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3月3日 忘れていた報告
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霜月神社の一目のない場所に隠れ、"恋使"に姿を変える際、躊躇いが私の中に生まれた。稲荷様の姿を見つけるには私が姿を変えなくてはならないのは分かっている。けれど、そうすることで何度羅樹を、と過ってしまい足がすくむ。何のために来たのだと自分でも思うが、それは私の考えが足りなかったと言わざるを得ない。
『…夕音?』
その声が、聞こえるまでは。
振り向くと、丸く開かれた赤い瞳と目が合った。きょとんとした様子の稲荷様は少し間が抜けているように見えて、普段の威厳ある姿とは違い新鮮だ。
そんなことを考え始めたところで、私は慌てて自身の姿を確認する。しかしそれは家を出た時と同じ、コート姿の私服でしかない。"恋使"特有の巫女服や狐を模した姿ではない。それなのにどうしてか、私は稲荷様の姿を視認出来るようになっていた。
『…?』
稲荷様は怪訝そうな顔をして、私を見つめる。先程からずっと目が合っているのだ。"恋使"に変化していない私が稲荷様を見られる筈がないのに。
パチパチと瞬いてから辺りを見回すと、黄緑色の淡い光がしゃぼん玉のようにふわふわ浮いているのが見えた。その奥に目を凝らすと、ヒトではない生き物が宙を泳いでいるのが見える。本殿の方に目を動かせば、忙しなく働く狐達。恐らく稲荷様の使であるそれらの中には、いつだったか虹の様子がおかしいと報告してくれたカサマの姿もあった。
あぁ、視える。
塞いでいた視界が晴れやかに、私の目の前を彩る。稲荷様の管理下である神社では恐ろしいモノは見当たらないが、恐ろしくないからヒトに害がないとは限らない。視界と共に思い出した中には、こちらを招く怪しい存在だって数え切れないほどにいた。
「…このまま話したら、独り言の大きい変な子になっちゃいますね」
稲荷様を見つめて苦笑いを浮かべれば、その言葉で気付いたらしい。稲荷様は息を呑み、私が姿を変える姿を真っ直ぐに見つめていた。風を巻き込んで、"恋使"としての姿に変わる。
「夕音…お主、視えて、いたのか?」
「はい」
「何故、まさか、わたしの力が蝕んで…?」
戦々恐々とする稲荷様に、ふるふると首を横に振る。落ち着かせるように微笑んで、震える手を取った。
「違います。私が視ないようにしていただけなんです。本当は視えていたんです。ずっと、それこそ生まれた時から、貴方達の存在は側にあったんです。それが人の身には良くないから、視えないようにしてもらっていたんです」
「視えないように…?一体、誰に…」
私の返答に、稲荷様は驚愕の表情を浮かべた。そういえば伝えたことはなかったかもしれない。私の中に当たり前に存在したから、もう既に知っているものだと思っていた。
「──伏見 恋音さんです」
『…夕音?』
その声が、聞こえるまでは。
振り向くと、丸く開かれた赤い瞳と目が合った。きょとんとした様子の稲荷様は少し間が抜けているように見えて、普段の威厳ある姿とは違い新鮮だ。
そんなことを考え始めたところで、私は慌てて自身の姿を確認する。しかしそれは家を出た時と同じ、コート姿の私服でしかない。"恋使"特有の巫女服や狐を模した姿ではない。それなのにどうしてか、私は稲荷様の姿を視認出来るようになっていた。
『…?』
稲荷様は怪訝そうな顔をして、私を見つめる。先程からずっと目が合っているのだ。"恋使"に変化していない私が稲荷様を見られる筈がないのに。
パチパチと瞬いてから辺りを見回すと、黄緑色の淡い光がしゃぼん玉のようにふわふわ浮いているのが見えた。その奥に目を凝らすと、ヒトではない生き物が宙を泳いでいるのが見える。本殿の方に目を動かせば、忙しなく働く狐達。恐らく稲荷様の使であるそれらの中には、いつだったか虹の様子がおかしいと報告してくれたカサマの姿もあった。
あぁ、視える。
塞いでいた視界が晴れやかに、私の目の前を彩る。稲荷様の管理下である神社では恐ろしいモノは見当たらないが、恐ろしくないからヒトに害がないとは限らない。視界と共に思い出した中には、こちらを招く怪しい存在だって数え切れないほどにいた。
「…このまま話したら、独り言の大きい変な子になっちゃいますね」
稲荷様を見つめて苦笑いを浮かべれば、その言葉で気付いたらしい。稲荷様は息を呑み、私が姿を変える姿を真っ直ぐに見つめていた。風を巻き込んで、"恋使"としての姿に変わる。
「夕音…お主、視えて、いたのか?」
「はい」
「何故、まさか、わたしの力が蝕んで…?」
戦々恐々とする稲荷様に、ふるふると首を横に振る。落ち着かせるように微笑んで、震える手を取った。
「違います。私が視ないようにしていただけなんです。本当は視えていたんです。ずっと、それこそ生まれた時から、貴方達の存在は側にあったんです。それが人の身には良くないから、視えないようにしてもらっていたんです」
「視えないように…?一体、誰に…」
私の返答に、稲荷様は驚愕の表情を浮かべた。そういえば伝えたことはなかったかもしれない。私の中に当たり前に存在したから、もう既に知っているものだと思っていた。
「──伏見 恋音さんです」
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