神様自学

天ノ谷 霙

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3月10日 カフェ

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眠い目を擦りながら、一旦帰った後で待ち合わせ場所に指定された駅までやって来る。昨日は鹿宮くんに言われた「夫婦みたい」という言葉が頭から離れず、全く寝付けなかった。何度も寝返りを打って、反芻して、ベッドの上でのたうち回ったのはあまり思い出したくない思い出だ。そのせいか、せっかく寝てもスーツ姿の少し大人になった羅樹を玄関で送り出す夢なんかを見てしまい、朝も頭を押さえて悶えた。乙女の憧れのような甘々ふわふわの夢を見た罪悪感と、もし本当にそうなったら…という期待が入り混じって混乱ししてしまった。
また思い出して頬が火照って来たので、誤魔化すように咳払いをする。今日は爽の話を聞くのだ。いつまでも浮かれ気分でいてはいけない。
そう考えて周りを見回すと、ちょうど爽が走って来るところだった。
「…待った?」
「ううん、全然。急がなくて大丈夫だったのに」
「や、いるのが見えたから」
「そう?ありがとう」
爽は流石厳しい運動部に所属しているだけあって、かなりの速さで走って来たのに息切れ1つしていない。昨日のように目も腫れておらず、落ち着いた様子だ。ホッと安堵しながら、どこに行くか問い掛ける。
「…あそこのカフェ」
「カフェ?」
爽の案内に従って店に入ると、クラシックな雰囲気でありながら温かみのある優しい内装が視界を包んだ。店内は程良く騒がしく、友達の声は聞き取れるが注意していない周囲の声は聞き取りにくいといったところだ。内緒話をするのに適している。爽の選択を褒めると、昔亜美とよく来た店なのだという。一緒に食事をしていると、亜美が他校の人から大声で告白されてしまってからしばらく来てなかった、というオマケ話もついて来た。亜美にも爽にも同情しながら、案内された席に着く。窓から少し離れた、外から死角になった場所だ。これは本当に内緒話にうってつけかもしれない。
「…何か食べる?」
「そうだね。私お昼食べて来なかったから…」
空腹だと腹を摩ると、爽が慌ててメニューを差し出してくれた。「爽も食べてないんじゃない?」と問い掛ければ、目を泳がせた後で遠慮がちに頷いた。待ち合わせの時間を中途半端にしてしまったので、昼抜きを覚悟していたのだ。爽も同じだったようなので、2人でメニューを見ながら注文を決めることにした。
「どれ食べる?」
「どれも美味しそう」
「だね。おすすめとかある?」
「これ、美味しかった」
爽は海老グラタンを指す。写真もぷりぷりの海老とこんがり焼き目の付いたとろとろのチーズが美味しそうだ。私は海老グラタンを注文することに決め、爽はカレードリアを選んだ。店員さんに注文した後、料理が来るまで少しの沈黙。
それを破ったのは、爽だった。
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