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2月2日 重なる記憶
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明が泣けなくなった理由が、重く心にのしかかる。傷付けられた苦しさを逃すために涙は流れるものであるというのに、その涙が苦しみを増加させる原因になるというのなら、確かに「泣く」という行為は封じられる。発散の手段を失ったそれは、明の中に蓄積し続ける。見なければ、奥底に閉じ込めておけば日常生活に支障はないのだろう。しかし明は少しだけ前に進み始めている。文化祭のあの日から、少しずつ感情を出すようになって来ている。それは親しい相手が微かにわかる程度の変化なのだけれど、それでも明にとっては大きな変化だ。苦しみを抱え込まなくて良いという許容は、自分で自分に与えることが出来なかった。今、明は自分に苦しみを発散する機会を与えている。しかしその機会が邪魔されている。自分の描いた筋書きに、無理やり明を登場させた大馬鹿者がいる。
今回の筋書きは、とても明の過去に似ている。
告白を断られた男が虚偽の噂を流したこと。それに煽動された人がいること。噂が脚色され、外堀が埋められていったこと。明が否定したいこと。
今回の噂の源は誰か分からないが、そこも似ていたら厄介である。明が暴行に遭う危険性を孕んでおり、そんなことになればもう2度と明は自分の感情を表に出さないだろう。悲しみだけに苛まれ、それはやがて虚無へと移る。終わらない苦しみに泣くことも出来ず、耐え忍ぶ日々。
そんな日々よりも、明に似合う毎日がある。
明にだって笑って欲しい。
明にだって楽しい日々を過ごして欲しい。
明にだって幸せな恋をして欲しい。
望む毎日を、好きなように享受して欲しい。
自分勝手な願いであることは分かっている。けれど散々我慢させられたのだ。これくらいの我儘、明が幸せになるための我儘は叶えて欲しい。
「私のことを好きになる人は、皆、怖かった。私に近付く男の人は、全員、暴力的だと、思ってた」
昔馴染みは置いておいて、確かにそんな過去があればそういった認識になるのも頷ける。「美人な彼女」というレッテルに拘りが強い者もいたのだろう。アクセサリーのように明を連れて歩きたかったのだろう。何とも傲慢で、思わず閉口してしまう。
「だから、桜が違くて、びっくりした」
「え?」
思わず問い返す。明は少しだけ戸惑ったような、困ったような顔をして続けた。
「桜みたいな人は、初めて会った」
確か受験の時に初めて出会ったと聞いた。詳しい話は知らないが、明がそういうなら今までの人とは違うタイプだったのだろう。
「桜は、私と仲良くしてくれた。けど、全然怖くない。側にいると落ち着く、そんな人」
僅かに明が、はにかんだ気がした。
今回の筋書きは、とても明の過去に似ている。
告白を断られた男が虚偽の噂を流したこと。それに煽動された人がいること。噂が脚色され、外堀が埋められていったこと。明が否定したいこと。
今回の噂の源は誰か分からないが、そこも似ていたら厄介である。明が暴行に遭う危険性を孕んでおり、そんなことになればもう2度と明は自分の感情を表に出さないだろう。悲しみだけに苛まれ、それはやがて虚無へと移る。終わらない苦しみに泣くことも出来ず、耐え忍ぶ日々。
そんな日々よりも、明に似合う毎日がある。
明にだって笑って欲しい。
明にだって楽しい日々を過ごして欲しい。
明にだって幸せな恋をして欲しい。
望む毎日を、好きなように享受して欲しい。
自分勝手な願いであることは分かっている。けれど散々我慢させられたのだ。これくらいの我儘、明が幸せになるための我儘は叶えて欲しい。
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「え?」
思わず問い返す。明は少しだけ戸惑ったような、困ったような顔をして続けた。
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