神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
555 / 812

2月13日 楽しかったね

しおりを挟む
遅めのおやつを終えて、紅茶を片手に話をする。最近ハマっているドラマだとか音楽だとか、少し前に竜夜くんが小野くんに何をしたのか追いかけ回されていただとか、そういった話に花を咲かせる。明も聞き手に回りながら、少しずつ表情を動かしていたので楽しんでくれたようだ。
「っと、そろそろ1時間かな?」
「あ、うん。…夕音が大丈夫な時間までいてもいい?」
「え?それは良いけど、そろそろ暗くなってくるよ?大丈夫?」
「あ…うん。お母さんが最寄り駅まで迎えに来てくれるって言ってたから、大丈夫」
明のお母さんも、流石に娘のことを心配しているのだろう。事件が起こった日から日が浅いし、中学生の時も起こったとなれば過保護になりかねない。今回私の家に来れているのは奇跡のようなものかもしれない。そんなことをふと考えた。
「そっかそっか。それなら、家の最寄りまでは送るよ。そんなに遠くないしね」
「え、でも…」
「大丈夫、大丈夫。お母さんも6時くらいには帰って来るから、そしたら出ようか。入れ違いになったら困るし、その方が確実だし、クッキーも乾かせるし!」
「…ありがとう」
明が申し訳なさそうに微笑むが、私はとびきりの笑顔を返した。そして確認ついでにキッチンに下り、おやつの片付けをする。私が食器を洗っている間、明はクッキーの様子を見ていた。
「表面は良さそう」
「あと中が固まるのに時間がかかるんだっけ?」
明が頷く。クッキーといってもデコレーションなど奥が深いのだな、としみじみ思う。そういえば羅樹以外の友達にはチョコチップクッキーを渡す予定だったが、被ってしまった。まぁ味は違うし良いか、と楽観的に考える。
「手伝う」
「ありがとう。それじゃあ、食器拭いてくれる?」
2人で協力して、今度こそ完璧にキッチン周りの後片付けを終える。クッキーも、数段重なったケーキスタンドのような網の上に丁寧に乗せ、それさえしまえば帰れるように準備を終える。危険のないテーブルの真ん中に寄せ、再度自室に戻って他愛のない話をする。
あっという間に時間は過ぎて、玄関のドアが開く音がした。ただいま、と言う声は私の母のものだ。
「もう6時過ぎかぁ。外、真っ暗だね」
「うん。早い、ね」
明は携帯を取り出し、親に連絡をする。すぐに返信が来たらしく、帰ると呟いた。名残惜しい気もするが、また明後日会えるのだからと言い聞かせる。何だか恋人との別れのようだ。
「駅まで送って来るね」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
クッキーを詰め、外へと出る。空は星が瞬き始める時間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...