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消えたBae 羅樹
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もうどれくらいの間、そうしていたのだろう。体力の限界なんてとっくに超えていて、ただ何かが僕を突き動かし続けて、ずっと夕音の名前を叫んでいた。不審に思った近所の大人たちが出て来て、僕に話しかけたらしいが気付かなかった。壊れた人形のように「夕音」と繰り返し呼び続ける僕に、戸惑うばかりだったという。僕のただならぬ様子に、噂は一瞬で広がった。夕音のお母さんが現れて、神社だということにハッとしたそうだ。
「羅樹くん!」
慌てて僕に駆け寄って、肩を掴んで視線を合わせてくれた。僕はその時やっと、我に返った。
「夕音が…っ夕音ちゃんが…」
震える声で、僕はそう繰り返した。夕音のお母さんは何かを察したらしく、僕をぎゅっと抱き締めてくれた。その体温は温かかったはずなのに、僕に移ることはなかった。体の芯まで冷え切ったように、僕は絶望感に打ちひしがれていた。動けなくて、怖くて、ただただそこに立っているだけだった。
「大丈夫、大丈夫よ…っあの子はきっと、帰ってくるわ…!」
夕音のお母さんの声が、僕には届かない。そんな僕の様子を察したのか、僕から腕を解いて周りの大人に頭を下げた。謝罪と懇願だったと思う。自分の娘がいなくなったと説明していたんだと思う。今思い返せば恐らくそうだろうという程度で、確信はないのだけど。
立ちすくむ僕の耳に、声が聞こえて来た。
"じゃあ、またね"
その声は、間違いなく。僕が聞き間違えるはずのない、大好きな声。
僕は声の方向に向かって走り出していた。それは夕音が消えた場所ではなく、人のいない建物と建物の間。そこに夕音は、現れた。虚ろだった朱色の瞳にはオレンジ色の光が戻って来ていた。金の髪が絹のように揺れて、太陽光を反射する。それはまるで女神が帰って来たかのようにも見えて、夕音が神秘的な場所から帰って来たかのように思えて、心底安堵したのをよく覚えている。僕は一目散に夕音に駆け寄って、無我夢中で彼女を抱き締めた。やっと自分の温度が帰って来た気がする。それを実感した瞬間、僕は堰を切ったように泣き出した。後から追い掛けてきた大人たちが騒いで、遅れてやって来た夕音のお母さんが2人まとめて抱き締めてくれた。夕音はきょとんとした顔を浮かべて、されるがままになっていた。そんな様子が夕音らしくて、僕はホッと安堵した。そして、夕音を失う恐怖を知った。何よりも怖くて、深い絶望に落ちていく苦しみを味わった。2度と経験したくない。こんな不安に苛まれたくない。
だから、だから僕は。
夕音が笑顔でそこにいてくれるなら、────。
「羅樹くん!」
慌てて僕に駆け寄って、肩を掴んで視線を合わせてくれた。僕はその時やっと、我に返った。
「夕音が…っ夕音ちゃんが…」
震える声で、僕はそう繰り返した。夕音のお母さんは何かを察したらしく、僕をぎゅっと抱き締めてくれた。その体温は温かかったはずなのに、僕に移ることはなかった。体の芯まで冷え切ったように、僕は絶望感に打ちひしがれていた。動けなくて、怖くて、ただただそこに立っているだけだった。
「大丈夫、大丈夫よ…っあの子はきっと、帰ってくるわ…!」
夕音のお母さんの声が、僕には届かない。そんな僕の様子を察したのか、僕から腕を解いて周りの大人に頭を下げた。謝罪と懇願だったと思う。自分の娘がいなくなったと説明していたんだと思う。今思い返せば恐らくそうだろうという程度で、確信はないのだけど。
立ちすくむ僕の耳に、声が聞こえて来た。
"じゃあ、またね"
その声は、間違いなく。僕が聞き間違えるはずのない、大好きな声。
僕は声の方向に向かって走り出していた。それは夕音が消えた場所ではなく、人のいない建物と建物の間。そこに夕音は、現れた。虚ろだった朱色の瞳にはオレンジ色の光が戻って来ていた。金の髪が絹のように揺れて、太陽光を反射する。それはまるで女神が帰って来たかのようにも見えて、夕音が神秘的な場所から帰って来たかのように思えて、心底安堵したのをよく覚えている。僕は一目散に夕音に駆け寄って、無我夢中で彼女を抱き締めた。やっと自分の温度が帰って来た気がする。それを実感した瞬間、僕は堰を切ったように泣き出した。後から追い掛けてきた大人たちが騒いで、遅れてやって来た夕音のお母さんが2人まとめて抱き締めてくれた。夕音はきょとんとした顔を浮かべて、されるがままになっていた。そんな様子が夕音らしくて、僕はホッと安堵した。そして、夕音を失う恐怖を知った。何よりも怖くて、深い絶望に落ちていく苦しみを味わった。2度と経験したくない。こんな不安に苛まれたくない。
だから、だから僕は。
夕音が笑顔でそこにいてくれるなら、────。
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