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悪態の後で 紗奈(短編)
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「うわぁぁぁああああ!?!?!?」
私の叫び声に重なるようにして、私より低い叫び声が廊下にこだまする。驚いた勢いで耳を塞ぎしゃがみ込んだ私は、恐る恐る後ろを振り向いて、その正体にホッと安堵した。
後ろにいたのは、驚いた顔をして固まっている竜夜だったからだ。
「び、びっくりしたぁ…」
「俺の台詞だよ!?あんな叫ぶことないだろ!」
部活終わりらしく、体育着のまま首にかけたタオルで汗を拭っている。今拭っているのは運動によるものでなく冷や汗かもしれないが。
急に肩をトンと叩かれ、驚いてしまった。ふるふると震えながら赤い顔で睨み付けると、暗い中でも気付いたらしい竜夜が屈んで私の様子を伺って来た。
「どうした?何かあったか?」
心の底から心配しているかのような声音で言うものだから、思わず肩を跳ねさせてしまった。そのリアクションに何か不穏なものでも察知してしまったのか、竜夜は顔を顰めて「誰?」と聞いて来る。
別に誰かに嫌がらせをされたとかではないのだが、何となく理由を言うのが癪で俯く。それが誤解を呼んでしまったのか、急に黙ったかと思うと鋭い目をして遠くを見ていた。
「待ってて。必ず謝らせるから」
「えっ」
竜夜は女子人気が高いせいで、そういったトラブルに巻き込まれることが多々ある。私も幾度となく竜夜のファンに目の敵にされて来たため、竜夜を介して和解というか謝罪というかそういったことをされたことは何度もあるが、今回はそういう話ではない。
「待っ、違っ」
思わず服の裾を握り、縋り付いてしまう。竜夜が驚いて、けれどすぐに優しく頭を撫でてくれた。
「大丈夫。俺が必ず守るから」
「違……違うんだってば!」
「うん?」
絆されそうになったところで、大声を出して自制心を取り戻す。
「さっき友達と怪談してたの!それで、その…似たような状況になっちゃったから驚いただけ!」
捲し立てるように話すと、竜夜は「なるほど」と納得したように頷いた。
「紗奈は怖くても声が出ないタイプだもんな。気付かれなかったから抜け出せなかったってとこか?」
「なっ…んで知ってんのよ!」
実は私も爽ちゃん並みに怯えていたし、耳も塞ぎたい程に怖かったのだが、怖がるほど声が出ないタチなので他の子には気付かれなかったのだ。
竜夜が安心したように頭をわしゃわしゃと撫でて来る。私が照れ隠しに怒るとからかってきて、そのいつものやり取りに堪らなくホッとして、思わず瞳から涙が溢れた。
「わっ!?」
「な、泣いてないし!」
「いや明らかに泣いてるだろ…?」
「うっさい!!」
1度堰を切った涙は止まるところを知らず、竜夜から離れるのも不安でそのまま服の裾を掴み続ける。
何処か嬉しそうな竜夜が「一緒に帰るか」と言ってくれたので、素直に頷くことにした。
今日くらいは、頼ってあげてもいいかな。
なんて。
私の叫び声に重なるようにして、私より低い叫び声が廊下にこだまする。驚いた勢いで耳を塞ぎしゃがみ込んだ私は、恐る恐る後ろを振り向いて、その正体にホッと安堵した。
後ろにいたのは、驚いた顔をして固まっている竜夜だったからだ。
「び、びっくりしたぁ…」
「俺の台詞だよ!?あんな叫ぶことないだろ!」
部活終わりらしく、体育着のまま首にかけたタオルで汗を拭っている。今拭っているのは運動によるものでなく冷や汗かもしれないが。
急に肩をトンと叩かれ、驚いてしまった。ふるふると震えながら赤い顔で睨み付けると、暗い中でも気付いたらしい竜夜が屈んで私の様子を伺って来た。
「どうした?何かあったか?」
心の底から心配しているかのような声音で言うものだから、思わず肩を跳ねさせてしまった。そのリアクションに何か不穏なものでも察知してしまったのか、竜夜は顔を顰めて「誰?」と聞いて来る。
別に誰かに嫌がらせをされたとかではないのだが、何となく理由を言うのが癪で俯く。それが誤解を呼んでしまったのか、急に黙ったかと思うと鋭い目をして遠くを見ていた。
「待ってて。必ず謝らせるから」
「えっ」
竜夜は女子人気が高いせいで、そういったトラブルに巻き込まれることが多々ある。私も幾度となく竜夜のファンに目の敵にされて来たため、竜夜を介して和解というか謝罪というかそういったことをされたことは何度もあるが、今回はそういう話ではない。
「待っ、違っ」
思わず服の裾を握り、縋り付いてしまう。竜夜が驚いて、けれどすぐに優しく頭を撫でてくれた。
「大丈夫。俺が必ず守るから」
「違……違うんだってば!」
「うん?」
絆されそうになったところで、大声を出して自制心を取り戻す。
「さっき友達と怪談してたの!それで、その…似たような状況になっちゃったから驚いただけ!」
捲し立てるように話すと、竜夜は「なるほど」と納得したように頷いた。
「紗奈は怖くても声が出ないタイプだもんな。気付かれなかったから抜け出せなかったってとこか?」
「なっ…んで知ってんのよ!」
実は私も爽ちゃん並みに怯えていたし、耳も塞ぎたい程に怖かったのだが、怖がるほど声が出ないタチなので他の子には気付かれなかったのだ。
竜夜が安心したように頭をわしゃわしゃと撫でて来る。私が照れ隠しに怒るとからかってきて、そのいつものやり取りに堪らなくホッとして、思わず瞳から涙が溢れた。
「わっ!?」
「な、泣いてないし!」
「いや明らかに泣いてるだろ…?」
「うっさい!!」
1度堰を切った涙は止まるところを知らず、竜夜から離れるのも不安でそのまま服の裾を掴み続ける。
何処か嬉しそうな竜夜が「一緒に帰るか」と言ってくれたので、素直に頷くことにした。
今日くらいは、頼ってあげてもいいかな。
なんて。
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