思うから」
「何それ」
真剣にマッスルポーズの真似をする羅樹がおかしくて、つい笑ってしまう。私が笑うのを見て、羅樹も笑った。
「夕音のお母さん、今ちょっと買い物に行ってるって。だから僕が留守番中」
「留守番中に寝てたら泥棒入りたい放題じゃない」
「あ、確かに!でもさっき音が聞こえたから、鍵閉めて行ったみたいだよ」
「あぁ…」
羅樹は私が寝てるとつられて隣で寝ることが昔からあった。お母さんもそれを覚えていたのだろう。正しい判断だと思う。
「夕音もう熱はない?体起こして平気なの?」
「え、あぁ…多分…」
私が額を触ろうとした時、前髪を羅樹にかきあげられた。そして羅樹はコツンと、何か言う暇もなく額を合わせる。あまりにも一瞬の出来事で、離れてから5秒程経つまで、何をされたか分からなかった。
「本当だ。もうそんなに無いみたいだね。良かったぁ~」
「…ん????」
羅樹が話しやすい距離感に戻ってから、額を合わせて熱を測る方法を取られたことに気付いた。自覚した瞬間、頬が熱を帯びる。
「…あれ、夕音?」
とりあえず私は、手元にあったクッションを投げつけることにした。
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