神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
473 / 812

12月31日 疲労

しおりを挟む
新年の挨拶を考え直す、と当主は自室に向かった。その後を静々と付いてこうとしたせん様のお母様は、私の方を見て微笑んだ。
わたくし達は明日の準備に取り掛かります。それまで、夕音さんは…えぇと…」
「奥様」
スッと戸を開けて音も無く現れたのは、花火だった。久しぶりに学友であり身分や口調に気を付けなくていい相手が現れた気がして、無意識に頬が緩む。
「夕音様は私にお任せください。儀式にも参加し、お疲れでしょうから」
「まぁ、助かるわ。ありがとう」
にこにこと朗らかに笑い、私の相手はお母様から花火へと変わる。花火と2人きりになった瞬間、やはり気を張っていたのか、膝からペタンとくずおれた。
「夕音!?」
慌てた花火が私の元に駆け寄る。背中を支えてくれるが、私の体は動かない。
「ご、ごめん…ちょっと疲れたみたい…」
「そうよね…巻き込んでごめんね…」
「ううん、私から巻き込まれに来たの。花火のせいじゃないよ」
力無く返すと、花火は今にも泣き出しそうな申し訳なさそうな顔をした。そんなにも私は弱って見えるのだろうか。酷く眠いだけで、特に自分では異変を感じないのだが。
そういえば昨日、屋敷に来る際も朝早かった。それから慣れない会食を終え、儀式に飛び入り参加し、国で最も偉いお方と言葉を交わし、あちらこちらへと動き回った。改めて考えると、疲れない方がおかしい。
「夕音が通されている客間に戻りましょう。そこでゆっくり休んで」
「うん。ありがとう…」
立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。泥のように重く、固まって動かない。戸惑うが、対策を練るための脳もあまり機能していない。
そんな私に気付いたのか、花火は襟に付けた無線機のような通信機で誰かを呼んだ。すぐに現れたのは恰幅の良い30代くらいの女性で、私と花火を見て朗らかに笑った。彼女は私の膝裏に手を差し入れると、そのままの姿勢で持ち上げた。お姫様にするような抱っこの仕方だ。普段の私なら頬を赤く染めて軽く抵抗しただろうが、今はそんな気力も無い。
花火に先導されて、女性は私を運んでくれる。
「すみません、手伝っていただいて」
「構わないよ。儀式用の飾り物は重いから、小柄なアンタには難しいだろう?」
そんな会話が、かろうじて耳に入ってくる。私は女性の腕の中で、ほとんど微睡の中に落ちていた。客間まで運んでもらい、そのままベッドへと下される。ふかふかのシーツと枕、それに布団まで全てが包み込むような手触りで、私は飲み込まれるようにあっという間に眠りに付いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...