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比較出来ない大切なもの
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羅樹の絞り出すような苦しげな声に、私は愕然とした。羅樹がどうして私の体調不良に過剰反応するのか。恋愛感情なんて抱いていなさそうなのに恋人になろうと言い出したのか。時折私を離すまいとするような行動は何なのか。その答えを知ってしまった。羅樹の心に巣食う恐怖の正体が、私を失うことだと気付いてしまった。嬉しいのか、申し訳ないのか、苦しいのか、安堵したのか、感情がぐちゃぐちゃになって分からない。
羅樹を照らした光は私だった。自分で言うのは恥ずかしいが、見てしまったのだから事実として受け止めるしかない。けれどその光を奪おうとしたのも私だった。稲荷様のために、誰かのためにと今まで自分勝手に動いて来た。羅樹が"ヒーロー"と称したその行動は、誰かを救うことが出来たのかもしれない。誰かに笑顔を思い出させることが出来たのかもしれない。けれどその行動が、他でもない羅樹の不安を煽って苦しめていた。
私がこんなに悩んでいるのは、それがこの先も続くと分かっているからだ。
私が築いた絆は、人間だけじゃない。稲荷様も恋音さんも虹もリーロも否守様も、たくさんの方と会って来た。体育祭や夏休みの旅行では、他の神様とも言葉を交わした。稲荷様の配下であるカサマ達とも話をした。その絆を断ち切れと言われてすぐに切れるほど、関係は浅くない。人間には情というものが存在するのだ。気に掛けた分だけ繋がりは強くなる。羅樹は好きだ。羅樹とだって幼い頃からの繋がりがある。長さは違えども、皆私の大切な人だ。それを選べと言われても難しい。けれどこの先も、こちらの世の者ではない何かと関われば、羅樹の不安を煽ることになる。今だって私を抱き締めながら子供のように震える姿は痛々しい。私の所在を確認するように強く握り締められた服に、皺が寄っている。
ならばいっそ正直に話そうか。
私がヒトならざるモノの力を持ち、そちらとの交流があることを。説明は出来るし、事実神隠しに遭ったところを目の前で2回も見ている羅樹なら信じてくれるかもしれない。
信じて、それから、──それだけだ。
ヒトは未知なるモノに恐怖する。何か分からない曖昧なモノを忌避する。その対象になるだけだ。羅樹が誰かに言ってしまうかは分からないけれど、態度に全く出さないというのは難しいと思う。
嫌われるのは、怖い。
恐れられるのは、もっと怖い。
私は羅樹と違って、「好きじゃなくて良いから」なんて思えない。好きになって欲しい。好きでいて欲しい。自分勝手で我儘だとは思うけれど、私が毎日神社に通っていた理由もそれだから。羅樹を傍から失うのは、私にとって耐え難い苦痛なのだ。身をもって体験しているから、言い切ることが出来る。
まだ覚悟は決まらない。何かを得るためには何かを失わなければいけないこともわかっている。けれど少しでも足掻きたい。抗って、もがいて、少しでも良い解決策を探したい。
私は羅樹を抱き締める手に力を込めながら、決意を宿した。
羅樹を照らした光は私だった。自分で言うのは恥ずかしいが、見てしまったのだから事実として受け止めるしかない。けれどその光を奪おうとしたのも私だった。稲荷様のために、誰かのためにと今まで自分勝手に動いて来た。羅樹が"ヒーロー"と称したその行動は、誰かを救うことが出来たのかもしれない。誰かに笑顔を思い出させることが出来たのかもしれない。けれどその行動が、他でもない羅樹の不安を煽って苦しめていた。
私がこんなに悩んでいるのは、それがこの先も続くと分かっているからだ。
私が築いた絆は、人間だけじゃない。稲荷様も恋音さんも虹もリーロも否守様も、たくさんの方と会って来た。体育祭や夏休みの旅行では、他の神様とも言葉を交わした。稲荷様の配下であるカサマ達とも話をした。その絆を断ち切れと言われてすぐに切れるほど、関係は浅くない。人間には情というものが存在するのだ。気に掛けた分だけ繋がりは強くなる。羅樹は好きだ。羅樹とだって幼い頃からの繋がりがある。長さは違えども、皆私の大切な人だ。それを選べと言われても難しい。けれどこの先も、こちらの世の者ではない何かと関われば、羅樹の不安を煽ることになる。今だって私を抱き締めながら子供のように震える姿は痛々しい。私の所在を確認するように強く握り締められた服に、皺が寄っている。
ならばいっそ正直に話そうか。
私がヒトならざるモノの力を持ち、そちらとの交流があることを。説明は出来るし、事実神隠しに遭ったところを目の前で2回も見ている羅樹なら信じてくれるかもしれない。
信じて、それから、──それだけだ。
ヒトは未知なるモノに恐怖する。何か分からない曖昧なモノを忌避する。その対象になるだけだ。羅樹が誰かに言ってしまうかは分からないけれど、態度に全く出さないというのは難しいと思う。
嫌われるのは、怖い。
恐れられるのは、もっと怖い。
私は羅樹と違って、「好きじゃなくて良いから」なんて思えない。好きになって欲しい。好きでいて欲しい。自分勝手で我儘だとは思うけれど、私が毎日神社に通っていた理由もそれだから。羅樹を傍から失うのは、私にとって耐え難い苦痛なのだ。身をもって体験しているから、言い切ることが出来る。
まだ覚悟は決まらない。何かを得るためには何かを失わなければいけないこともわかっている。けれど少しでも足掻きたい。抗って、もがいて、少しでも良い解決策を探したい。
私は羅樹を抱き締める手に力を込めながら、決意を宿した。
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