515 / 812
1月30日 水族館へ
しおりを挟む
羅樹はテンションが高くなると、思い込んだ方向に一直線になるところがある。そのため行きの電車で何度か逆方向に乗りそうになったが、手を繋いでいたお陰で大惨事にはならずに済んだ。何とか水族館に辿り着いて、その大きな建物を見つめる。清潔感のある白い塗装の、ユニークな形をした建物。水族館までの道のりには落ち着いた色合いのタイルが敷かれており、導かれるように入り口に誘われた。
「えぇっと学生は…」
料金を確認して、受付でチケットを購入する。中に入ると照明が幾分か暗くなった。真後ろから指していた日の光がどんどん心許なくなる。ちょっと不安になっていると、羅樹がトントンと私の肩を叩いて、そのまま前を指さした。そこには小さな魚たちが優雅に泳いでいる姿があった。照明のせいか、アクアマリンのように輝き揺らめく水面。その中を彷徨う色取り取りの魚達。一瞬にして目を奪われた。
「綺麗…!」
思わず駆け寄りそうになったのを既の所で抑え、静かに水槽へと近付く。人慣れした魚たちは、好奇の視線に晒されても我を失うことなく、優雅に立ち回ってみせた。顔を上げると、いくつも似たような作りの水槽が並んでおり、全てにそれぞれ違う種類の魚や甲殻類など、海の生物が泳いでいた。
「すごい、すごい!」
口から溢れるのはこういった感嘆の声ばかりで、会話にはなっていない。そんな私の様子を見て、羅樹はくすくすと笑った。私は羅樹も水槽を見て楽しんでいるのだろうと判断して、特に何も言わなかった。羅樹が微笑ましそうに見ていたのは、子供のようにはしゃぐ私の様子を見てのことだとは、知る由もなかった。
壁に埋め込まれるような形の小さめの水槽エリアを抜けると、一気に横に大きく広がった水槽エリアへと移る。私の身長よりも大きく、縦に広がった透明なガラスで壁一面が覆われる。その奥には自由に泳ぎ回る大型の魚たち。鮫やエイ、鰯の群れなども現れる。ゆったりとした動きで艶やかに泳ぎ回る。魅せ方を知っているかのように、私達を海の中へと引き込む。囁くような人々の声も、波の音のようで気にならない。青い空間の中へと1人取り残されたような、そんな気分になる。
ふと右手がぎゅっと握られ、顔を上げる。すると羅樹が慈しむような表情を向けて、朗らかに笑った。
「イルカショー、そろそろ始まるみたいだよ」
「えっ!?い、行こう!」
急に現実に引き戻された私は慌てながら、パンフレットで場所を調べてイルカショーのスペースへと向かう。まだ見られていない水槽は、後でもう1度巡ろうと固く決意した。
「えぇっと学生は…」
料金を確認して、受付でチケットを購入する。中に入ると照明が幾分か暗くなった。真後ろから指していた日の光がどんどん心許なくなる。ちょっと不安になっていると、羅樹がトントンと私の肩を叩いて、そのまま前を指さした。そこには小さな魚たちが優雅に泳いでいる姿があった。照明のせいか、アクアマリンのように輝き揺らめく水面。その中を彷徨う色取り取りの魚達。一瞬にして目を奪われた。
「綺麗…!」
思わず駆け寄りそうになったのを既の所で抑え、静かに水槽へと近付く。人慣れした魚たちは、好奇の視線に晒されても我を失うことなく、優雅に立ち回ってみせた。顔を上げると、いくつも似たような作りの水槽が並んでおり、全てにそれぞれ違う種類の魚や甲殻類など、海の生物が泳いでいた。
「すごい、すごい!」
口から溢れるのはこういった感嘆の声ばかりで、会話にはなっていない。そんな私の様子を見て、羅樹はくすくすと笑った。私は羅樹も水槽を見て楽しんでいるのだろうと判断して、特に何も言わなかった。羅樹が微笑ましそうに見ていたのは、子供のようにはしゃぐ私の様子を見てのことだとは、知る由もなかった。
壁に埋め込まれるような形の小さめの水槽エリアを抜けると、一気に横に大きく広がった水槽エリアへと移る。私の身長よりも大きく、縦に広がった透明なガラスで壁一面が覆われる。その奥には自由に泳ぎ回る大型の魚たち。鮫やエイ、鰯の群れなども現れる。ゆったりとした動きで艶やかに泳ぎ回る。魅せ方を知っているかのように、私達を海の中へと引き込む。囁くような人々の声も、波の音のようで気にならない。青い空間の中へと1人取り残されたような、そんな気分になる。
ふと右手がぎゅっと握られ、顔を上げる。すると羅樹が慈しむような表情を向けて、朗らかに笑った。
「イルカショー、そろそろ始まるみたいだよ」
「えっ!?い、行こう!」
急に現実に引き戻された私は慌てながら、パンフレットで場所を調べてイルカショーのスペースへと向かう。まだ見られていない水槽は、後でもう1度巡ろうと固く決意した。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる