神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
113 / 812

4月9日 図書室にて

しおりを挟む
私はようやく図書室についた。いつの間にか稲荷様はどこかへいなくなっていった。図書室では、私のクラスの学級委員二人がプリントや名簿を製作していた。夕日が少しだけ差した図書室。そこに二つの影が落ちる。小野くんと、由芽さん。小野くんが指示を受けたらしく、由芽さんが聞くとそれに答えていた。その答えの9割が「俺がやる」だったことに、少し笑ってしまった。やがて、二人の分担が決まったらしく静かになった。だんだん暗くなっていく図書室に、風の通る音だけが鳴る。私の行動は二人には伝わらないし聞こえない。一人だけ違う世界にいるという感覚が不思議で、くるくると回る。念じていなかったのでどん、と本棚にぶつかってしまった。私は一気に背筋が凍った。
どうしよう。
その動揺だけが私の脳内を満たした。ぱっと二人を見ると、小野くんは集中して全く気付いていない。由芽さんは丁度仕事が終わったらしく、本棚…ではなく窓を見つめた。風が吹いて、さらさらと二人の髪が揺れる。由芽さんは窓から目線を外し、小野くんを見つめた。瞳の奥に何かの感情を感じた。小野くんとの距離、数十センチ。なのに心の内で由芽さんが壁を作ってるようだった。視えた。彼女が考え感じていることが。
(「小野くんは、綺麗。私のようにけがれた心じゃない」)
それは、情報屋としてたくさんの人の言葉に関わってきた由芽さんの、唯一の弱いところ。彼女はそんな様子を瞳に隠し、誰にも悟られないよう過ごしてきたのだと感じる。私には、どうすることも出来ない。
小野くんからは、恋の感情が見える。今は仕事に集中しているが、分担を決める時は夕日で見えずらかったが耳が赤くなっていた。
「へ!?」
数分経って、小野くんが由芽さんの視線に気付いて驚いたようで、椅子がガタンと鳴った。由芽さんも目を見開いていた。二人で目を見開くこと数秒。沈黙を破ったのは由芽さんの笑い声だった。由芽さんの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。瞳の奥に先ほどまでの弱さは消えていた。
由芽さんは大笑いしたことへのお詫びに飲み物を買ってくる、と図書室を後にした。
私はどっちにいようか迷って、由芽さんについて行った。階段の影で人に戻り、飲み物を買う由芽さんに偶然を装って話しかけた。
「あ、由芽さん」
「ん?あ、夕音ちゃん。まだ残ってたの?」
「うん、まぁね。由芽さんも?」
「うん、委員会の方でちょっと。そういえば霙に伝えてくれてありがと」
「あ、うん!どう致しまして」
「ん、じゃあまたね」
由芽さんは飲み物を二本買って、手を振った。私も手を振り返して由芽さんを見送った。
私もそろそろ帰るか、と鞄を取りに行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...