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3月7日 亜美と来
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北原くんは語り続ける。中学のある日、本気になった恋心の相手を。彼女に興味のなかった純粋な友人を。先程まで"桐竜"と名字で呼んでいたのに、急に下の名前に変わったということはそれだけ本気だったのだろう。忘れられない相手だったのだろう。
私は黙って北原くんの言葉を聞いていた。
「1年生の時は他クラスだったこともあって、あんまり喋らなかった。それでも相変わらずモテてることは聞いてたけど。来も違うクラスだったけど、こっちも変わらず俺と仲良くしてくれて。亜美と喋れないのは残念だけど、結構楽しかった。それが2年になってすぐ、亜美と来が2人で出掛けたって話を聞いたんだ。どうしてって思ったし、見間違いじゃないかとも思った。来に確認したら、本当だったけど。俺はその瞬間、本気で来を嫌いになりかけた。憎くて、悔しくて、友達なんかじゃないって思ったんだ。酷い話だよな、来は今も俺に優しいのに」
北原くんは深く息を吐いて遠い目をする。ずっと前から好きな相手が親友と一緒にいたのだ。しかも男女2人きり。いつ仲良くなったのかも分からない。焦燥感に苛まれるのも無理はないと思う。私も友達の誰かが羅樹と2人で出掛けていたら嫌だし、その子のことを嫌いになると思う。どんなに仲が良かったとしても、良い子だと分かっていても苦しくて、そんな自分が嫌いになるのだ。例え私が羅樹と恋人同士ではなく、嫉妬して間に入る理由がなかったとしても。
「…好きなんだから、当然じゃない?」
乾いた喉で精一杯言葉を捻り出すと、北原くんはこちらを向いて、悲しそうに笑った。
「そうだな。けど俺は…」
きっと北原くんも同じなのだろう。亜美と潮賀くんの関係に嫉妬して、2人を嫌いになることが出来なくて、自分に負の感情を向けてしまったのだ。苦しみを抱え込んで、密かに封じるしかなかった。きっと潮賀くんに亜美への恋心を伝えれば、優しい彼は簡単に身を引いて、自覚する前に恋を終わらせてしまうから。
一旦言葉を止めた北原くんは、再度口を開く。
「…亜美が、幸せそうだったんだ」
「え?」
「来といる時の亜美は、何かに怯えて線を引く様子がなかった。中学の時は、モテてはいたけど誰も彼もに気を持たせるような行動はしなかった。本当平坦。女子も男子も関係なく、誰が見ても誰に対しても同じ対応。1歩引いた、流すような対応だった。けど来には違った。懐いてるみたいに態度を緩めて、一緒にいるときは安心してるみたいだった」
目を細めて、亜美の表情を思い出す北原くん。私は1年生の時の亜美は噂でしか知らないけれど、確かに潮賀くんと一緒にいる時の亜美は、いつでも1番可愛らしいと思う。
恐らく潮賀くんが、亜美の心を溶かしたのだ。
そんなことは、中学の時から2人の側にいた北原くんが1番知っているのだろうけど。
私は黙って北原くんの言葉を聞いていた。
「1年生の時は他クラスだったこともあって、あんまり喋らなかった。それでも相変わらずモテてることは聞いてたけど。来も違うクラスだったけど、こっちも変わらず俺と仲良くしてくれて。亜美と喋れないのは残念だけど、結構楽しかった。それが2年になってすぐ、亜美と来が2人で出掛けたって話を聞いたんだ。どうしてって思ったし、見間違いじゃないかとも思った。来に確認したら、本当だったけど。俺はその瞬間、本気で来を嫌いになりかけた。憎くて、悔しくて、友達なんかじゃないって思ったんだ。酷い話だよな、来は今も俺に優しいのに」
北原くんは深く息を吐いて遠い目をする。ずっと前から好きな相手が親友と一緒にいたのだ。しかも男女2人きり。いつ仲良くなったのかも分からない。焦燥感に苛まれるのも無理はないと思う。私も友達の誰かが羅樹と2人で出掛けていたら嫌だし、その子のことを嫌いになると思う。どんなに仲が良かったとしても、良い子だと分かっていても苦しくて、そんな自分が嫌いになるのだ。例え私が羅樹と恋人同士ではなく、嫉妬して間に入る理由がなかったとしても。
「…好きなんだから、当然じゃない?」
乾いた喉で精一杯言葉を捻り出すと、北原くんはこちらを向いて、悲しそうに笑った。
「そうだな。けど俺は…」
きっと北原くんも同じなのだろう。亜美と潮賀くんの関係に嫉妬して、2人を嫌いになることが出来なくて、自分に負の感情を向けてしまったのだ。苦しみを抱え込んで、密かに封じるしかなかった。きっと潮賀くんに亜美への恋心を伝えれば、優しい彼は簡単に身を引いて、自覚する前に恋を終わらせてしまうから。
一旦言葉を止めた北原くんは、再度口を開く。
「…亜美が、幸せそうだったんだ」
「え?」
「来といる時の亜美は、何かに怯えて線を引く様子がなかった。中学の時は、モテてはいたけど誰も彼もに気を持たせるような行動はしなかった。本当平坦。女子も男子も関係なく、誰が見ても誰に対しても同じ対応。1歩引いた、流すような対応だった。けど来には違った。懐いてるみたいに態度を緩めて、一緒にいるときは安心してるみたいだった」
目を細めて、亜美の表情を思い出す北原くん。私は1年生の時の亜美は噂でしか知らないけれど、確かに潮賀くんと一緒にいる時の亜美は、いつでも1番可愛らしいと思う。
恐らく潮賀くんが、亜美の心を溶かしたのだ。
そんなことは、中学の時から2人の側にいた北原くんが1番知っているのだろうけど。
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