562 / 812
2月14日 探検
しおりを挟む
普通であれば、他人の家を無遠慮に歩くなど失礼極まりない行為だろう。しかし羅樹とは幼馴染であり、かつて家中を探索しあった仲である。羅樹のお父さんがいない時は私の家に来るので、羅樹は私の家の構造どころか、どこに何があるかまで把握している。そちらが多いだけで、私だって昔は羅樹の家によく遊びに来ていた。1人で寂しさを隠そうとする羅樹に腹が立って、無理やり押し掛けたのだ。今思えばかなり大胆で強引もするが、それでも私が訪れる度、羅樹は泣きそうな顔で笑うものだから、反省するのを後回しにしていた。
「こんな感じだったっけ?」
走り回ってぶつかった柱や、かつておもちゃが置かれていた部屋、遊び疲れて2人で眠った羅樹のお父さんのベッドなど、見る度に様々な思い出が蘇る。それらはもう整頓されて、落ち着いた様相で待っている。子供時代の名残は隅に隠されて、何だかちょっと、寂しさを感じた。
埃を被ったおもちゃ箱に触れる。少しだけ出してみようか、と羅樹が悪戯っぽく笑い、丁寧に埃を払った後で箱を開けた。
「わっ、懐かしい!」
「本当、久しぶりに開けたよ」
私が先導して遊ぶことが多かったからか、羅樹のおもちゃ箱には人形など私好みのものがいくつか入っていた。混ざったのか、混ぜたのか。それはもう記憶にないが、また来ることの印だったのかもしれない。久しぶりにパペットを使って会話をすると、気恥ずかしさと共に昔に戻ったような気分になる。それからしばらく、おもちゃを取り出してはどういう遊びをしたかを思い出し、往時を懐かしんだ。
一通り見終えると、ふと顔を上げて視線を彷徨わせた。昔のまま変わらない、「らき」の看板の垂れ下がったドアが目に入る。
「羅樹の部屋だ!」
「え?」
おもちゃを片付けている羅樹を置いて、ドアを開ける。久しぶりに見るその部屋は、昔のように可愛らしい雰囲気はなくなり、代わりに落ち着いた様子でまとめられていた。
「羅樹の部屋に入るのも久しぶりだね」
見た目は変わらないものもいくつかあるが、見たことのない棚やベッドのシーツなど、目新しいものもたくさんある。わくわくして探索を続けようとするが、流石に部屋はまずいだろうと足を止める。私を追いかけてきた羅樹が、ドアからひょこっと顔を出した。
「夕音?」
「うん?」
窓際に寄っていた私は、羅樹の方に寄ろうとした瞬間、ふわりと近付く"晴れ"の気配を感じた。思わず振り向いて、窓の外を見る。学校とは反対側の方角に、誰の気配を感じ取ったのかわからずに止まる。窓の外を見つめ、ぼんやりと気配を手繰る。ヒペリカムとアキレアの花が、どこかで花咲く感覚がした。この2つは確か、明と鹿宮くんの花。
「…良かった」
やっと明の心が自由になれた。それが嬉しくて思わず微笑むと、ぐいっと腕を掴まれ体が反転した。
「…え?」
羅樹に抱き締められたせいだとは、すぐには気付けなかった。
「こんな感じだったっけ?」
走り回ってぶつかった柱や、かつておもちゃが置かれていた部屋、遊び疲れて2人で眠った羅樹のお父さんのベッドなど、見る度に様々な思い出が蘇る。それらはもう整頓されて、落ち着いた様相で待っている。子供時代の名残は隅に隠されて、何だかちょっと、寂しさを感じた。
埃を被ったおもちゃ箱に触れる。少しだけ出してみようか、と羅樹が悪戯っぽく笑い、丁寧に埃を払った後で箱を開けた。
「わっ、懐かしい!」
「本当、久しぶりに開けたよ」
私が先導して遊ぶことが多かったからか、羅樹のおもちゃ箱には人形など私好みのものがいくつか入っていた。混ざったのか、混ぜたのか。それはもう記憶にないが、また来ることの印だったのかもしれない。久しぶりにパペットを使って会話をすると、気恥ずかしさと共に昔に戻ったような気分になる。それからしばらく、おもちゃを取り出してはどういう遊びをしたかを思い出し、往時を懐かしんだ。
一通り見終えると、ふと顔を上げて視線を彷徨わせた。昔のまま変わらない、「らき」の看板の垂れ下がったドアが目に入る。
「羅樹の部屋だ!」
「え?」
おもちゃを片付けている羅樹を置いて、ドアを開ける。久しぶりに見るその部屋は、昔のように可愛らしい雰囲気はなくなり、代わりに落ち着いた様子でまとめられていた。
「羅樹の部屋に入るのも久しぶりだね」
見た目は変わらないものもいくつかあるが、見たことのない棚やベッドのシーツなど、目新しいものもたくさんある。わくわくして探索を続けようとするが、流石に部屋はまずいだろうと足を止める。私を追いかけてきた羅樹が、ドアからひょこっと顔を出した。
「夕音?」
「うん?」
窓際に寄っていた私は、羅樹の方に寄ろうとした瞬間、ふわりと近付く"晴れ"の気配を感じた。思わず振り向いて、窓の外を見る。学校とは反対側の方角に、誰の気配を感じ取ったのかわからずに止まる。窓の外を見つめ、ぼんやりと気配を手繰る。ヒペリカムとアキレアの花が、どこかで花咲く感覚がした。この2つは確か、明と鹿宮くんの花。
「…良かった」
やっと明の心が自由になれた。それが嬉しくて思わず微笑むと、ぐいっと腕を掴まれ体が反転した。
「…え?」
羅樹に抱き締められたせいだとは、すぐには気付けなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる