379 / 812
12月11日 虚弱体質
しおりを挟む
楽しい時間はあっという間に過ぎ、気付けばもう外は真っ暗になっていた。冬は暗くなるのが早いとはいえ、時計はもう7時5分前を指していた。おやつで程よく空腹が満たされた後、小物や服を見て回った。可愛らしいパステル調の文房具に目を奪われ、ついつい衝動買いをしてしまった。利羽はものが棚に陳列していること自体珍しいらしく、あっちへこっちへと忙しなく行き来していた。いろんなものが欲しくなってしまったようだが、「無駄遣いって言われちゃうわ。治療費もずっと頼りっぱなしだし、申し訳ないもの」と我慢する様子だった。親の苦労は、子供ながらに分かるものだ。親は「気を遣わなくて良い」と言うが、やはり経済的に厳しいのに我儘を言うのは良くないとつい飲み込んでしまうものなのだ。羅樹がそうだから、私もそういう感情を知っている。そうして飲み込んで、必要なことすらも言うのを躊躇ってしまう感情を、何度も見てきたから。
「帰りましょ、夕音」
「…うん!」
自動ドアから一歩外へ出ると、暗闇が辺りを覆っていた。ポツポツと開店中の印である電灯のみが光って、目が慣れるまでそこに何かわからない程に暗くなっている。駅の方へ向かって歩こうと足を踏み出した瞬間、隣にいた利羽が咳き込んだ。ゴホッゴホッと苦しそうな呻き声が聞こえる。私は利羽の背中をさすり、落ち着くのを待った。咳の間にありがとう、という言葉が聞こえた。
しばらくして利羽の咳は治った。
「…あり、がと」
「もう平気?」
利羽は俯きながらこくこくと頷く。喋るのはキツいらしい。私は近くにあったベンチに利羽を座らせる。
「…迎えに来て貰うわ」
俯いたままそう呟く利羽。楽しい時間が一瞬にして生命の危機…とまではいかないだろうが、悲しい思い出になってしまった。多分利羽の病状が悪化したら、利羽は自分を責めるのだろう。それは私にも責任があるのに、「夕音のせいじゃないよ」と言って。利羽はそうやって何度自分の虚弱体質に諦めてきたのだろう。恨んできたのだろう。悲しんできたのだろう。利羽は電話を掛け、40分くらいで来ると言う。
「寒いから中に入って待ちましょ」
利羽がそう言って元気なく微笑んだ。さっきまできらきらしていた瞳は何処へやら。何か悔しくて、近くの棚を見る。さっきまで見ていた利羽の好きそうな文房具があった。振り向くと利羽は別の方向を見ている。私はこっそりとそれを買って、簡易的に包んで貰った。
40分弱待った頃、利羽の携帯に到着を知らせるメールが来た。外に出ると白のワゴン車が止まっていた。
「今日はありがとう、夕音。また、月曜日ね」
そう言って車に乗ろうとする利羽の手を無意識に引っ張って、先程包んで貰ったプレゼントを握らせる。利羽は目を見開いて驚いた。
「こちらこそありがとう。また遊ぼうね」
ゆらっと赤色が利羽の瞳に揺らめいて、利羽は目を潤ませながら微笑んだ。
「帰りましょ、夕音」
「…うん!」
自動ドアから一歩外へ出ると、暗闇が辺りを覆っていた。ポツポツと開店中の印である電灯のみが光って、目が慣れるまでそこに何かわからない程に暗くなっている。駅の方へ向かって歩こうと足を踏み出した瞬間、隣にいた利羽が咳き込んだ。ゴホッゴホッと苦しそうな呻き声が聞こえる。私は利羽の背中をさすり、落ち着くのを待った。咳の間にありがとう、という言葉が聞こえた。
しばらくして利羽の咳は治った。
「…あり、がと」
「もう平気?」
利羽は俯きながらこくこくと頷く。喋るのはキツいらしい。私は近くにあったベンチに利羽を座らせる。
「…迎えに来て貰うわ」
俯いたままそう呟く利羽。楽しい時間が一瞬にして生命の危機…とまではいかないだろうが、悲しい思い出になってしまった。多分利羽の病状が悪化したら、利羽は自分を責めるのだろう。それは私にも責任があるのに、「夕音のせいじゃないよ」と言って。利羽はそうやって何度自分の虚弱体質に諦めてきたのだろう。恨んできたのだろう。悲しんできたのだろう。利羽は電話を掛け、40分くらいで来ると言う。
「寒いから中に入って待ちましょ」
利羽がそう言って元気なく微笑んだ。さっきまできらきらしていた瞳は何処へやら。何か悔しくて、近くの棚を見る。さっきまで見ていた利羽の好きそうな文房具があった。振り向くと利羽は別の方向を見ている。私はこっそりとそれを買って、簡易的に包んで貰った。
40分弱待った頃、利羽の携帯に到着を知らせるメールが来た。外に出ると白のワゴン車が止まっていた。
「今日はありがとう、夕音。また、月曜日ね」
そう言って車に乗ろうとする利羽の手を無意識に引っ張って、先程包んで貰ったプレゼントを握らせる。利羽は目を見開いて驚いた。
「こちらこそありがとう。また遊ぼうね」
ゆらっと赤色が利羽の瞳に揺らめいて、利羽は目を潤ませながら微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる